第15話
からんころん、とバーの入り口の扉を開けて、来客があった。
スーツを着たガタイの良い男だった。
筋肉質で、背丈がぬっと高い。短く整えられた赤い髪に、くたびれた黒いスーツ姿の青年。彼は”左頬にだけヒゲ”が生えており、いや、つけヒゲか? これがペルソナになっていると気づく。
片ヒゲの男。
「鼻孔をくすぐるトウモロコシの発泡酒。ジュニパー・ベリーにボタニカル。一度は訪れたいと思っていた。味わってみたいと思っていた。夢にまで見る類稀なる酒好きの作るカクテルを」
ピ、と彼はアイデンティティカードを片手に、なんか、すげーキザっぽいセリフと共に現れた。
絶対こいつ扉の前で待ってたろ。
「あらン、いい男」
と、マスターはウキウキ小躍りする。
片ヒゲの男は、まぁ、確かに。三番街フォーク村にはいないような、ハードボイルドな雰囲気を持っていなくもなきにしもあらず。
「待たせたかな。俺の名はヴィルヘルム。”コロシアム”のあるバブルから来た闘技者だ」
「よく来てくれた。コロシアムの名闘技者である君が来てくれるのなら、心強い」
そう言ってヤマトは席を進める。
座ってなかったのは、客を待ってたからなのか。
「どうぞ。当店のオリジナルカクテル”真夏の秋”よン」
「うまそうだ。いただきます」
そう言って、ヴィルヘルムという男は酒をちびりと飲み、ん~うまい! と叫ぶ。
僕が言えた義理はないのだけど、カクテルは叫びながら飲むものではない。
「助っ人は? まさか、彼ひとりとは言わないだろ?」
「彼を初めとする10人の闘技者が来てくれた。ヴィルヘルムはそのリーダー。魔力Lv.165。戦闘の天才だよ」
「わお、新入りに抜かされる己の凡才を呪うわー」
こちとら何年レベリングに勤しんでいると思ってるんだ。
それで魔力Lv.148だぞ。なのに、こいつはもう165。成長速度が段違いだ。
大仰に驚く僕を見て、ヴィルヘルムは首を傾げる。
「君は?」
「僕の名前はクロック。なんか、この村のヒーロー的なことをしている」
「クロック。聞かない名だ。しかし村長からずいぶん厚い信頼を受けていると見える。此度の幽王組殲滅作戦、ともに励もうじゃないか」
「励むねぇ……。なぁ、あんた」
僕は一応、彼に聞いておこうと思った。
彼が、あまりにも気楽に見えたからだっただろうか。
それは負け惜しみの意地から出たものか、それとも今後の動向の確認のためだったか。
「闘技者って、人間を殺すことに躊躇いはないのか?」
複数人で任務にあたるのならば、擦り合わせておかなければいけない絶対条件。
励む、と言ったな、彼は。
これから僕らは、ヤクザの事務所にカチ込みに行くんだぞ。
「殺すさ。殺されたくないからね」
「闘技ってことは、殺し合いの経験は薄いんじゃないか?」
「コロシアムを見たことがないのか? 選手はシールド魔法で保護されているから、俺たちは遠慮なく魔法をブチかませるんだ。コロシアムで勝つことと殺し合いで殺すことは、シールドがあるかないかの違いだけだ」
「全然違うでしょ。いざ殺す時に躊躇わないでよ」
「躊躇ったのは、初めて人を撃った時だけだ」
「どこのガンマンだよ」
バブルが違うからか、どことなく違う世界の人間という感じがする。
マスターはそんな異国情緒漂わせるヴィルヘルムに、「素敵ステキ~」と身をくねらせている。
「マスター、僕にもジンジャーエール」
「俺もおかわりを貰ってもいいかな。もっと色んな味を楽しみたい」
「任せてン!」
シャカシャカ、とマスターは楽しそうにカクテルを振る。
バーのマスターが、なんかシャカシャカやってるこの仕草。お洒落で上品に見えるが、実際は混ざりにくいものを物理的に均等にしているだけに過ぎない。力業だ。
はてさて、寄せ集め戦隊VSヤクザか。
どんなカクテルパーティになることやら。
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