第3話 シェイクハンド

夏の青空を背に、汽車が煙を吐きながら線路を上って来る。

汽車はやがて速度を落とし、駅のホームで停止した。

扉から、まばらに降り立つ乗客たち。

その中に、一組の家族がいた。

「夕季、ここが阿波根町だぞ。」

「ここまでが長かった~。」

「さ、行こ。」

「しゅっぱーつ!」

この家族は、後に世界を巻き込んだ大戦の中心人物となる。

父、夜羽落葉。母、頼子。そして、息子の夕季。

三人は、父の夏の休暇を利用して、家族で阿波根町に旅行に来ていた。

さて、ちょうど駅舎に入ろうとしたとき、ふいに声がした。

「ようこそいらっしゃいました、阿波根町に!」

三人が振り向くと、そこには夕季とそう年齢も変わらないであろう、

幼い少女が下げた頭を上げて、ニコッと笑っていた。

「あら、こんにちは。お出迎えありがとね。」

母の頼子が言う。

「偉いなぁ。」

落葉が感心したように頷いた。そこに、駅員が現れた。

「こんにちは。この子うちの娘なんですよ。

暇だからってついてきちゃって。」

「そうなんですか。」

「あたし、春野花恋です!よろしくね!」

花恋は、目の前に居た夕季に手を差し出した。

「ほら、夕季、挨拶。」

「…うん。」

少し遠慮がちに、夕季も手を差し出した。

「俺、夜羽夕季…よろしくな。」

「よろしく!ゆっきーって呼ぶね!」

「ゆ、ゆっきー。いいよ。」

二人は握手した。花恋が笑いながらぶんぶん腕を振る。

「さ、予約してた民宿行こうか。」

落葉が夕季の肩に手を落とす。二人は手を離す。

「じゃ、じゃあな、花恋。」

「ゆっきー、まったねー!」

「じゃ、これで。」

「楽しんでってくださいね。」

落葉と花恋の父が挨拶を交わす。一家は駅を出た。

「民宿ってどこ?」

夕季が母に尋ねる。

「ちょっと歩くけど、‘‘なあしさす‘‘ってとこよ。」

「ふーん。」

変な名前だな、っと夕季は思った。

しばらく歩くと、民宿、「なあしさす」は確かにあった。

「すみませーん、予約していた夜羽というものですがー。」

暖簾をくぐり、土間で待つと、女将がやってきた。

「あら、こんにちは。遠路はるばるよう来なさった。」

「今日から三日間、よろしくお願いします。」

「ええ、ええ。こちらこそ。さ、部屋はこっちでっせ。」

夜羽家は靴を脱いで上がると、女将の後をついていった。

───温泉から上がった三人は、窓を開け放った部屋でくつろいでいた。

夕季は、先ほど会った少女のことを鮮明に思い出していた。

部屋からは、阿波根の景色がよく見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る