第13話:ルーグを探して3000m
「スキル〈洗脳〉。ヒュー・プノシス、お前のスキルは〈ルーグを追うために必要なスキル〉だ!」
…………何も変わらない。手鏡に映る俺の頭上には〈洗脳中〉の文字が浮かんでいるが、それ以外の変化は見た目でも感覚的な部分でも存在しなかった。
ステータスを確認するとスキルは〈洗脳〉のままだ。……つまり、出鱈目なスキル名じゃダメって事か。書き換えられるスキルの条件は何だ……?
もう一度、〈洗脳〉スキルを発動する。
「お前のスキルは〈追跡〉……いいや、〈
頭の中で何かがカチッと切り替わった感覚がある。ステータスを確認すると今度はスキルが〈追跡者Lv.Max〉に書き換わっていた。スキルの書き換えに必要なのは具体名であることか……?
いや、考察は後だ。まずはルーグを探して取り戻す……!
「スキル〈追跡者〉!」
スキル発動と同時、視界に青い光が浮かび上がった。光は三人の人影に姿を変え、二人は鏡の裏の隠し部屋からもう一人を抱えて裏口へ出て行こうとする。
これはルーグが連れ去られた場面をスキルが見せてくれているのか?
父上の〈狩人〉が動物の足跡を光で示してくれるように、〈追跡者〉のスキルは光でルーグが連れ去られる場面を再現して俺を導いてくれる。これなら見失いようがない。
裏口から外へ出たと同時、俺はすぐ目の前の壁を蹴って屋根の上へと飛び上がった。それから普段とは比べ物にならないほどの俊足で、光が指し示してくれる方角へ走り出す。
〈追跡者〉のスキルは〈職業スキル〉だけあって、〈身体能力向上〉や〈俊足〉のスキルを内包しているらしい。
裏通りをしばらく進んだ先、大きな通りに出たところで光が馬車の形を作った。二人の人影は抱えていたもう一人を馬車へ放り込んで自分たちも乗り込む。光が作った馬車は通りを西の方へ進みだした。
普通に探していたらこの時点で完全に見失ってしまうだろう。だけど〈追跡者〉のスキルなら何も問題ない。強化された脚力は馬車くらい簡単に追える。
屋根の上を走っていたら目立ちそうなものだが、通りを歩く誰も俺の存在に気付いた様子はない。おそらくこれも〈追跡者〉の恩恵だろう。見えなくなっているのか、目立たなくなっているのか。どちらにせよ騒ぎにならなくてありがたい。
だいたい3キロほど走っただろうか。馬車は王都の端の方にある港湾地区に入った。
王都は大きな湖に面していて、王都はこの湖と河川を通じて王国の各都市や他国と物資輸送を行う事で栄えてきた……らしい。ルーグが筆記試験前にそう言っていた。
人身売買組織はその湖上輸送ルートを利用して、攫った女子供を売り払っているんだろう。
光の馬車は港湾区画の小さな倉庫の前で止まり、実際に止まっていた馬車と重なったと同時に消えてしまう。
実物の馬車からはちょうど二人組の男が麻袋を抱えて降りて来る所だった。男たちは麻袋を抱えたまま倉庫の中へと入って行く。
「何とか間に合ったか……」
近くの別の倉庫の屋根に隠れながらホッと息を吐く。船に乗せられていたら物理的に追いかけるのが難しかっただろう。さすがの〈追跡者〉スキルも、船を泳いで追いかける事は想定していないかもしれない。試さずに済んだのはありがたい。
あの倉庫が人身売買組織のアジトになっているんだろうか。中を確かめる必要があるな……。
屋根から降りて物陰に隠れて考える。必要なスキルは倉庫の中を透視するようなスキル。そのままの〈透視〉にするより、〈追跡者〉のようにもっと幅を持たせた方が使い勝手は良さそうだ。
「ヒュー・プノシス。お前のスキルは〈千里眼〉だ」
再び脳内で何かが切り替わり、スキル表示が〈千里眼Lv.Max〉に上書きされる。スキル説明には『見たい全てを見る事が出来る』と書かれていた。
「スキル〈千里眼〉」
俺が見たいのは倉庫内の様子。中に人が何人居て、ルーグがどこへ運び込まれたのか。
視界が唐突に切り替わり倉庫を俯瞰するような映像になる。それから倉庫の建物が半透明になって、中で動いている人の姿がオレンジ色に光って浮かび上がった。
内部に居るのは十二人。その内三人は倒れていて動いていない。おそらく誘拐された被害者だろう。ルーグ以外にも居たのか。
建物の内部構造。被害者の位置。犯人たちの位置。全てを把握した。後は犯人を制圧してルーグ達被害者を助け出す。それだけなら〈洗脳〉スキルで簡単だ。
「ヒュー・プノシス。お前のスキルは〈洗脳〉。そして、〈洗脳〉の最大対象人数は12人だ」
俺の〈洗脳〉スキル最大の弱点は、対象を一人しか選べないこと。それを〈洗脳〉スキルを使う事で対象を十二人まで増やす。
そうすればこの場は〈洗脳〉スキルで簡単に乗り越えられ――
「ぐっ!? あがっ、ぁあああああああああああああああっっっ!!!???」
頭が破裂したかと思うほどの激痛に、俺は立っている事すら出来ず地面をのたうち回る羽目になった。
なんだっ、これっ……!?
どれくらい痛みが続いただろう。ともすれば10秒ほどだったかもしれないが、体感時間はそれよりもずっと長かった。
ようやく痛みが引き始めた頃には全身からどっと脂汗が滲み出ていて、急激な運動後のような息切れでろくに呼吸が出来なかった。
落ち着いて息を吸えるようになるまで3分近くうずくまり、ようやく思考力が回復する。
……くそっ、死ぬかと思った!
原因は十中八九、〈洗脳〉スキルの対象人数を増やそうとした事だろう。
どうやら神様はズルを許しちゃくれないらしい。悪事に使おうとしているわけじゃないんだから、ちょっとくらい大目に見てくれよ……っ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます