俺のスキルは最強チートの『経験値強奪』で、さっき100億兆レベルを達成したんだってさ。

蒼き流星ボトムズ

俺の親父は何度も強盗事件を繰り返していたが俺の幼少時に逮捕され、その翌々月に死刑が執行された。

俺のお袋は売春婦で歳を取る度に所属する店のランクを落し、一昨年窮死した。

俺は生きる為に強盗傷害を繰り返し何度も収監され、5度目の服役中に15歳を迎えた。

「規則だから釈放するんだぞ！　オマエみたいな屑は本当は今すぐ縛り首にしてやりたいんだからな！」

少年刑務所長様が出所日に浴びせてくれたありがたいお言葉だ。

出所はありがたいが行く当てが無い。

親父もお袋も故郷で人を殺してこの国に逃げ込んだ人間なので、俺には両親の故郷を頼ることすら出来なかった。

仕方がないので俺が大嫌いな教会に向かう。

俺は神や聖職者や教会や教団や教義や教徒や教典を憎んでいたが、生き延びる為にはこの世で最も憎悪する炊き出しを乞わねばならなかった。

『何だ？

いつもと違うじゃねえか…』

教会の近くまで来た俺は、門前の様子が普段と違うことに動揺する。

いつもは人影疎らな教会だったが、今日は人手でごった返している。

『お、俺の分の配給が無くなるんじゃねえか！？』

何だかんだ言って、炊き出し配給を期待していた俺は教会を囲む群衆に怯える。

俺は炊き出しにありつく為に、強引に人込みをかき分けて進んだ。

だが、すぐに気づく。

今日行われているのは炊き出しではなく、特別な宗教の祭典か何かだということに。

『ま、祭りなのか？　え？　今日は炊き出しとかない訳！？』

いつもは大きな鍋が設置されている玄関広場には巨大な水晶玉が置かれ、その周囲で人々が一喜一憂して騒いでいる。

残念ながらシチューの匂いはどこからもしてこなかった。

俺が不安気に辺りを見渡していると、神父が偽善的な笑顔を顔いっぱいに張り付けて演説を始めやがった

「さあさあ！　まだスキル授与の儀がお済みでない方はおられませんか～？

15歳の誕生日を迎えた方なら誰でも儀式を受けれますよ～！

《勇者》や《大賢者》のスキルを引き当てたら帝都の英雄学校に無料で入学できますよー！

神の愛は皆に平等でーす！」

ふむ。

よくわからないが、15歳になったら国やら教会がスキルをくれるらしい。

そんな事は親も憲兵も刑務官も誰も教えてくれなかったが、この異様な人だかりを見るにそんな事はごくごく一般的な社会常識なのだろう。

俺は何も知らないが、誰も何も俺に教えてくれない事だけは知っている。

シチューにはありつけなかったが、スキルが貰えるなら悪い話ではない。

これで何とか飢えずにすむかも知れない。

『俺も15歳なんだ。』

神父の前に進んだ俺は、ただそう呼びかけただけだ。

自分の歳を申告しただけだぜ？

その瞬間、あれだけの喧騒が一瞬で静まり群衆が一斉に俺を睨む。

向こうでパンフレットの様な物を配布していた教団騎士が慌てて神父と俺の間に飛び出して来る。

静寂　静寂　敵意　警戒　静寂　侮蔑　敵意　憎悪　静寂　敵意

何のことはない。

今日も世界はいつも通りなのだ。

「盗賊の息子だ！」

「人殺し！」

「こそ泥野郎！」

「乞食の分際でなんでこんなところに！」

「淫売の息子！」

「親が親なら子も子だな！」

「失せろ盗賊！」

「殺人犯！」

「悪の芽は早めに摘まなきゃ！」

「衛兵何やってんの！」

「犯罪者は所詮犯罪者！」

「少年法は早急に改正されるべき！」

「屑が更生する訳がない！」

「顔つきなんか親父そっくりだな！」

「蛙の子は蛙！」

「売春婦なんかに子供を産ませるな！」

「死刑の法定年齢を引き下げなきゃ！」

群衆がひそひそと騒ぎ出す。

彼らの意見には概ね賛成なので特に反論はしなかった。

『俺、15歳になったんだ。　スキルくれよ。』

今度は完全に場が静まり返る。

辺りを夜の様な静寂が支配し、雀が鳴き声が聞こえ、やがてその雀も黙った。

『2年くらい前だったかな。

ムショにぶち込まれる前にここでシチュー貰ったんだ。

旨かったよ。』

神父も教団騎士も群衆も無言で目を見開き、ただ俺を見つめていた。

『今日がアンタらにとって大事な日だって知ってれば遠慮したんだがな…

なあ神父さんよぉ。　　

今日って炊き出しやってないの？』

神父は緊張した面持ちで深呼吸すると

「炊き出し配給は明後日から再開されます。」

と感情を押し殺した声で答えた。

その場に居た全員が殺意のこもった眼で俺を睨み付ける。

な～んだ、教会もスラムも大して変わらないじゃねえか。

親父、済まなかったな。

