第22話「鬼傀儡」
戯画町住宅街——その外れにある廃工場にて、俺はなぜかフリード・トライロードと対峙していた。協会に絶対服従であるところのフリードが一体全体どうして俺と戦おうとしているのか。まるでわからない。言っておくが俺は別に討伐対象になるようなことはしていないし、過去にヤンチャしたことはあるがそれも不問にしてもらえている。俺の実績や行動理由を鑑みられたというわけだ。
だから本当に後ろめたいことはしていないのだが、それでなんだって俺は今こんなことに————
「行くぞ根源坂開登!!」
そう言い放つや否や、フリードは両腕を前方へと突き出す!
——と言っても別に手を握って拳を形作っているわけではなく、手のひらを突き出す、そのような形であった。
その十の指全てには指輪が付けられており、魔力がそこから極細の糸となって放出されているのが俺には見える。
俺はこれでも腕の立つハンターゆえに、ほぼ透明に等しい魔力の糸も見ることができた。
——だが。あれは超圧縮された糸であるため、切断は不可能に近い。
大変恐ろしいことに、レイジさんの盾並みの強度を誇っている。
無論、極細であるため盾のような使い方はほとんど不可能ではあるが。ていうかできてたまるか!
アイツは——フリード・トライロードは、自身の魔力で制御可能な存在を糸で操ることができる。
その際、操作対象の外見が若干メカ化するのだが、これは単にアイツの好みが能力に反映されただけらしい。
本人曰く、「フフフ——カッコいいだろう!」なのでまぁ間違いなくそうなのだろう。アイツあれでめちゃくちゃ素直なので。
そしてその糸の先に取り付けられていたのは——カードだった。
魔力を帯びた、カードだった。
つまりは——緑川ゲンスケさんから購入した、『フダディエイターズ(魔力入り)』だった。
——そう。緑川ゲンスケさんの能力とは、『服従させ制御下に置いた魔力をカードに封印する』というもので、これはつまり倒したアヤカシの残存魔力なども封印対象になり得るということである。
ゲンスケさんはそういった残存魔力を使ってカードを作成し、俺たちに売り捌く。
そして、それらは基本使い捨ての魔力武装なので使った後はスッカラカンになるのだが、普通にカード自体は残るため、
「よし、これで無害になったからいっぱい刷れるぞ〜〜」
とか言って量産体制に入るのだ。
これが現在売り出し中の新規トレーディングカードゲーム『フダディエイターズ』の正体である。あの人は、緑川ゲンスケは、アヤカシハンター兼カード屋さんの店長兼カードゲームのデザイナー兼イラストレーターなのだった。
尚、担当テーマのクリーチャーデザインのモデル全てをアヤカシで賄っているため、普通に納期がギリギリらしい。
だから前に
「あんたオリジナルも描けるんだから描けよ!!」
と言ったところ、
「いやテーマによっては俺が描くんだけどよ。『封印獣』テーマはなんていうか、封印したアヤカシをそのまま使いたいんだよな」
などと答えたので、「じゃあ俺らがボイコットしたら終わりっすね」と言ったら「魔力入りカード安くするからさぁ!」と泣きつかれたので根負けしたのだった。
閑話休題。いや閑話休題すぎるだろ。今戦闘中だっつーの!
兎にも角にも、フリードの能力とあのカードの相性は抜群である。
フリードの能力【
俺の場合は、せいぜいカードテキストに書かれている挙動をさせるだけにとどまるが、フリードの場合はそこからさらに柔軟な指示を行える。
つまり、俺が先日使用した『封印獣-ツタノシガラミ』をしばらく実体化させた上で、例えばだが、巨大な触手めいたツタでの突きや薙ぎ払いなども実行可能なのであった。
そんな感じで、正直戦うのはごめん被ると言ったところなのだが、既に戦闘が始まってしまっている以上、俺もそれなりに迎撃を行わなければならない。フリードの目的——密命——が不明瞭な以上、どれだけの力を振るってくるかわからない。それゆえに、ここまでの思考を二秒で済ませ俺は起動コードを口にする——
「——
——俺も初手から魔剣を生成して仕掛けざるを得ない。
汎用武装は持ってきていない——穂村に任せている——ため、これ以上の武装は結界を展開しなければ使用不能。いざとなれば使うことも択に入るが——フリードは俺の結界を知っている——それでも一般人の目に入るような事態は極力避けたい。
浸蝕結界は、一時的にとはいえ廃工場ごと周囲の世界を書き換える。
つまり——このロケーションであろうとも、全く目隠しにはならない。
「——結界を引き摺り出してやるぞ、根源坂ァ!」
「ノリノリのところ悪いが出さねぇぞ俺!!」
「何を! 問答無用!!」
そして【鬼傀儡】によって生成されしメタルアヤカシ——その姿が顕にな、
な、な————
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『封印獣-チダマリノツルギ』
種別:アヤカシ
AP:1800 → 3600
【効果】
自身の周囲に血液フィールドを生成する。
このフィールド発動中、以下の効果を適用する。
・攻撃速度が上がりAPが倍化する。
・血液補充による超回復力で、破壊を無効化する。
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——そのアヤカシは、ブラッドソード・プラウドハートだった。
「お前——そのカード、」
「緑川氏から購入した。
先日お前がツタノシガラミを購入する際、割引条件として『ブラッドソードの残存魔力を提供する』を提示され、それを了承したのは知っている、知っているのだ。俺は超優秀エージェントだからな!」
「クソっ! あの時金欠だったから……!」
そもそも金欠の原因がフダディエイターズのスターターセットとブースターパックを買ったからなんだがな! 全部ゲンスケさんの手のひらの上じゃねぇか!! あの人黒幕じゃないだろうな!?
