第26話「その術式の名は——」
——問答などほとんど無く、無に等しく、互いが互いを障害と見做した以上、それより先にあるのは鍔迫り合いでありクイックドローであり睨み合いであり——とにかく鎬を削る凡ゆる剣戟がそこにはあった。
「——【
直径約50cmに長さおよそ5メートルの巨大な巻物2本がアーバンロアの背後から出現し、鬼傀儡-アークスカイゼルのそれに近いビームを連射してくる。
「——クソ、速ぇって!」
脚部から結界の霧を小出しして魔力ジェット噴射を行い——ほとんどホバー移動の要領でビーム砲の連射を回避していく。これもうシューティングゲームだろ!
特訓の成果もあり——周辺2メートルぐらいの近距離ならば結界を限定具現できるようになったため、そこから水中ミサイルの如く霧の剣や槍を巻物キャノンやアーバンロア目掛けて射出する。
「——チィ、やってくれるな人間!」
感情剥き出しのアーバンロアの周囲で巻物キャノン2門が爆散し、俺はその間隙を縫うように接近する————その刹那、
「——【
——3メートルほどの巻物が俺の頭上に落下してくる……!
「タイミングがよォ!」
全身を霧へと変化させてどうにか回避——だがこれは事前に起動させていた術式を解凍したものであり——再度の使用はこの戦いのペースでは不可能——術式の再装填を狙うぐらいならば、別の手札を切るべきであり、距離を詰められないのなら、遠距離こそ危険であると思わせるのが早い————!
「——
——俺は魔力を吸う霧の属性を一時的に反転させ、
魔力を雷撃光線として、魔剣ナイトミストの先端から発射させる————!!
「サカサマ——人間お前、やったな!?」
「なんでも知ってるんじゃなかったのか?
知識を読みきれないんじゃ全能とは言えねぇよなァ————!」
俺に回避された頭上の巻物は地響きと轟音とを伴いながら結界の地面へと激突し——
俺の放った、プラズマを纏ったビームの一閃がアーバンロアの右脇腹を抉り溶かす。
「——ク、やるではないかァ! 人の身でよくぞここまでァ!!」
——やはりあの男、アーバンロア・ライドライターは全能の制御に脳内リソースのほとんどを割いており、手数や出力、そして肉体スペック由来の動きはともかく——要所要所の判断は、あまり冷静には処理しきれていないようだ。
——突くとしたら、その一点!
俺はライトニングミストを続け様に撃ちながら、ジワジワと距離を詰めていく。
確かにこの技も強力ではあるが、反転しているがゆえに本来の挙動とは言い難く——当然魔力リソースは目減りしていく一方だ。
魔力を吸うには結界の属性を戻す必要があるため、彼我の出力差を鑑みても戦闘の長期化は避けたい。
ゆえに——
「——ぬおお人間ッ! ならば喰らうが良いッ!
顕現せよ我が魔の2本ヅノ——
————【叡智凝縮角-アカシック・ソリッド-】ッッ!!!!!」
「——何!?」
ゆ/え/に/—/—
……俺のプランが、今まさに切り刻まれ解体されていく。
——プラン瓦解を察した直後、結界の軋む音が聴こえた。
次に起きた変化は、アーバンロアの頭部から隆起した2本のツノ——それらが周囲の時空を歪ませ擦り潰しながら肥大化していくというものであった。
——そしてそれの概念を、俺は理解させられる。
それら2本のツノは可視化された星の記録。
どんな物質よりも圧縮され、その詰め込まれた凡ゆる知識による異常硬度と術式貫通能力を帯びた魔のツノ。
その異常な——異次元の出力によりその在り方が俺の脳内に流れ込んでくる。
——マズった。
切り札を出しそびれた。
アーバンロアとてあれは捨て身であろう、あのような規模の術式をいつまでも具現化できるとは考えられない。
どう考えても俺どころか極級アヤカシであるところのヤツ自身の許容量すら超越している。
——鮮凪アギトの【
本当にこの大技にカラクリはないのか?
そこまで膨大な知識を今まさに凝縮展開させて無限に等しい肥大化を続けているそのツノの攻略法は無いのか……?
「——なんだ、今の知識、どこか引っかかる」
違和感の正体こそ、おそらくは——希望的観測であるにせよ現状を打開する一手であると、俺はそう推測し——
肥大化
無限
結界を擦り潰す
その度に——
——その度に、
その度に——。
巨大化していく。
——あれは今も成長している。
結界として具現化している、星の記録を吸収している。
——ならば、同規模の浸蝕結界を使える俺ならば、あの技を止められる。
——ヤツの結界そのものを崩壊させれば、魔力源であるところの結界を失えば——あのツノは維持できなくなる。
サイズは十分——最早いつツノによる突貫をしてきてもおかしくはない。
ならば——今ここで!
「——お前の結界、その骨子を利用させてもらう!」
結界そのもの——その内部の壁や床、天井に俺の浸蝕結界を展開するための魔力を染み込ませていく。
ヤツの結界——そのフレームそのものを使って、内側に俺の浸蝕結界を展開する。
それは謂わば筒状の、スペースコロニー内部のような構造として——壁という壁に霧の都を具現化させる変則展開。
「——
——【
これにより、全方位から伸びた摩天楼から、一斉にツノの魔力を吸い上げる……!
「——何ィィッ!!?」
衝撃に顔を歪ませるアーバンロア、ハクタクの流れを汲む全能の極級アヤカシにして、黒紫あげはの人生を歪ませた諸悪の根源——倒すべき敵!
全能に呑まれ自我を朦朧とさせていた側面もあるのだろうが、だとしてもお前のそれはライン越えだ。他人を巻き込んでまですることでは無い。そのような暗躍は野望でも試みでも断じて無い。
ゆえに——俺がここで殺す。
「くたばりやがれェェーーーーー!!」
吸い取った魔力を刃に乗せて、俺は全霊で魔剣ナイトミストをアーバンロアに叩き込むべく跳躍し——魔力の放出によって空中から突撃する!
今度こそ決着の時——その寸前。
「——は。甘いぞ人間。
私は攻撃を通すためなら、最終奥義すら囮にするのだよ根源坂開登くん」
「——何、」
瞬間、アーバンロアの身体が炎に包まれる。
これは——その出力により、それが何を再現した技なのかが理解できる。
これに当たれば、俺の術式は文字通りその灼熱により霧散する……!
そう、その名は——神話に登場するその名は!
「——お見せしよう。
——伝承再現、武想【ヒノカグツチ】。
その圧倒的な力——その一端をねェ……!!!」
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