第三章
第31話:ノコノコさんは抱き枕なんかじゃない!友達だ!
翌日の朝。窓から差し込む柔らかな日差しと遠くから聞こえる小鳥のさえずりに、俺はゆっくりと目を覚ます。薄ぼんやりした視界で時計を確認すると時刻は七時を回っていた。
そろそろ支度を始めなければ……。
体を起こそうと身動ぎすると、また何故か身動きが取りづらい。まさかと思って布団を引っぺがせば、やはり銀髪のルームメイトが俺に抱き着いて眠っていた。
「またか……っ!?」
思わず叫んでしまい、それによってルーグが目覚める。
「んぅー。どうしたのぉー、ひゅー。あさからそんな大声だして」
「どうしたのはこっちの台詞だ。なんでまた俺のベッドで寝てるんだよ……」
「だってヒューに抱き着くとよく眠れるんだもん」
「いやノコノコさんに抱き着いて寝ろよ。そのために持って来たんじゃなかったのか?」
「むぅ。ノコノコさんは抱き枕じゃなくて友達だよ」
「じゃあ俺は友達じゃなくて抱き枕なのか?」
「…………あれっ?」
ルーグはまだ寝起きで頭がぽわぽわしているのか不思議そうに首を傾げる。
……まあいいや。抱き着かれて嫌な気持ちってわけじゃないのだ。ただ単に朝から理性と衝動とのせめぎあいが展開されてちょっと疲れるってだけで。
入学式の日と同じく先に俺が着替えて部屋の外でルーグの支度を待ち、制服に着替えて出てきたルーグと学食へ向かう。
今日から本格的な学園生活の始まりだ。さっそく授業も始まるので、俺とルーグはそれぞれ必要な教科書や筆記用具を入れた鞄を持っている。前世の学生時代が少しだけ懐かしい。
朝食を済ませて校舎へ向かうと、入り口の近くに人だかりが出来ていた。あそこは入学試験の合格者が発表された掲示板があったところだな。念のためスキルを〈発火〉に切り替えているから、掲示板の内容は遠くからじゃよく見えない。
やっぱり〈洗脳〉より〈忍者〉スキルの方が便利説あるな……。
「ヒュー、もしかしたらクラス発表がされてるのかも!」
そう言えば高校まであったなぁ、そういうイベント。てっきり大学みたいに授業ごとに教室を移動するシステムかと思っていた。
「一緒のクラスになれると良いね」
「だな」
人混みをかき分けて進み掲示板の前に着く。掲示板に張り出されたクラス分けを確認すると、どうやらA~Dの四クラスに三十人ずつ割り振られているようだ。今年の合格者は120人って事か。思っていたよりずっと少ないな。
さて、俺の名前はAクラスの一番下に見つけた。名前の隣には「30.」と数字が割り振られている。出席番号だろうかと考えてみたが、よく見ればBクラスの一番上の生徒の名前の横には「31.」と書かれていた。もしかして、入学試験の成績順位か?
「やった、ヒューと同じクラスだ! リリィとレクティも一緒だよ!」
ルーグに言われてAクラスの名前を再確認すると、一番上にリリィ、三番目にルーグの名前があり、「28.」の隣にはレクティの名前もあった。
ちなみに上から二番目にはイディオットの名前もある。リリィにさんざん馬鹿だと言われていたが、スキルは優秀で勉強も出来るらしい。騒がしいクラスになりそうだな……。
所属クラスの確認も出来たので掲示板から離れて教室へ向かう。一年の教室は校舎の三階にあるらしく、上級生の好奇の視線を受けながら階段を登って三階を目指す。
教室に入るとクラスメイト達は半数近く揃っていた。各自が思い思いの席に座ったり、イディオットは取り巻きたちと楽しそうに談笑している。
ちらりと視線が合ったが、今は取り巻きとの会話を優先したようだ。
教室を見渡すと、最後列の窓際から一つ横の席で、控えめにこちらへ手を振っているレクティを見つけた。一番窓際に座っているリリィは俺を一瞥するとすぐに視線を逸らし、頬杖をしながら窓の外へ視線を向ける。
結局、昨日はあれから一度も話せなかったんだよな……。夕食の時間になっても学食に来たのはレクティだけだった。ルーグやレクティに様子を聞いたところ、女子寮に戻って来たリリィの様子は普段とあまり変わらなかったらしいが……。
どこかでもう一度リリィと話したい。だけど、教室で話す内容でないことは確かだ。
今は普通に挨拶をしよう。
……っと、そう言えば。イディオットの前ではレクティと恋人の振りをするんだった。イディオットは取り巻きと話をしているが、こちらの様子を伺っているかもしれない。念には念を入れておくべきだ。
「おはよう、レクティ、リリィ」
俺は二人に挨拶をして、レクティとかなり近い距離に腰掛けた。机と椅子は前世の学校のように独立しておらず、6人程度で座れる長机と長椅子になっている。もっと距離を置いて座れるところをあえて密着して座れば、恋人らしく見えるだろう。
「お、おはようございます、ヒューさん。あ、あのっ、近くないですか……?」
「恋人ならこれくらい当然じゃないか?」
「こ、こいびっ!?」
レクティは驚いたように声を上げて顔を真っ赤にする。彼女の声に反応したのか教室中の視線が俺たちの元へ集まった。
おぉぅ、睨まれてる睨まれてる。イディオットだけでなくクラスの半数近い男子が俺に怨嗟の視線を向けていた。そして一番の圧を背後から感じるのは気のせいか。
「おはよう、レクティ、リリィ。イイテンキダネ」
「お、おおおはようございますっ、ルーグさん!」
「る、ルーグ? 昨日の話は忘れてないよな?」
「もちろん。二人は恋人だから、くっついて座るのはシカタガナイヨネ。ワカッテルワカッテル」
本当にわかってくれてるんだろうか……。ルーグは笑顔のまま椅子に腰かけ、俺の方へと体をぐっと寄せて来る。結果的に俺は左右の女の子 (片方は男のかっこうをしている)に挟まれてサンドイッチ状態になった。
「助けてくれリリィ」
俺が助けを求めるとリリィはこちらを一瞥し、
「お幸せに」
それだけ言い残して溜息を吐き、再び窓の外へと視線を向ける。昨日までより反応が冷たいのは、きっと気のせいじゃないんだろうな……。
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