第5話 豪炎の力を
「貴様……何だその気配。先程までとは違う……異質な力だ」
オークロードは野生の感なのか俺の力の変貌をもう察知する。
「はぁぁぁぁ!!」
溢れ出しそうな力をコントロールし解放する。全身の熱が更に高まり俺の周りに炎が発生する。
「ふん……コケ脅しが。
奴の棍棒の周囲の空気が動き出す。風を纏い回転し襲いくる衝撃を掻き消そうとする。
とりあえず様子見代わりに炎を動かし奴にぶつけてみる。
漂う火の粉が肥大化し人の背丈ほどの半径にまでなり奴に飛んでいく。
「うぐぅ……!?」
奴は棍棒で受け止め風の回転で掻き消そうとするが火の勢いは一向に弱まらない。そのまま棍棒を燃やし尽くし奴の顔面に命中し皮膚を焦がす。
しかし弾かれた炎が木々に燃え移り辺り一帯を燃やし始めてしまう。
「しまっ……」
「こっちは任せて!!」
それにはミーアが対応してくれて暴風を起こし火を鎮火させる。
「ありがとう!! よし……これでトドメだ!!」
俺は更に火力を強め今度は防ぐことができない一撃を避けれない速さで発射する。
「ぐわぁぁぁ!!」
火の手は瞬く間に奴の全身に回りその体を全て焼き尽くす。残ったのは角や骨など硬い部分だけで、皮膚や肉は全て焼き焦がされる。
「なんとかなったわね。それにしても中々良いコントロールしてわよ」
「それはどうも。でもなんだか疲労感が凄いな。魔法ってこんなに疲れるものなのか?」
「それはクリスタルの扱い方にまだ慣れてないからよ……って、あなた魔法を使ったことがないの?」
「えっ……いやその……まぁそうだけど」
ついポロッと魔法が使えないことを漏らしてしまう。別に隠していたわけでもないので俺は今までの経緯や追放された件など包み隠さず伝える。
「何それ酷いじゃない! パーティーのために働いてたリュージを解雇するなんて!」
「まぁでもパーティーに居た時は魔法を使えなかったし仕方ないさ。あっ、そんなことよりさっき何を言いかけてたの? ほら、叶えたい願いの話」
「あぁそれね。私、戦争がない……争いがない世界を作りたいの」
戦争。その単語に胸がドキンと緊張の音を上げる。地球でも戦争で苦しみ、親と離れ離れになり悲惨な末路を迎えた人が居たから、だから他人事とは思えなくなる。
「私の両親は二十年前の聖戦のせいで亡くなったの。私が生まれた時にはもう終戦してたはずなのに、その後のいざこざに巻き込まれてね」
聖戦。この世界で二十年前に終戦した人間と魔族の大規模な戦争だ。
俺はギリギリ生まれてないので直接見たことはないが、その戦争の恨みや被害などの爪痕はまだ残っているので余程大きな戦争だったのだろう。
こうしてその被害者が目の前に居るくらいには。
「だからこんな悲劇をもう二度と生まないために旅をしてクリスタルを集めてるのよ」
「そうなんだ……ねぇ。もしよければ俺もその旅に同行して手伝わせてもらってもいいかな?」
戦争を、争いを止めたい。その願いに共感し、人助けをしなくてはという俺の義務感に背中を押される。
「それは嬉しいけど……いいの? 今みたいに魔物と戦うこともあるし、下手したら他のクリスタル集めの参加者に命を狙われるかもしれないのよ?」
「なら尚更だよ。そんな危険を君一人に背負わせるわけにはいかないだろ? それにこうしてクリスタルを扱えたのにもきっと意味があるんだ。
そう思うから俺は君を手伝いたいんだ」
「ふふっ……変わったお人好しな人ねあなた。でもありがとう。あなたみたいに優しくて強い人がいれば私も心強いわ。これからよろしくね」
ミーアは快く俺の同行を許可してくれる。
パーティーをクビにされ一時はどうなるかと思ったが、こんな出会いがありすぐに新しい仲間ができるなんて思ってもみなかった。
これはきっと運命なのだろう。この出会いとクリスタルは。
そう胸の中で考え二人で山を下るのだった。
☆☆☆
「あっ! リュージさん!」
いつも使ってる冒険者ギルドに着くなり受付嬢のセアがこちらに手を振りながら駆け寄ってくる。
時刻は陽が沈む少し前。依頼を受けに来る人もおらず報酬を受け取りに来る人が少々で暇になる時間帯だ。
「あれ? そちらの綺麗なお方は?」
「私は旅人兼冒険者のミーアよ。リュージの新しい仲間といったところかしら。とりあえずこれを売りに来たのだけれど」
ミーアは先程のオーク達の死体から回収した素材が入った袋をセアに手渡す。
「こ、これはオークの牙と角!? それにこの大きさと硬度……まさかオークロードの!? す、すぐに査定してきます!!」
セアは血相を変えて袋を抱え査定の道具等がある裏手に下がる。
しばらくして日も落ちて、ミーアと世間話をしていれば時間が来てセアがジャラジャラと音を鳴らす袋を二つ持って来る。
「こ、こちらが買取額になります」
「えっ!? こんなに!?」
袋の中を見るがこんな額貰ったのは初めてだ。節約すれば一ヶ月以上は余裕で過ごせる。
バニスのパーティーに居た頃では想像できない量の硬貨だ。
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