第2話 成り行きで付き合い始めた彼女はヘンタイだった⁉

「ねえ、岸本さんは、行きたいところってある?」


 学校を後に通学路を歩いていると、隣にいる稲葉玲奈いなば/れなから問いかけられた。


「急に言われてもな。どこでもいいよ。稲葉さんに合わせるけど」

「私に? じゃあ、あなたが好きな事って何?」

「俺は、漫画を読む事かな」

「だったら、街中に漫画喫茶があるから、そこに行かない?」

「漫画喫茶?」

「そうだよ。漫画が好きなんでしょ」

「まあ、そうだね」


 いきなり関わり始めた彼女と共に、薄暗く密室にも近い場所へ行くなんてと、岸本和樹きしもと/かずきは妄想するだけでも緊張し始めていた。


 道を歩いていると、気づけばアーケード街の入り口を通過しており、二人は目的としていた漫画喫茶の前まで辿り着く。

 漫画喫茶があるビルの一階。その入り口の近くには、二階部分が漫画喫茶だと記された看板が立て掛けられてあった。


「念のために聞くけど、二人で同じ個室に入るってこと?」

「そうだよ。漫画喫茶って、二人でも入れる場所ってあるでしょ?」

「あるにはあるけど。俺と二人きりでも大丈夫?」

「そんなの気にしないよ。付き合ってるみたいな関係だしね」


 彼女は自然体な表情でニコッとしてくれたのだ。






「では、ごゆっくりとどうぞ」


 漫画喫茶の会計カウンターでプランを決めた後、二人は指定された個室がある場所まで移動する。


 二人が歩いている周りには巨大な本棚が設置されており、パッと見ただけでは、どこに何があるのかわからないほどだ。


 今いる場所は、週刊雑誌系の漫画の単行本が取り揃えられているエリアらしい。


「岸本さんは、どんな漫画が好きなの?」

「えっとね……」


 和樹は本棚を漫勉なく見渡す。


「ここにはないかも」

「でも、男子って、週刊系の漫画って読むものじゃないの?」

「そうとは限らないんじゃないかな。人によると思うけど」

「そうなんだ、意外ね」


 玲奈は少々首を傾げていた。


「俺は漫画っていっても、小説の漫画版なんだけど」

「小説原作の? どんなの? 文豪が書いた小説の漫画バージョン的な? 人間失格とか?」

「まあ、そういう漫画版もあるんだけど。俺の場合は――」


 和樹は彼女と共に、店内を歩きながら言葉を濁していた。


「こんな感じの漫画かな」


 和樹は特定の本棚から漫画が手にし、その本の表紙を彼女に見せたのだ。


「へえ、そういう感じなんだね」


 玲奈はまじまじと和樹が手にしている漫画の表紙を見ていた。

 その表紙には、剣を持った物語の主人公と、魔法の杖を手にするヒロインが描かれてあったのだ。


「そうなんだよね。小説って言ったら文豪の方だと思われるよね」

「そうね。でも、その元になった小説って、どんな感じの?」

「この漫画の原作はね。ネット系の小説で、書籍化はされてないんだけど、いきなり漫画化されたみたい」

「へえ、原作は書籍化されてないって珍しいね」

「でも、電子書籍化はされてるみたい」

「時代だね。今はそうなってるんだ」


 玲奈は感心しながら相槌を打っていた。


「私も小説はたまには読むんだけどね」

「そうなの?」

「私の家には色々な小説があったりするからね。でも、昔の文豪のしかないんだけど」

「それは逆に凄いね」

「私の家族は、作品を集めるのが好きみたいで。小説の他にもDVDとか、CDもあったりするんだよね」

「コレクター的な?」

「そんな感じね」


 色々なモノが家にあるのも羨ましいとも感じる。


「まあ、それより、その漫画を一緒に見たいんだけど。そろそろ個室に行かない?」

「う、うん」


 和樹は彼女と共に、指定された個室へと移動するのだった。




「へえ、面白いね」


 和樹は、玲奈にその漫画を渡し、読ませていた。

 彼女が好きな傾向のある漫画らしい。

 物語の内容としては、ファンタジー系で、主人公が無双していくといった流れである。

 話のテンポが良く、複雑な設定もわかりやすく表現されている事から、初見でも比較的読み易い物語になっていた。


 和樹は彼女と隣同士でソファに座っているが、玲奈は少し室内の気温が暑く感じているようで、制服を若干着崩し始めていたのだ。


 次第に彼女の下着が見え、その胸の大きさが露わになっていく。


 そ、それにしてもデカいな……。


 和樹は漫画の内容や彼女のリアクションよりも、玲奈の如何わしい体に対して意識を向けるようになっていたのだ。


 い、いや駄目だ。

 こんな密室で、そんなヘンタイ的な事を考えては――


 何とか自尊心を維持しようとするが、密室という事もあってか興奮が収まらなくなっていた。


「あ、暑いならさ、少しクーラーでもかける?」

「私は別にいいけど」

「え? でも、暑そうにしてたから」


 和樹は目をキョロキョロさせ、挙動不審な感じになっていた。


「もしかして……私の胸が気になるとか?」

「ま、まあ、そうだけど……稲葉さんは他人に見られるのが嫌なんだよね?」

「……そ、そんなことはないよ……」

「で、でも、さっき、教室では恥ずかしそうにしてたから……」

「それはね、いきなり見られたからよ。ねえ、岸本さんは見たいの?」

「え……え⁉ そ、それは」


 玲奈は漫画を閉じて近くのテーブルに置くと、隣にいる和樹にグッと距離を詰めてくるのだ。


「い、いや、そうじゃないけど」

「でもさ、エッチな事を考えてそうな顔をしてるよ」


 彼女は思わせぶりな顔で、和樹の事をまじまじと見つめているのだ。


「私、見せてもいいよ♡」

「え……」


 突然のとんでも発言に、和樹は言葉を失っていた。


「み、見せるって⁉」

「だから、下着とか」


 普段は冷静な言動が多い彼女。

 けれど、密室で二人きりになった時から妙な気配を感じ始めていたのだ。

 その違和感が今明らかになりつつある状況なのである。


「私、本当はヘンタイなの」

「へ?」

「私ね、学校では普通に装ってるけど。エッチなことが好きだったりするの」

「え、ど、どういうこと?」


 和樹は慌てていた。

 隣にいる彼女は制服を着崩した状態であり、その制服からは普通にブラジャーも見えるし、谷間も少し見える。


「さっき教室でエッチな動画を見ていたの」

「な、なぜ?」


 脳内での処理が追い付かなくなっていた。


「だから、ヘンタイだって言ったでしょ。それと今日はね、私の秘密を知った人と付き合おうと思っていたの。そこで丁度、あなたがやって来て。岸本くんなら口も堅いから大丈夫かなって事で誘ったの」

「で、でも、俺じゃない場合もあったんじゃない? 他のクラスメイトが戻ってくる場合もあるだろうし……」

「そうだね。でも、そういうスリルを楽しみたかったの。そういうのって、興奮するでしょ。まあ、本当のことを言うとね、岸本さんのリュックが教室にあることはわかってたわ」


 玲奈は清楚系に見えて、とんでもないくらいのヘンタイ思考だった。


 今、彼女との距離が物凄く近い。

 何かの手違いでキスをしてしまってもおかしくない状況である。


 中原梨花なかはら/りかからフラれ、それから玲奈とは成り行きで付き合うことになったものの、今後の学校生活がどうなるか、和樹は少し不安になって来ていたのだった。

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