第23話「切り札は隠すもの」

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——幕間


 ——緑川ゲンスケさんに質問です。


「はいよ。答えられる範囲でならなんでも答えるよ」


 ——正直なところ、人に危害を加えたであろうアヤカシをトレーディングカードゲームのカードにしてしまうことについて、どうお考えなのでしょうか?


「難しいことを聞いてくるねぇ。

 それってつまりアレかい? 人を傷つけた存在を、遊びの題材にすることへの忌避感——そんなところかい?」


 ——有体に言えば、そうなります。

 処理班によって、そのアヤカシに襲われた記憶そのものをボヤかされる一般人は多いですが、それでもやはり……個体によっては人を殺したアヤカシもいるでしょう。

 それらさえも、何も知らない人々にカードとして触れさせることに、私は少しばかり忌避の気持ちが湧いてきます。

 緑川さんとしては、そういった感情はないのでしょうか?


「ハッキリ言ってくるじゃないの。まぁそういうの、俺は嫌いじゃないよ。

 ……そうだな。

 だから——そうだな、なんだ。

 俺はアヤカシを憎んでいるからこそ、——とまぁ、そういう思想でフダディエイターズTCGトレーディングカードゲームの1テーマになってもらっているよ。

 ——こんな感じなんだけど、ご納得いただけるかな?」


 ——なるほど。それがあなたの価値観、というわけですね。勉強になりました。


「……勉強ねぇ。

 マジもんのインタビュアーなのか学習途中のAIさんなのか、まぁなんでも良いんだけどよ。

 ——俺みたいにはならない方が良いぜ」


 ——わかりました。参考にします。

 ところでどうして私をAIだと推測されたのですか?


「別に推測ってわけでもないよ。姿を見せずに声だけだったから、なんか部屋に設置した機械から音声飛ばしてんのかなって思ってな。で、考えられるパターンを考えてみたってだけさ」


 ——そういうことだったのですね。よくわかりました。興味深い思考パターンです。これもなのでしょうか。


「揺らぎ? まぁ、人に見せてないだけで、それぞれ思考という名の手札は複数枚持ってるもんさ。別に騙す目的じゃなくても、脳内では多数の思考が勝手に巡るもんだからな。そこから自分の意思で、一つを選び取り、結果的にだが、それが『結果』として出力される。ありゃりゃ、結果が重複しちまった。でも、案外——結果が結果を呼ぶ、なんて連鎖反応もあるのかもな。

 とは言え、そんな連鎖反応に見える部分でも多数の選択が内在しているって俺は思うし——それが人間味ってやつなのかもな」


 ——内在する選択、人間味。

 なるほど、大変勉強になりました。

 手短ですが、これにてインタビューを終了させていただきます。

 緑川さん。本日はありがとうございました。


「ま、がんばってね。

 俺はアヤカシを憎んじゃいるが、

 お前さんも強く生きるんだよ」


 ——はい。より良き終わりへ向かうために、今は『がんばってみます』。


 収録日:本年の三月某日。


 幕間、おわり

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「見たか根源坂ァ! これこそが俺の新たな術式による合成アヤカシ!

 その名も『鬼傀儡-ワイズマンティコア』……!! 人地の力を併せ持つ脅威の巨大メタルアヤカシだァ!!!」


 ——マンティコア。

 キマイラ、鵺。そう言ったものに近いフォルムをしたそいつは——それらとは異なり人の顔を持っていた。


 獅子の胴体に羽が生えており、尻尾は——蠍?——そのような外見なのだが、そこにフリードの術式効果が追加されて金属加工が施されたサイボーグアヤカシへと変貌を遂げている。


 身体の随所に機械仕掛けの動力機関のようなものが現出したそれは、やはりどう見てもアヤカシというよりは、なんか伝説上の生物をモチーフにしたロボットとかそっち方面に見えた。


 コイツは別にカードゲーム要素ではないようで、特に特殊能力やカードテキストが俺の脳内に表示されることもなく、ただただ純粋なアヤカシとして目の前に出現している。


 出現しているのだが——


 ——全長3メートルはあるか。


 とにかくデカい上に固そうで、正直なんだって俺は今コイツと戦わないといけないのだろうかという気持ちで胸がいっぱいなのであるが、腕もムキムキだし、つまりそれは脚部もムキムキのそれな上に謎のバーニアまでついている。なんらかのガンダムの脚部になっている。90年代にこういう感じのガンダムいた気がする。


 羽も当然飾りなどではなく、あの脚部と合わせれば、重力圏内であるところ——つまりこの地球上でさえ長時間の跳躍および飛行が可能であることが推測される。


 となれば当然、空中からの奇襲だけでなく、その過剰武装にも程がある脚部の推進力を活かした突撃や蹴りの威力も凄まじそうで、結界による超強化を除けば、普通にブラッドソードより火力が高いことが見える見える、丸見えである。


 俺は確かにブラッドソードのことを『術式以外はそんなでもない』と評価したが、それはあくまでも上級アヤカシ全体での基準を踏まえた上での評価であり——結界を使わない状態のブラッドソードであっても、魔剣ナイトミストから浸蝕結界を流し込む派生技で不意打ちをしなければ普通に危ない橋だったのは言うまでもなかった。


 補足だが、あの時はブラッドソードの術式も結界能力もハッキリとはわからなかったため、あれ以上の手札開示はリスキーであると判断し——ブラッドソードの肉体内部へと浸蝕結界を全開で流し込む技は使用しなかった。ていうかもっと明確に正直に言えば、あの時の俺はブランク明けだったため、浸蝕結界の流し込みをパーフェクトに行える自信がなかったとも言う。


 それもあの小出し放出と、その後の禁断具現フォビドゥン・パージによる浸蝕結界【悪霧都ナイトメアミスト】の完全展開によって調子を取り戻し——展開出力の細かい調整が再び可能となったのであった。


 ——若干話が逸れたが、アヤカシハンターとしてそれなりに腕が立つと自負している俺ですら、素のブラッドソード・プラウドハートと戦うのは厳しいのだから、それ以上の出力を持つ『鬼傀儡-ワイズマンティコア』となど、まともな戦いになるはずもなく、だから何故か俺なら良い戦いになるであろうと思いこんでいるフリード・トライロードのお花畑みたいな思考にはただただうんざりするばかりであり、こんなことになるならちゃんとハッキリと立場を表明して、オシャレ喫茶『サファンシー』で白咲や穂村と一緒にお茶をしばくべきだった——と、ただただそう思うほかないのである。


 のであるが、残念ながら現に今俺はこのように、フリードの支配下にあるアヤカシ3体が合体したことによってクソ強メタルアヤカシと対峙しているのである。


 ——どうするもこうするも、最早選択肢は限られており、そもそもこの思考も当然現実では数秒のことであるからして、正直なところあのメタルアヤカシが予備動作をした時点で俺はなんらかの迎撃手段を取らないと間に合わない。

 だが今の俺の手札でそれを可能とする技は限られている。


 ——そう、限られてはいるが

 問題は、俺がそれを上手く出力できるかどうかだ。

 確かに、この廃工場であればおあつらえ向きではあるが——


「——フリード」

「どうした根源坂!」

「——この件、?」

「————!」


 フリードは目を見開く——十中八九確定と見て良い。

 アイツは基本的に仕事ではポーカーフェイスらしいが、俺に対しては本気で心配になるレベルで素直だ。俺別に何もしていないのになんでこんな懐かれているんでしょうね?


 ——だが、ならば合点が行く。

 密命はもう済んだと言っていたが——


 理由は不明だが、鮮凪アギトが——『復帰した以上は本気を出せ』——そう言っているのが、どうしてだか自然と理解できた。


 鮮凪アギトは、あげはの一件もあってそこまで良い印象は持てていないが——だからと言って別に敵と言うことでもない。

 あの一件はお互いの立場が違ったがために起きた出来事であり——仮に憎むのなら【確率魔性】ラプラス=ファタールや、それの噂をあげはに植えつけた何者かであるべきだ。

 俺とて、そこを取り違えることはしない。

 そしてそれはアギトとて同じのはずであり——つまり、現状俺を殺す理由はないはずだ。

 となると——あぁ、


 ——あぁ、困った話になってきた。

 俺に期待をかける人々からの感情が重い、重すぎる。


 じゃあ何か?

 と言いたいんだな?


 ——武器を、魔剣【夜霧刀ナイトミスト】を構える。


「——それでこそだ根源坂。この密命、受けた甲斐があったというものだ。

 ——『鬼傀儡-ワイズマンティコア』で攻撃!

 『極限脚噴射突撃拳メガフィスト・フルブースト』——……ッ!!!」


 フリードの攻撃宣言により、ワイズマンティコアが、脚部バーニアから魔力を大量放出して超加速を得た拳による一撃を喰らわせるべく俺へと迫る————その敗北必至の寸前で。


「——反転浸蝕サカサヒガン、【悪霧都ナイトメアミスト】」


 ——/描写割愛/——


「——見事だ、根源坂。

 俺は誇りに思うぞ根源坂ァ!」


 号泣するフリード・トライロードの眼前で、俺の術式攻撃を受けたワイズマンティコアが焼け焦げて消失していった。

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