第31話「突雷電都」
——【
それはダークシトラス・プラウドハートの浸蝕結界を超圧縮してダークシトラス本人の心臓へと変換したもの。つまりは浸蝕結界化した心臓そのもの。
圧縮された超空間ゆえに、心臓内部では彼が取り込んだ大量の血液が貯蔵されており、それらは血管を通して身体中を循環している——。
やっていることは心臓の代替および吸血後のタンクだけのように見える。だが——
——その真価は、その先にある。
ダークシトラスが先ほど発動させた爆発と再生。あれらは一連の効果処理であり——要はあの流れそのものが特殊能力なのだ。
ダークシトラスは自身を一つの宇宙であると定義し、体内血液の
——己を宇宙と見立てるとは、どこかストーリー性のある術式形成の過程である。十中八九、この件にもアーバンロアが関わっていたと見て良いだろう。
そもそも人を襲う期間が短すぎる。ここ数日の行方不明者数の血量ではおそらく足りない。
となれば——協力者、推定アーバンロアの浸蝕結界内に一般人を誘い込み、そこで血を吸ったと推測できる。
なぜアーバンロアが協力者なのかにも、それなりの理由がある。
というのも、浸蝕結界は入り口を開けっぱなしにし続けていると、それだけで俺たちアヤカシハンター側の魔力検知に引っかかる。
浸蝕結界内部の莫大な魔力がどうしても漏出してしまうからである。
だがアーバンロアは、極級と呼ばれていただけのことはあり、その辺りの隠蔽知識も持ち合わせていたようだ。彼は【噂】を流布し、それを以て人間を一人でに浸蝕結界へと誘い込む。そういった噂に時間設定を付与するだけで、結界を開けておく時間すら最小限にできるということだ。拠点を絞り込むまで少なくとも半年以上かかったのもそれが理由だそうだ。
「なんだい? 思ったより驚いていないし吹き飛んでないじゃないか! 心外だなぁ的外れだなぁクソエイムだなぁ!」
——能力考察を一度バックグラウンドに回して、俺はダークシトラスの長髪が変化した鋭い触手攻撃を脚部魔力ホバーで回避。
——通常攻撃。やはり能力の再装填にはある程度の時間がかかるのか。
それはおそらく
推測が正解かどうかはわからないものの、ここから先は連射してきていない以上はそのような発動条件があると仮定する——その判断で迅速に冷静に、第二爆発より先に討ち取る他にない。
なにせ、正確な爆破範囲が不明なのだ。
なぜならこの術式による爆発の威力は、吸い取って貯蓄しておいた血液の量に比例して高まっていくからだ。
先刻の爆発は『鬼傀儡-キングランドマーク』の特殊能力で完全遮断されたために規模が不明であり——とはいえおかげで無事効果詳細が脳に刻まれたため、ダークシトラスの血液貯蓄量によっては町一つ吹き飛ばすことも可能であることが判明し、だがしかし実際今どれほどの規模かは不明瞭なために、そのような最悪の想定すら考慮に入れざるを得なくなっていた。
——この勝負、受け身に回っていてはいずれ追い詰められるのはこちらだ。
人を襲い、血を吸い、そしてそれらの行動を取ることに何の逡巡もない今の崎下——いやダークシトラスを説得する余裕などない。なかったのだ。
アヤカシとの戦いは、足元を掬われればそれまでの、ある種薄氷を履むかの如き戦いであり、そこには基本的に理性的な問答はなく——言葉は交わせるのに、人と獣の生存競争に等しいものであることがほとんどであった。
——当然それは、その戦うアヤカシの正体が元人間であっても、である。
「——ダークシトラス。お前がアーバンロアに何を吹き込まれたのかは知らねぇけど、ここまで迷いなく対人類の存在として成立したってのなら——もうお前を斃して止めるしかなくなる。
——
「————! なるほど、浸蝕結界か! ちゃんと考えてるんだねぇ根源坂ァ!」
手を叩いて笑うダークシトラスに、かつての面影はなく、それは静かに俺の中で反芻されていき————心を冷静な戦闘モードへと移行させる。
「——浸蝕結界、反転起動」
「——は? 反転?」
俺が妙な一節を起動詠唱に加えたため、ダークシトラスの顔に困惑の色が浮かぶ。
だがそれはそうだ。この術式はフリードとの、限りなく実戦に近い模擬戦をきっかけに使用可能となった新技であるがゆえに。
見る機会などその一回のみで、これの応用である
つまりダークシトラスにこれを見る機会はほとんど皆無に等しく、そもそも見たところでまたその制圧盤面にビビることになるのだ。
「——
——【
読みは同じだが漢字が違う。そういう感じで世界を具現。
これまでは廃工場やアーバンロアの浸蝕結界【都市伝説活劇アヤカシラセン】のフレーム内部に展開させていたが、今回はそのようなものが存在しない——だが既に二度展開に成功したことで、サイズを調整した上での隠蔽型結界展開を無事会得していた俺は——————
「——お。根源坂お前、浸蝕しない浸蝕結界できるようになったんだな」
ゲンスケさんが、俺の異様な浸蝕結界を内側で見ながら呟いた。
浸蝕結界という名称は、本来閉じているはずの結界が、逆に世界を浸蝕するように溢れ出してくることから取られたと昔の文献に記載されている。
俺も含めてアヤカシハンターは、こういった知識も講習で叩き込まれる。
実際にアヤカシが浸蝕結界を発動した際に冷静でいられるように。そして——
「————なるほど、サカサヒガンの力で一時的にパラメータの何箇所かを【反転】させれば、結界としての役割を正しく動作させられる——そういうわけかい」
——例外が発生した場合にも、基本に立ち返り状況を分析できるように。
ゲンスケさんが話し終わるのとほぼ同時に、外界から遮断されたドーム状の——霧の都が姿を現す。
それは、やはり天井部分にも摩天楼が建っている形状をしており、アーバンロア戦と同条件ならば、敵に一切の地形的有利を与えず、一方的に魔力を吸い続ける霧の都ということになる。
しかしそれでは、浸蝕結界規模の魔力塊たる——ダークシトラスの心臓を削り切ることなどできない。
だが、そのような展開、俺にとってはよくある話だ。斬月さんの盾やアーバンロアのツノなどが良い例だ。
だから、そう、だからこそ、俺は
霧を生む街は、今この時はその在り方を反転させる。
摩天楼——その全ての先端から、強大なプラズマとエネルギー反応が発生し、結界内部の四方八方で青白いスパークが発生する。
——そう、魔剣ナイトミストのパラメータを一部反転させてビームを撃てるようにできたのならば、
大は小を兼ねる浸蝕結界内部でもまた、同じ挙動ができるのだ。
「——!! な、何なんだよこれは根源坂ァァーーーーーーーー!??」
流石に焦りの表情を見せたダークシトラスに俺は指を差して——
「標的は吸血鬼型アヤカシのダークシトラス。全砲門——————【
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