好きと言ったのに、なんで?せめて最後に理想を叶えて───

学生作家志望

私はこのまま好きでいたい

出来るならずっとこのままで。

「私、ずっと一緒にいたいな孝俊たかとくんと。」

夜の街はだんだんクリスマス色に染まっていった。

赤も緑も黄色も色んな光が混ざりあって私と孝俊くんの会話を演出する。


「俺も、、、好きだよ。この時間もミナも。」


───やった!!胸がドキドキするのでさえも喜びに感じた。


街はもう完全にクリスマスのムードに染まっている、まだあと3日はあるのに。



言葉が詰まりそうになって焦ったように喋る君。


「そういえば、今日の夜ご飯どうする?なんか食べたいものとかある?」


孝俊くんに言われるとなんだか嬉しかった。私を気遣ってくれてるようで。


「そうだ!じゃあコンビニでお弁当はどう?ナポリタンとか食べたいな。」

ナポリタンを同じフォークでくるくるって。私の理想だ。



「ナポリタンか...ナポリタンね!おーけ!じゃあ俺はどうしようかな。」


────え?違うよ?一つ分を分け合うんだよ?



「また、あれするの?」



「当たり前じゃん、いつもしてるじゃん!その為に頑張ってバイトしてるんだから。」



「わかったけど後でちゃんと払ってね。」


「なんで?私、孝俊くんが悲しむような事しないもぉん。」

ため息が出る。


────私のこと疑うなんて、私のこと嫌いなの?


「嫌いじゃないよ!」


「本当に思ってる?」そう聞いたら孝俊くんはやけに嫌そうな顔をした。


「だから!思ってるって...!!」



────わかったよ、もういい!早く近くのコンビニ入ろっ!

私は孝俊くんの手を取って走った、走る必要もないのにまた私は自然と理想を優先してしまった。



手を握って、一緒に走る、少し息が荒い彼氏を見る、私は体力に自信があるのにそれを見てなぜか息があがった。



「あったよ。どれにする?ナポリタン。」


商品棚に丁寧に並べられているナポリタンを一つ一つ眺め回す。


「ねえ、これにしよ!これにしよ!!これにしよ!!!」


「ああ、おっけおっけ、」


私が選んだのは大好きなソーセージがカットされていたナポリタンだった。茶色い容器に詰められたナポリタン、2人で食べるのには少ない。でもそれをしたい。



────空腹なんてどうでもいい。これが出来るなら。



「それで?どこで食べる?」


外に出たらすぐ聞いてきた。


「近くにイルミネーションが綺麗なベンチあるからそこにしよ?」


これで少しでも距離が近くなれば─────またそんな勝手な期待をする。



「わかった。行く。」



「やったあ!」



ベンチに2人で座って、ゆっくりナポリタンを食べる。時間が経つのが少しでも早まらないようにと。でもそう思うほどに時間は加速する...



「あっ!時間です。今日はここまでですね。」


孝俊くんが突然立ち上がって音が鳴ってるスマホの画面を見せて言ってきた。


「え?もう?そんな時間かぁ〜」



「お支払いは4時間コースの8万円です。」



「ほら見て!こんなにいっぱいお金あるんだぁ、今日は12万円持ってきてるから余裕だよ!」



私のお父さんはお金持ちで毎月仕送りという名前でお小遣いをくれる。



「8万円お受け取りします。本日はありがとうございました!」



「うん!また明日ね!」

少し変な顔をした後に孝俊くんは走って公園を出ていった。



その背中をじっと見つめながらナポリタンをまた食べた。




今度はあっという間に食べ終わった。



 ◆



「なあ、ミナ。俺さ。実はさ。」


───ねえねえ次あっち行こうよ!お願いお願い!


今日は近くにあるテーマパークに遊びに来た。


でもやっぱり孝俊くんは今日も何かを言いたそうにしている。


もしかして何かバレちゃったりしたのかな?