しかもカードテキストを見るに、ブラッドソードの浸蝕結界をそのまま再現してやがる!
それそこそこの出力でぶち壊さなきゃならないんですけど!?
「クソ、マジで本気じゃねぇかよフリード。密命が俺の討伐命令とかじゃないことを祈るぜオイ!」
「俺はもはや密命以上に——お前と戦えることに喜び悶えているぞ根源坂ァ!」
「あぁクソ! そういうところが鬱陶しいんだよお前さァ!!」
「行くぞ根源坂! 『チダマリノツルギ』で攻撃! 『
フリードの攻撃宣言により、血染めの剣を振るって襲いかかってくるブラッドソードもといチダマリノツルギ。
俺は否が応でも全力の迎撃を強いられる!
「——
魔剣ナイトミストの刃に、超圧縮した浸蝕結界を纏わせ——チダマリノツルギの魔剣を一撃で破砕——そのまま接触時の衝撃でチダマリノツルギ本体の破壊を試みる——が。
足元の血液フィールドへ衝撃が到達するより先に復元が始まり、
復元力によって衝撃が押し返され相殺されていく——!
「これだから概念系能力は……!」
まぁまぁのイラつきを込めて叫びつつ、次なるプランを視界から引き込む——
「なら!」
霧払い——ではなく切り払いによって発生したわずかな隙間に潜り込みしゃがみ込み——ナイトミストを逆手に持ち替え足元の血液フィールドへ剣先を突き立てる——!
「
剣先より放出する浸蝕結界の膨大なる魔力によって血液フィールドを浸蝕し崩壊させその魔力をチダマリノツルギ諸共飲み込む!
今度こそブラッドソードは完全敗北し消滅した。
「チダマリノツルギ、爆殺!」
ついでに一回言ってみたかった戦闘破壊セリフを言い放つ。見たかフリード。これがカッコいいってやつよ。
ドヤ顔をなんとか決め顔でポーカーフェイスして俺は立ち上がる。無茶苦茶なフォビドゥン・パージを二回も連続でやらせやがって。
「どうだ見たかよフリード。俺の腕が鈍っちゃいないことはわかってくれたか?」
「俺はむしろお前が万全であると信じていたぞ根源坂。だがだからこそ俺はさらなる強さを見たい。密命はぶっちゃけ今ので以上なのだが俺としてはもっと進化したお前の力を体感したいぞ根源坂ァ!」
「鈍ってはいねぇがブランク明けには違いないんですけど!?!?!?」
「問答無用! さぁバトルフェイズ2だぞ根源坂ァァ……!!」
言いながらフリードはさらにカードを複数枚取り出して射出!
三体の都市伝説型アヤカシ(下級)を召喚してきたようだが今更それで何をするってんだ——
「根源坂ァ! 成長したのがお前だけだと思うでないぞ! 俺はさらにカードではなく我が術式【機傀合体-アブソーブ-】を発動! 今まさに——人の手により紡がれし現代伝承が混ざり合い溶け合い我が鬼傀儡となる!
——出でよ! 『鬼傀儡-ワイズマンティコア』……!」
「コイツついに変形合体まで!?」
「カッコよさここに極まれり!
我が三大鬼傀儡が一体! 人地の合成アヤカシの力、とくと味わうが良い————……!
フフフフフ……はーはっはっはっはっはァ!!」
現れ出でるはメタルコーティングの施されたマンティコア型アヤカシ——サイボーグアヤカシ。
ふざけたテンションだがまるで油断はできない。なぜか身内戦で冷や汗をかいている俺であった。
——こうなりゃ、やるしかないか!?
俺は、未だ実行していない派生技——その使用を決断した。
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