第8話 不可能を可能にする才能
裏闘技場での一件は瞬く間に広まっていった。
どうやら王国騎士団や魔法兵団も取り締まりに動きだそうとしていたようだが、あの水晶玉を通して観戦していた悪趣味貴族の中にかなりの権力者が紛れ込んでいたらしく、なかなか手を出せずにいたらしい。
そこへ俺が乗り込み、ルチーナを秘書としてヘッドハンティングしたわけだが、それをきっかけに大乱戦となった。
近くで張り込んでいた騎士たちが応援にかけつけた時には、すでにルチーナが闘士たちを半殺し状態にまで追い込んでおり、すぐさま御用となった。
当然、俺たちは巻き込まれた被害者として罪に問われることはない。
ルチーナは強制的に働かされており、俺はそれから開放するよう支配人であるガーベルに直談判をしに来たという流れで収まったのだった。
さらに、もうひとつ嬉しい誤算があった。
騎士団が裏闘技場にあるガーベルの執務室を調査した結果、彼女を引き入れるために商会と結託して王国議会に嘘の証言をさせていた証拠書類が見つかったのだ。
そう。
ルチーナを王都から追いやった商人とガーベルはグルだったのだ。
ヤツらは彼女の才能を独占し、おまけに安い賃金で死ぬまで働かせようという魂胆で計画を仕掛けていた。
……なんと浅はかな連中だろう。
人心掌握の基本がなっていない。
だからルチーナは簡単に俺の方へとなびいたのだ。
抑え込む気でいるなら、もっと強大な力を示し、抵抗など無意味なものだと刷り込まなくては。
さらに詳しく書類を見ていくと、この件に絡んでいる現役の騎士の名前がチラホラ見受けられた。
これを知った騎士団幹部が激怒。
すぐに名前のあった者たちに処分が言い渡され、次々と王都を去っていくこととなった。
こうして、彼女の無実は思わぬ形で証明されたのだった。
おかげで犯罪歴も消滅し、秘書として堂々と学園に連れていける。
最悪の場合、戸籍を偽装しようかとも考えたが、その策は不要になったな。
◇◇◇
騎士団での取り調べが終わって家に戻ると、すぐにルチーナを父上に紹介する。
「いやいや……まさかあのティモンズ家の若き天才鍛冶職人とは……」
まあ、当然の反応だな。
例の事件以降、工房を閉じた後については消息不明扱いだったらしいし。
ただ、父上も彼女の鍛冶職人としての腕は把握しており、また業界の事情にも詳しいため秘書としては十分な資質を有している。
さらに驚くべきは彼女の戦闘力だ。
《一流の鍛冶職人は一流の使い手であれ》――というティモンズ家の家訓が示す通り、ルチーナはあらゆる武器の腕前は一流レベルであった。
しかし、彼女には課題もあった。
いくら秘書という仕事上のパートナー的立場で学園に滞在することになるとはいえ、最低限のマナーや知識は身につけておかないといけない。
王立学園の生徒はその九割が貴族の子息や令嬢など上流階級の人間で構成されている。
そういった者たちに取り入り、卒業後は優良顧客として付き合っていく――俺が学園に通う一番の理由はそれだ。
なので、粗相をして「ギャラード家はダメだな」という烙印を押されるのだけはどうしても避けたい。
彼女はそれを理解し、俺が学園に通うまでの一ヵ月間、みっちり特訓をして完璧にこなせるようになった。
さらに、俺は屋敷近くに専用工房を建て、そこで彼女にある武器の製作を依頼しようと自作した設計図を持ち込んだ。
「専門家としての率直な意見を聞きたい。忖度はなしで頼む」
「は、はい」
俺から設計図を受け取り、ひと通り目を通すと、
「こ、これは……今までに見たことも聞いたこともない斬新なデザインと性能ですね……」
大きく目を見開きながら、ルチーナはそう告げる。
だが、すぐに彼女の表情が曇りだした。
「あの……大変言いにくいのですが……」
「もしかして、素材についてか?」
そう尋ねると、ルチーナはビックリしていた。
「それについては俺に考えがある」
「考え?」
「専門的な知識に長けている者を学園で探す。というか、もうすでに声をかける相手についてはピックアップしてあるんだ」
「もうそこまでお考えになられているとは……さすがです、レーク様」
事前の調べできちんと把握しておいたからな。
彼女に武器の大まかなパーツを任せ、もうひとりには肝心の素材部分を使用した武器の核となる部分を作り上げてもらう。
くくく。
設計図に記した通りの効果を実際に得られれば、俺の唯一の弱点が消え去る。
何せ、この弱点の影響で俺の下馬評は最下層にいるのだから。
ほとんどの御子息や御令嬢は「コネ入学か」とあきれているだろう。
だからこそ、こいつの力を目の当たりにした時……きっと学園中が度肝を抜かれるぞ。
その時の驚愕と焦燥に染まった顔を見るのが今から楽しみだ。
こいつが実現したあかつきには夢――能力ある者たちを働かせ、雇い主である俺は楽して儲けられるという生活の実現にまた一歩近づく。
なんてめでたいのだろう!
「入学までは残り二日……とはいえ、こいつはすぐに必要となる物でもないから、二週間くらい猶予があればできるか?」
「お任せください! 命に代えても必ずや完成させてみせます!」
「頼もしいな。やはり君を選んで正解だったようだ。しかし、俺の許可なく勝手に死ぬことは許さんぞ」
「レーク様ぁ……承知いたしました。たとえこの身がドラゴンに食いちぎられようとも生き抜くと誓います!」
ふっ、ルチーナのヤツめ。
すっかり俺に入れ込んでいるようだな。
おかげで扱いやすくて助かる。
……まあ、彼女のことだから本当に体を食いちぎられてもなんやかんや生き延びそうな生命力を感じるんだよなぁ。
あと、実は俺が悪の覇道を進んでいると知ったら、正義感が暴走して裏闘技場の連中と同じ目に遭うのだが……大丈夫。
きっとバレない。
なぜなら俺は天才だから!
――そして二日後。
ついに入学式当日を迎えた。
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