でもそんな事なんて別にいいや。この時間が続くなら。



「ああまじ?あのジェットコースター乗るの?」


「乗る!乗るよ!もしかしてビビってるの?」


「いや、別にそんな事ないんだけどさ、」


「あれ結構並ぶよ?いい?時間。」


「ヘーキヘーキ。」


また理想が出た。イケメンの彼氏とジェットコースターに乗って彼氏を逆に私が守る理想だ。


結局並ぶのに1時間も掛かった。


でもその代わりに理想は叶った。こんなの簡単だ。


ジェットコースターを降りたらすぐに近くにチキンが売ってあった。やたら並んでいて自然と美味しそうに見える。



「あれ食べたい!あれ食べたい!」


「ああ、食べよっか。」


たまたまショーも近くでやってたから、持ってきてたレジャーシートに座ってまた2人で食べた。


チキンはやっぱりすぐ無くなった。ショーを観る時間もやっぱり、短く感じた。



「あ!そうだ!ミナ、観覧車乗らない?」


珍しく私に提案を孝俊くんがした。


「いいけどなんで?」


いつも私の事を優先してくれているから自ら提案してきたのには少し驚いた。


「ほら、もう夜になってきたから、上から景色見たいんだよ。すっごく、綺麗だからさ!ね?」


「うん。わかった。」


観覧車はベタ過ぎてあまり理想には入っていない。


─────本当にやりたい事は違うんだけどなぁ。


心の中でぼやいた。


観覧車はさっきと違って空いていたからすぐ乗れた。


観覧車に乗ってすぐ孝俊くんは少し気まずそうな顔をして言った。


「ねえ、ミナ。少し言いづらいんだけどさ、」


「え?何?」


「俺、明日で辞めるんだ。」


孝俊くんから言われたその言葉のせいか、私は座ってるのにくらっとした。


「えっ?なんで、」


「いや、ちょっと色々あってさ...」


そのはっきりしない答えにやけに不安になってイライラした。


「なに?はっきりしてよ!なんで?」


「そろそろクリスマスでしょ?」


「クリスマスは私と一緒に居てくれるよね?」


「いやだから、それは無理なんだ。クリスマス前日にやめちゃうから。明日だから。」


「なんで...」


「実は、最近、好きな人が出来たんだ。」


────え?


