明けましておめでとうなっ。

11:10

「さむさむ」城山はこたつに足を突けて呟いた。粉雪がぐるぐると迷うように降っていく。一人だけ、蕎麦をずるずると啜っていた。

「大瀬さんはなにしてるんだろ、今日一度も会えなかったけど...」

私は心配そうに話す。


「今年は誰が歌うんかな.........知らんヤツばっかりやん」

大瀬はベッドに横たわりながらテレビを一人寂しく眺めていた。

「ぶぇっくし!くそぉ、なんで今さら風邪なんか...!ティッシュティッシュ...ティッシュどこ...」三日前、俺は風邪を引いてしまったのだ。どこの医療機関も空いてなくて、仕方なく市販薬でどうにか乗り切るつもりだ。

「城山ちゃんにもあけおめが言えないなぁ...」大きなため息が部屋の一部となる。...待て、何で俺は城山の事をちゃん付けした?

深々と降る雪に嫌気が差した。


着信音が鳴る。「誰だよ...ったくよ...」とぶっきらぼうに話す。スマホの画面には城山の名前があった。

「しろやまぁ?どうしたぁ?」必死に声を出した。やはり鼻声だ。

「大瀬さん!?鼻声じゃあないですか!?どうしたの、風邪引いちゃった?」城山の声はビックリしていた。

「ごべんなぁ、おまえのところいけねぇ。おまえもこないほうがいい」

「いいのいいの、無理しないで!電話で話せるなら良いんだよ、でも長電話はなしね」

「そうだな、おれも多分苦しくなる」

そして、話題は城山から始まった。

「そういや、今年やり残した事ってなんかあります?」

いやいや、縁起でもない事を。

「風邪引いた事」でしょーねと言っていた。

「部屋の掃除出来てないんでしょ?面倒くさいって言ってさ」

THE・図星。

「とか言ってる私もしてないんですけどねー」被せるように語る。

「あとあれ、バレないように追いかけることができなかった」ストーキングの話。目標はバレないように追いかけることだったが、何度試してもバレる。

「私の勘が鋭いって事ですね、ストーカー中の大瀬さんは頭隠して尻隠さずって言葉が似合いますよ、私的にはね」

「なんだとぉ」キレているつもりだか、鼻声過ぎて逆に爆笑された。

「でも、よく大学を特定できましたよね、それに関してはグッジョブです」被害者からグッジョブって言われるのは何だか違和感があるな。

「そのおかげでおまえの好きなもの知れたからプラマイゼロ」

「そう思っていただけて嬉しいですっ...所でギターは?」

「ちゃんと直ったよ」

「それはよかったです!今度聴かせてください」

「ふへへ、まかしとけよ」

11:23

なんだかんだ長話をした。

「長くなっちゃいましたね、すみません」

「いやいや、気にしないで。俺も楽しかった」

「それじゃ、またあとで」...また後で!?あえ、会うの?

「また後で...って何!?」

「なんでしょーね!」城山はふふふと笑って通話を終えた


「後で...?いや、やめとけと言ったはずじゃ...」


11:43

眠さと戦う四十三分。スマホをいじってブルーライトを浴びたり、コーヒをがぶ飲みしたりして睡魔と戦闘中。...コーヒをがぶ飲みするのはよくないな。これでやめておこう。

来年は何が出来るのだろうか?城山にいつ告るか、場所をどうするか、プレゼントはどうするか。考える度、恥ずかしくなってくる。想像する自分が恥ずかしいじゃなくて、城山の笑顔が度々浮かぶから恥ずかしいだけ。最悪鼻血が出てきそうだ。


11:56

城山から通知が来た。

「ベランダ来てください」城山に呼ばれればどんなところでも向かいますよ精神で向かう。(そりゃあ暖かい格好するよ。バカじゃないの。)


11:57

「年越しぐらい、一緒にいましょうよ。私は風邪引いてもいいんですから」

「自分を犠牲にしても俺と居たいのか」

「当然でしょ、好きなんだから」

「...あぁ、そうだな」

「はい、カフェラテ。さっき作ってきたんですよ、高速で。ちゃんと混ぜたつもりなんですが、混ざってなかったらすみません」どこか感じる可愛さ。

「やばい、凄い寒い...」

「ほらよ、カイロ」

「ぬるいっすね」文句を溢す。

「さっき開けたばっかだから...」

「でも、ありがたいっす。独り暮らししたら、カイロで温めさせてくれる相手なんか探さない限り永遠にいませんからねっ、大瀬さんが居てくれてよかったです」


11:59が終わろうとしている。

『5...4...3...2...1...』

テレビから除夜の鐘が鳴る。

「明けましておめでとうございます。大瀬さん」

「明けましておめでとう。城山。城山は三年になるのか?」

「ええ、そうです!大学三年生です!今のところ留年してないですし」

「俺も、仕事を持つかな」

「えっ、持っちゃうんですか。なんか寂しいですね。」

「...親から自立してぇんだ、クソ親だから...」

「仲間ですね、私こそ、自立できればいいんですけど、なんせまだ学生ですから...」

「あと二年頑張れ」

「がんばります!」


十二時。寒さは未だに終わることがない。そんな中、俺と城山の周りだけは暖かい。城山におやすみと告げ、自室に戻っていった。

今年こそ、幸せな年になれると良いな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おかしな二人 2ru @2ru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