第4話 願いを叶えるゲーム


「一体どういうこと……? 何でミーアはそんなことを知ってるんだ?」


「今この世界ではあるゲームが開かれているの。属性毎に分けられたクリスタルを十個集めて魔王の元まで持っていくっていうゲームがね」


 ゲーム。また新しいのが出てきたが話はまだ続くようなので俺は黙っておく。


「今あなたが取り込んだのは風のクリスタル。私が集めることを任された属性のクリスタルね。本来私と魔王以外扱えないはずなんだけど……」


 俺はあのクリスタルに触れた途端とてつもない力を発揮した。意図せずにオークを吹き飛ばずくらいには。

 明らかに本来の俺の力ではない。何たって俺は魔法が使えないのだから。


「ま、まぁ何がともあれお互い無事で良かったよ。あっ……でもクリスタルは俺の体の中に入っちゃったんだよな。どうにかして返さないと……」


「まずはそれについてね。じゃあ目を瞑ってみてくれるかしら?」


「ん? あ、あぁ……」


 俺はクリスタルを返すべく素直に指示に従い目を瞑る。だがそれだけでは何も起きず暗闇を見つめるだけだ。


「その状態で自分の中を見るように、自分の心と接するようなイメージを抱いてくれるかしら? そうすれば案外簡単に精神世界に入れるはずだわ」


「せ、精神世界?」


 新しい単語が出てきて聞き返そとするが目を開いてもそこには瞼と同じく暗闇が広がっているだけだった。

 ドス黒く何かが蠢いているようにも見えるひたすらに真っ暗闇のこの空間。ここが俺の精神世界なのだろうか?


「ん……? あれはさっきミーアが投げた……」

  

 しかし暗闇の中にも唯一光るものがあった。先程ミーアが投げ渡した風のクリスタルだ。俺は緑色に光り輝くそれを手に取る。


「成功したようね」


 再び暗闇に包まれたかと思えば聞こえなくなっていたミーアの声が届くようになる。

 瞼を開ければ俺の手には風のクリスタルが握らていた。触れるだけで感じるこのエネルギー。魔王の力の一端と言われても納得できる。


「はいこれ。ん? でもミーアはこれを使ってって言ったよな? 本来ならこれは使えないんじゃなかったのか?」


「私の見立てでは弾かれるはずだったから、その際の衝撃とかでオークに隙ができればよかったのよ。でもまさかあなたがクリスタルを扱えるなんて思ってみなかった。

 あの……一応聞いておくけど、デザイアって人からクリスタルを貰ったりしたわけではないよね?」


「デザイア……? いや会ったことないし、そもそもクリスタルを見るのも今回が初めてだよ」


 一応この世界での十九年の人生を振り返ってみるがそのような名前の人物は聞いたことも会ったこともない。

 

「ところでミーアは何でクリスタルを集めてるんだ? 魔王の元に持っていくって言ってたけど、魔族のいる国まで行くなんて危険もあるだろうし」


「担当する属性のクリスタルを十個集めて魔王に渡せば……願いを叶えてもらえるのよ。私にはどうしても叶えたい願いがあるの」


「願い? それは……」


「おい。何だこの惨状は?」


 話に集中して辺りへの注意が散漫になっていた。そのせいで新手にすぐ側まで接近を許してしまった。

 

「あれはまさか……オークロードか!?」


 何故ここら辺に出没しないはずのオークが居たのかたった今説明がついた。

 オークロード。オークの上位種に認定される魔物で特徴としては知能が高く統率能力があることが挙げられる。

 そして奴のランクはA。今のバニス達でも苦戦を強いられ勝てる見込みが低い相手だ。


「ちょうど良い相手ね。リュージ!! 今度はこれらを試してみて!!」


 気圧されてしまう俺とは対照的にミーアは物怖じせず戦う意志を見せる。そして今度は四つの、赤と青のクリスタルを二つずつ正確にこちらに投げ渡す。

 三つは掴み取れたものの一つが手の少し上を通り抜けてしまう。


「しまっ……」


 しかし落下するはずだったクリスタルの軌道がずれて、ふわりと浮き上がり俺の手の中に吸い込まれる。

 その瞬間ミーアの瞳が緑色に、風のクリスタル同様の色に発光する。

 ともあれ四つとも全て受け取り体内に取り込めた。一つだけであのエネルギー。四つもあればきっとAランクの魔物だって倒せるはずだ。


「よし! かかってこい!」


 俺は自信を持ちオークロードの前に立ち塞がってみせる。


「ちょっと待っ……」


 ミーアが何か言いかけるが棍棒が空を切る音に遮られる。だがその必死さと嫌な予感から本能的に危機を感じ取り俺は後ろに下がり棍棒を回避する。


 あれ……力が出ない。いつもと同じだ。


「リュージ!! 今クリスタルの力がオフになってるわ!! 精神世界に行ってクリスタルの力をオンにして!!」


 ミーアが風の刃で時間を稼いでくれる。奴が棍棒で刃を防いでいる間に俺はもう一度精神世界に行き、とりあえずすぐ掴める位置にあった赤いクリスタルを二つ掴む。

 全身が火で炙られるように熱くなり皮膚がヒリヒリしてくる。だがその痛みを堪え溢れ出る熱を体内に抑え込む。

 数秒すれば現実世界に戻ってきていた。


 あれ……時間が経ってない?

 

 精神世界に行く前と後で時間が経過しておらず、行った瞬間に放たれた風の刃がたった今オークロードに到達した。


「とりあえず何とかできた! あとは任せて!!」


 溢れんばかりの火の力をその身に宿し、俺はオークロードと対峙するのだった。

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