アンタの言う通り神も悪魔も似たようなものだったよ。

『シチューは諦めるよ。

悪いな楽しい祭りの邪魔をして。

もう帰るからスキルくれよ。』

俺がそう言った瞬間、教団騎士と神父が更に目を見開いた。

「いや…　　　それは…」

『ん？　俺がスキルを貰うことは、法律で禁止されてるのかい？』

「いや…　　法的には問題はない。」

『じゃあ。　俺がスキルを貰うことを、神様が禁止しているのかい？』

「いや…　神は…　　平等に祝福…　　する…」

『へー、そうかい。　　じゃあ問題はないな。』

「…。」

水晶玉に近づく俺を教団騎士が止めたそうにするが制止はしない。

法的に問題が無いというのは事実なのだろう。

『この水晶玉に触ったらスキルが貰えるんだろ？』

「「「「あっ！！！！！」」」」

多くの者が一斉に悲鳴を挙げる。

一瞬遅れて教団騎士が俺の肩に手を掛けようとした瞬間。

ゴテゴテした下品なランプが激しく点灯し耳障りなファンファーレが響き渡った。

…俺、電飾嫌いなんだよね。　

お袋を連想しちゃうからね。

《おめでとうございます！！！　　SSSスーパーレジェントレア発現しました！》

そしてどこからともなくアナウンスが聞こえ、正面側の教会の白壁に大きく文字が映し出される。

その場に居た全員が喰い入る様に壁を読んでいた。

『なあ。　　あれ何て書いてるんだ？

読んでくれよ。

俺、字とかわからねえんだ。』

誰も答えてくれない。

ただ群衆の発するざわざわが少しずつ大きくなり、それぞれの表情が苦悶のそれになっていく。

『おーい、誰か教えてくれよ。

何？

悪いスキルなの？

食べていくのに使えそう？』

人ごみに呼びかけるも誰も俺とは目を合わせてくれない。

おいおい人に質問されたら、せめて相手の目を見るのが常識なんだろ？

なんだ？　刑務官は俺に嘘を教えたのか？

群衆は口々に「経験値」「全世界」「強奪」「レベルアップ」と呟き続ける。

『おーい、神父様よお。

俺のスキル読み上げてくれよ。

「経験値」を「全世界」から「強奪」して「レベルアップ」なんて言われても意味がわからねえよ。

俺には何が何だかさっぱりわからねえんだ。

ん？

…あー、なるほどね。

はっきり言葉にしたらスキルが発動するわけね。

昔俺を捕まえた騎士がそんな事やってたわ。』

群衆から悲鳴が上がり、何故か逃げ腰の教団騎士が「やめろー！」と叫ぶ。

『経験値強奪、ね。』

何気なく呟いた瞬間。

俺を中心とした見えない竜巻のようなものが起こり、その場に居た全員が一斉に崩れ落ちた。

教団騎士は流石に武官だけあって膝立ちで一瞬だけ堪えたが、数秒後には地べたに這いつくばっていた。

途端に身体が熱くなり、耳の中に《ピコン》というレベルアップ時特有のベルが鳴った。

《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》

《ピコン》《ピコン》ちっ《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》

《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》

《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》うるせーなー。《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》

《ピコン》なあ。《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》

《ピコン》《ピコン》《ピコン》誰か。《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》

《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》この音って《ピコン》《ピコン》

《ピコン》《ピコン》どうやって止めるの？《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》

《ピコン》おーい。《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》

《ピコン》《ピコン》《ピコン》死んではいないんだよねえ？《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》もしもーし。《ピコン》《ピコン》《ピコン》…

耳を塞いでも《ピコン》が止まらなかったので、代わりに心を塞いだ。

良かった良かった、心を塞げて良かった。

お袋ありがとう。

アンタが毎晩知らない男を連れ込んでくれたおかげで、今もこうやって心を塞げてるよ。

持つべきものは親だね、感謝感謝。

あー、なるほどね。

俺、今みんなのレベルを吸い取ってるんだ。

皆から奪った力が俺の物になってるんだ。

あっはっは。

みんな、何を苦しそうな顔をしてるんだい？

いつもと逆なだけじゃないか。

あーこれ、きっとこの場だけの話じゃないね。

もっと全世界的なムーブメントって奴？

だって《ピコン》が山の様に積まれていくのが見えるもん。

ははは、今回に限っては俺も仲間外れじゃないんだね。

《ピコン》は蟻の巣の蟻より多いんじゃない？

これ俺のレベルが上がってる音かぁ…

参ったな、俺数を数えるの苦手なんだ。

ん？

アンタらは息をするのに精一杯みたいだけどさ。

あーあれだ、俺に経験値を全部取られてレベルがゼロに戻ったのか？

いやー大変だね。

レベルゼロって生まれたての赤ん坊じゃん。

アンタら明日からどうやって生きていくのかな？

あー、力が無限にみなぎってくるわ。

流石に自分でもわかるよ。

俺なんかじゃ数えきれないレベルになってるんだろ。

金持ちはカネを数える時、億とか兆って数えるんだろ？

俺だって金貨を見たことがあるぜ。

その所為で捕まったんだけどな、あっはっは。

なあ神父様よお、億と兆ってどう違うの？　どっちが大きい数なんだい？

《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》

俺の最終レベルは100億兆を超えたんだってさ。

このスキルを与えた張本人がそう言ってるんだから間違いないだろう。

なあ神様、やけに苦しそうだけど大丈夫かい？

おいおい、そんなに恨みがましい目で見るのはやめてくれよ。

親父やお袋や乞食のハンス爺さんはもっと苦しそうな顔をしてたぜ？

へえ、俺の死因って重度の筋肉痛による心臓発作なんだ。

あー確かにレベル上がる時って走った時みたいにちょっとドキドキするもんな。

ん？

どうした神様？

へえ、アンタでも死ぬんだな。

ん？

さあ、俺は医者じゃないからな。

そっちも心臓発作なんじゃないか？

なあ神様。

《ピコン》の止め方知ってる？

俺とっくに死んだのにさあ。

この音が全然止まってくれないんだわ。

あー、そっか。

アンタがくたばるまでは止まらないのかなあ。

ねえ、アンタ何レベル？

早く死んでくれないと耳が痛いんだけど。

やれやれ俺は腹が減ってただけなんだけどね。

あ、そうだ。

ここって天国？地獄？　

まあどっちでもいいけど。

なあ神様。

ここって炊き出しはやってないの？

アンタの子分は毎日パンやシチューを配ってくれたんぜ。

俺さあ、あのクリームシチューってのが好物なんだ。

あんな旨い食べ物は生まれて初めてだったよ。

ありがとな。

タダで食わせてくれるなんてアンタいい奴だぜ。

まあ、どうせその元手は俺達貧乏人から強奪したもんなんだろうけどさ。

なあ、神様。

あっちの行列はみんなアンタの子分なんだろ？

必死でアンタに呼びかけてるぜ？

可哀想にみんな泣き叫んでるな。

でもきっと誰も応えちゃくれないだろうなあ。

だって俺がそうだったもん。

うっわ凄い数だな。

下の連中全員来ちゃったのかもなｗ

おいおい、そんな所で這いつくばってないで手でも振ってやれよ。

ははは、情けねぇ爺さんだな。

近所のトム爺さんなんて、アンタよりずっとやせっぽっちなのにさあ。

死ぬまでずっとゴミ収集させられてたぜ。

最後は頭をゴミに突っ込んでくたばってたがな。

おーい、神様よお。

大丈夫か？　苦しい？　痛い？　

へーそりゃ大変だ。

あ、そうだ。

いいこと思いついた。

アイツら困ってるみたいだから炊き出ししてやらない？

みんなこの世の終わりみたいな顔してるぜ。

シチュー余ったら俺にも喰わせてくれよ。

ん？

おーい。

神様～。

ははは、偉そうな口利く癖にだらしねえジジイだｗｗ

《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》

《ピコン》《ピコン》《ピコン》《シチュ》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》

《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》

《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《シチュ》《ピコン》

《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》《ピコン》

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