第36話「残響変生」
「食らいやがれ! 連続召喚!!」
——ゲンスケの宣言と共に、地面に散らばったカードたちから、封印したアヤカシの力——その一端がヴィジョンとなって具現化し、シュテン=ハーゲンへと殺到する!
『封印獣-ジュカイノナゲキ』
『封印獣-チミドロブレイド』
『封印獣-タソガレノサミダレ』
『封印獣-ボウバクサジン』
『封印獣-カツボウハウリング』
五方向から同時に繰り出される魔の一撃。
それはしつこく、周到で、苛烈で、暴虐的で、微かで、不可視で、障壁を貫通し、凡ゆる手段、手数を以てシュテン=ハーゲンを仕留めるべく襲いかかる。それを——
「——これ以上の舐めは侮蔑と捉えるぞ、人間」
その直後に、シュテン=ハーゲンから魔力を帯びた音波が発生し——
「——【
それは見えざる超音波の斬撃と化して周囲の封印獣たちへ即座に到達、攻撃動作が完了するより先にその肉体を切り裂かれる。
——【
その名が示すとおり、極級ハンターである月峰エリカが使用する術式【
その攻撃予兆は能力名の宣言ゆえに、回避さえ間に合えば無傷で済む。
だがその音波は不可視にして凄まじい貫通力と速度を持つため——あらかじめ来ることがわかっていなければ回避は不可能に等しい。
加えて言えば——この斬撃音波は数秒間持続して周囲へと広がっていくため、斬撃の延長線上にいれば当然攻撃に巻き込まれる。
つまり、普通なら緑川ゲンスケとて、その漆黒の装甲ごと切断されている。
だが————
「——いない。いや、」
だが——ゲンスケは、彼女を——月峰エリカを知っているがゆえに、シュテン=ハーゲンが彼女を浸蝕している以上——その術式が飛んでくることをも考慮に入れている。
斬撃音波拡散の直後、封印獣たちが切断されるまでの時点で既に——シュテン=ハーゲンの視界から緑川ゲンスケの姿が消失。
先行して実体化した封印獣五体に加え、既に後続の封印獣が追加で十体実体化を始めかけているため、即座の【
後続の封印獣自体は、このまま斬撃音波拡散によって全破壊が可能。実体化して斬撃の当たり判定が入る方が、音波の霧散より一瞬早かったためである。
これはゲンスケの想定よりも音波霧散までの時間が一瞬長かったがためのミスであるが、そうであっても、探知能力への妨害自体は予定どおり遂行されており、これによって天井付近まで跳躍し、地面へ向けて蹴りを放っていたゲンスケの発見が遅れる。
「——上かァ!」
「一瞬遅ぇよクソアヤカシ!」
言葉の応酬、その直後。
ゲンスケの飛び蹴りがシュテン=ハーゲンの腹部を貫かんと寸前まで迫る。
——その時、ゲンスケはシュテン=ハーゲンの腹部に見知った横一文字の傷痕があることに気づく。
——これは、カードによる傷痕!
「——テメェ、どこまで」
「——やれるとも、『
刹那、天に開かれた孔より瀑布の如く落ちる漆黒の墨にも似た液体。
ゲンスケの蹴りが直撃した時、既にその脚は変生したシュテン=ハーゲンに掴まれていた。
月峰エリカの裸体、そこへ泥のように纏わり付いた魔の装束と鋭利なる魔の触手。そして、より輝きを増す昏き光の紋様。
——これはゲンスケの術式ではない。
彼の術式を参考に、未だ目覚めきっていないシュテン=ハーゲン自身の残存魔力を強制的に吐き出した反則技。
シュテン=ハーゲンの浸蝕結界を空中に極小展開し、それを通して自身の魂に未だ眠ったままの魔力を絞り出したのだ。
これは、魂の中身を具現化できる浸蝕結界という技術——それを極め尽くしているシュテン=ハーゲンだからこそ可能な応用技である。
「——クク、都市一つ浸蝕できるのだから、考えてみれば、こういう
「——フン、さっきの蹴りで死ぬよりはマシ、そういうこったな」
足を掴まれたままのゲンスケだったが、少しでも状況を掻き乱すべく、シュテン=ハーゲンの神経を逆撫でする。
「——命を握られているのは貴様ぞ、
ゲンスケの足を掴んだまま、複数の触手を鞭の如くしならせ、そして振り回し、そのままゲンスケを切断するべく迫りくる————!
(——斬撃音波の宣言なし。周囲の残留思念はさっきので使いきったわけだな、なら!)
【
だがこのタイミングでそれをしてこない——その事実を以て、ゲンスケは斬撃の出力不足による不使用を断定。現状の打破に注力することを選択する。
「——手は空いている!」
ゲンスケは即断して【
『——
【
再び開く天の孔。それより落ちるは、かつて調伏した極級アヤカシ——それが所有していた魔の鎌。
触れたモノを溶かし、凡ゆる防御を無に帰す驚異にして脅威のデスサイズ。
溶かし、所有者の血肉へと変換する、攻防一体の
それは、使用者にあだなすモノ全てにその獰猛なる牙を剥き——その猛威は、千年以上の時を生きるシュテン=ハーゲンも当然把握していた。
だが————
その効力をこのタイミングで有効活用する方法——それに辿り着いていたのは、ゲンスケだけであった。
「今更そのようなもので! 遅いわたわけがァ!」
魔鎌メルトがシュテン=ハーゲンへ到達するよりも、シュテン=ハーゲンの攻撃がゲンスケへ到達する方が早い。それは紛れもない、どうにもならない事実——現実。
だが——そのようなこと、緑川ゲンスケは当然理解して把握してその上で別の策を編み出していた。魔鎌メルトの特性を読み取って、シュテン=ハーゲンの集中力欠如による思考力散漫という隙を突いた策を叩き込んだ。
——ゲンスケ自身に、溶解の妖怪鎌を使用するという策によって。
「——何だと?」
溶け落ちる中、ゲンスケは仮面の下で密かに笑ってみせた。
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