「いや、ごめん。言っちゃいけないよね。こんなこと。でも、はっきりさせたい。」


「うん、、」


言葉はもうはっきり出ない。返事しか出来ない。


「俺、クリスマスの日に告白をするから。そう決めた。だからもう、こんなことやめないと。大学だってもう、卒業間近だしさ。」


「じゃあ、せめて、最後に私のとっておきの理想を叶えて。」


「とっておきの理想?」


「私ね、1年前くらいかな、彼氏に急に振られてさ、だから私、それを忘れようと思ってそれにずっと孝俊くんを付き合わせちゃってたんだよね。」


「いや別に。そんなの気にしなくてもいいよ...」


「でもその彼氏とはね、ハグもしてないし、キスもしてないんだ。」


「え、じゃあ。」


「ねえ、お願い、明日の夜まではやめないでよ。明日の夜にハグしたい。最後に。それでいいから。それで、全部忘れられるから。」


「うん...わかったよ。それでいいよ。」


「よかった。私、明日で全部忘れられるんだ。」


「そう...だね。」


観覧車がちょうど1番下に戻ってきた。


空気がすごく重かった。

でもその重いのを孝俊くんが必死に戻そうとしてくれた。


「次、何乗ろっか?なんでもいいよ!」




「じゃあ、メリーゴーランド」


私は適当に乗り物を選んだ。もう、どんな理想もどうでもよくなった。全てが打ち消された。


 ◆




夕方になって、孝俊くんがやってきた。


孝俊くんが来たのになぜか今日は寂しい。


「それで、今日はどこに行く?」


「私、クリスマスツリー見たいな。確か、駅の方にでっかりツリーあったんだ。」


「わかった、行こ。」


クリスマスには届かないけど、少しでもクリスマスの気分を味わいたい。そう思っていた。



ツリーはいろんな形の星で輝いていた。


「写真でも撮る?」


「うん、」


写真を撮った。でもその写真を見ることはしなかった。


「なんで?見たくないの?」


私が自然と顔を画面から離したことが気になったらしい。


「私、可愛くないし、写真の写り、全然よくないから。見たくない。」


「あ、ごめん、嫌なこと聞いた?」


「いいよ。別に。」


私は誰が見ても不機嫌だった。でも別に怒ってるわけじゃない。少し辛かっただけだ。


「カフェ入らない?この近くにいいところあるんだよ。」

そう、孝俊くんが言った。


「うん。入ろ。」


他に何も考えていないデート、結局最後は適当なのか、カフェに流れで入った。


適当にアイスコーヒーを頼んで、


私は急かすように話そうと思ってたことを話し出した。


「孝俊くん、私ね、昨日も言ったんだけどさ、今までさ、こんなことに付き合わせてごめんね。」


「なんで?別にこれが仕事だから。嫌だったらとっくにやめてたよ。」


「そんなのわかってるよ、でも、私は謝りたい。自分の理想ばっかり押し付けて、お金ばっかり使って、このままじゃ罪悪感と後悔で潰れちゃうよ。」


本当はこのままでいたい、好きってもっと言って欲しい、それが私の理想だ。


その理想はもう叶えられない、だから今こうやって謝っている。


「とにかく、もういいよ。暗い話は、もうやめよ!ほら、なんか食べようよ!」


「うん。ごめん。こんなに暗くしちゃって。」


「なんか食べたいものある?」


「じゃあこれ?とか、」

私が指さしたのは大好きなモンブラン。


「これを1つ?」


「うん...いや、でも、孝俊くんも好きなもの頼んでよ。」


「なあ、ミナ、これも理想の一つなんでしょ?ならやってもいいよ、なんでやらないの?やりたくないの?」


「そりゃあ、やりたいよ。でも、それを強要するのはただのわがままだから。いいの。」


孝俊くんは抹茶ケーキを頼んだ。


フォークは2つ、理想の形はそこにない。


ゆっくり食べることなんてなく、すぐに食べ終わった。


アイスコーヒーも気付けば無くなった。


外はもう完全に夜だった。


「ミナ、もう夜になった、そろそろ、行こう。」


「理想...理想の形、最後に忘れたいこと、」


「ねえ、行こ!早く!」


────孝俊くんは私の手を取って走り出した。


「ミナ、全部忘れさせてあげる、わがまま受け止めるから、理想を全部叶えるから、元気出して!」


「好き...だよ、孝俊くん。」


「ありがと」


私の最後の理想、わがままの場所は



─────イルミネーションの光の中




「ねえ、ここでいいよ」


「どう、したらいい?」


「ハグだけお願い。」


孝俊くんはこれで最後なのに今までで1番私に近付いて


私を抱きしめた。


「もういいよ。ありがとう。」


「え?もういいの?」


「いいよ。」


「最後に、ずっと好きだよ。それだけ伝えたかったから。そんなに時間掛けたくなかったんだ!」


「じゃあ、今までありがとう。」


結局、忘れることなんてできなかった。最後のお金を私は取り出そうとした。


────待って!


孝俊くんの声に手が止まった。


「まだ我慢してるんでしょ?教えてよ、じゃないと俺もスッキリしないから。全部吐き出してよ。それでいいから!」


「孝俊くん、本当はね私もっと一緒にいたい、何も忘れられてなんてないし、忘れたくないよ...本当はまだまだやりたいことあるし、」


「これが全部嘘でも、設定でも、物語でもいい、なんでもいいから孝俊くんの近くにいたい。それが私の1番の理想だから...」


「ねえ、もう一回だけハグ、したいな。」


「うん。いいよ。」


今度はさっきよりずっとずっとゆっくり抱きしめてくれた。


その時────孝俊くんのスマホから音が鳴った


「あれ?今日の時間もう過ぎちゃったんだ。」

孝俊くんがそう言って私から手を離した。


「孝俊くん...バイバイ。」

さっき取り出そうとしてたお金を一気に出して孝俊くんに渡した。


「ありがとうございました。ぜひ、また、レンタル彼氏をご利用ください。」


返事は間に合わなかった、孝俊くんはすぐ走って行ってしまった。


誰かに電話を掛けながら、その電話相手の妄想が1人、勝手に広がっていった。


いつも、連絡しているレンタル彼氏のホームページに彼はもう居なくなっていた。


私は無意識に電話を掛けてしまった。


「あの、孝俊くんってもう、辞めたんですよね。」


「はい。そうですよ、ちょうど今日で終わりです。」


「もしかして、孝俊くんのような人をお探しですか?でしたら、最近入った、恭吾きょうごくんも同じ設定でやってる子ですよ!」


「そうですか...ありがとうございます。」


私はまた無意識に電話を切った。


寒いはずなのにそんな事も忘れて夢中になりながら私は検索していた。


ネットの動画の中に大量の失恋ソングが表示される。


スマホのネットの履歴の中にレンタル彼氏の履歴がたくさんあるのを見ながら


私は動画を開いた。


でも変だ。なんでだろう、何一つ共感できる歌がない。


私は腰掛けていたベンチから立って履歴にあったレンタル彼氏のホームページを開いて、


孝俊くんに似ているという恭吾くんの写真を見ながら


財布の中身を確認した。

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