第6話 粋な贈り物
「これ何かの間違いじゃないか?」
「いえ……間違っていませんね。オークロードの素材は使用用途が多いですし貴重ですので」
「でもだからって……ミーアの方が少なく入れられてたとか?」
「そんなことはないわ。大体同じ額よ。ほら」
袋の中を見せてもらうが俺のと大差ない。恐らく同額だろう。金貨や銀貨に銅貨が入り混じっている。
「お、俺はミーアにくっ付いてただけだしこのお金は君に……」
「いやダメよ。これはあなたが稼いだお金でしょ? あなたが使わないと」
「そっか……」
またホームレスの人に配……いやあそこも経営厳しそうだし明日の朝顔を出すついでに……
「そういえばリュージさんパーティーをクビになったって聞きましたけど本当なんですか?」
「うん……本当だよ」
バニス達が言いふらしたのか、ただの受付嬢である彼女にも俺が追放された話が耳に入っている。
「酷い……リュージさんはあんなに頑張っていたのに!!」
セアはまるで自分のことのように怒り俺の心を代弁するかのように怒鳴る。
「頑張りと成果は別だからね」
「でもリュージさんは優しくて……こんなわたしにも仕事を教えてくれて……」
セアが受付嬢を始めた当時まだ拙くミスが多かった彼女を無関係だった俺が助けることが多々あった。
人助けが趣味になっているという理由もあるが、失敗ししょんぼりする顔を見たら放ってはおけなかったからだ。
「リュージは随分信用されているようね」
「ん〜まぁ困ってる人を片っ端から助けようとしてるからかな? そうすればいつか世界も救えるような気がして。まぁ無謀で現実的じゃない夢だけどね」
「立派な夢よ。少なくともあなたを追放したその酷い奴らと比べたらリュージは十分立派よ」
「はは……」
人助けに見返りを求めるのは間違っているが、こうして感謝されたり人と仲良くなれるのは嬉しい限りだ。笑顔を見ると助けて良かったと心から思える。
「でも何があってもわたしはリュージさんの味方です! この街にはリュージさんに助けられて恩がある人がいっぱいいます。だからもしもの時は頼ってください!」
「うん……頭の片隅には入れておくよ」
自分から人を頼るだなんて第二の人生で考えたこともなかったが、それもいいかもしれない。
時間もそこそこ経ったので俺達はギルドを出て宿へと向かう。ミーアが取っていた宿にまだ空き部屋があるようで、俺は彼女の隣の部屋に泊まることになる。
「じゃあねリュージおやすみ」
「うんまたあし……」
扉を開けた途端視界の端に入り込む、俺の部屋でさも当たり前かのように座る女性に俺の体は硬直し動作を停止させる。
黒色のローブに艶のある長い黒髪。美しくも妖しさを纏うその顔立ちに俺の額に汗が流れる。
「あんた誰だ……?」
「どうしたのリュー……って、デザイア!? 何でここに……!?」
彼女の口から山で一度聞いた名前が飛び出す。確かクリスタル集めの関係者だったはずだ。
「やぁミーア君にそれにリュージ君。そっちの彼女が言ってしまったが……そう。ワタシの名前はデザイア。クリスタル集めの主催者側の人間だ」
「ん? 人間? 魔王が開いたのに人間も主催者側に居るのか?」
戦争が終わったとはいえ未だに人間と魔族の関係は劣悪。小さい紛争や揉め事も絶えない。
そんな情勢なのでデザイアが人間だという事実に耳を疑う。確かに額には魔族特有の角はない。
「まぁいいじゃないかワタシの素性なんて。それより今は君……リュージ君についてだ。魔王様から直々に伝言を預かっている。君をクリスタル集めの追加メンバーとして認めるそうだ」
「随分情報を仕入れるのが早いんだな」
「ワタシはこの世界全てを見ているからね。それに魔王様の力は計り知れない。何でもお見通しというわけだ。
あぁ。君は何でも良いから同属性のクリスタルを十個集めれば良いものとする。集めて魔王様の元へ持っていってくれたら願いを叶えてくれるそうだ」
俺の返しも表情一つ変えずに返答する。底が見えない。それにそこに居るはずなのに気配が一切感じられない。
間違いなく一流の実力者だ。下手したら俺が見てきた中で一番強いかもしれない。
「それと君にもこれを……」
デザイアの真横に紫色の円が発生する。
「アイテムボックスと同じ魔法かしら……?」
ミーアがその魔法を見て無意識にか小さく言葉を漏らす。アイテムボックスという空間を袋の中に生成する魔法具に使われる魔法だ。
「ほら、これを有効的に使いたまえ」
デザイアは細長い物をこちらに放り投げる。それを受け取った俺は見覚えのあるそれに、前世で見たことのあるそれに激しく動揺してしまう。
「何で日本刀がここに……!?」
「ニホントウ? 何なのそれは?」
ミーアの発言が示しているように、この世界には日本文化なんてない。日本刀なんてあるはずがないのだ。
鞘から少し刀身を出してみるが、その輝きや形状は俺の知るそれであり、変わったところといえば持ち手の所にある菱形のクリスタルを嵌め込めそうな窪みだ。
「何でこんなもの持って……」
デザイアに細かいことを聞こうとするが、俺達が日本刀に注意が向いている内にデザイアはいつもまにか煙のように姿を消してしまっているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます