カップル以上恋人未満
デッサンモデルになってください
そういえば、城山に頼まれていた事があった。「デッサンの被写体をやってはくれぬか」と。なんだ、その文豪じみた文は。くすっと笑ってしまった。こういう面白いところが、城山の特徴であるのだろう。
ロックを爆音で聞く城山の家へ凸る。苦情も兼ねて、だ。
「城山ちゃぁぁぁん!うるさいよぉぉぉ!?」
「一也さん!」いつの間にか城山は、俺を下の名前で呼ぶようになった。
「ごめんなさぁい...独り暮らしで浮かれてて」失敗しちゃったー、てへぺろ☆、とでも言うかの様に舌を出す。
「よかったな、苦情を入れるのが俺で。他だったら殴られてたぞ」
「最悪はここを追い出されるハメに...」泣き真似。
「分かってるんだったらやめましょうよ」いきなり敬語。
泣かれると困る(別の隣人に冷たい目で見られる)ので、よく敬語になりがちなのである。全く、城山は世話が焼ける。
「苦情はここまでだ。もうひとつ質問。俺に用があるんじゃないのか?」
「あー、デッサンのあれね!んじゃ、準備はいい?」
「いきなり!?」
「決まってるじゃん、課題は明日の夜まで。出さなかったら私は留年...それでもいいの...?」うるうるとした瞳で見つめる城山。
「他を当たれよ、綾乃古町とかいるじゃん?」
「また名前間違えてる...他は嫌なの!大瀬さんがいいの!」
「なんだよ、課題が男なのか?」
「...そうだけど」やはり、ひとつしかない
「なに、性的なやつ?」
「ソウダヨ、キョウジュッテクルッテルヨネ」
違う、教授のせいじゃない、《城山がしたいだけ》だ。
「松代とくっつけと???」
「えへへー...」わざとらしく後頭部をさすった。
「どこが『えへへー』だ!アイツはもう懲り懲りだ!」
「じゃあ、私とくっつきたいの?」
「はい...」
「...下心丸見えだよ♪」
「やっぱ城山って変態!!」今更?と首をかしげる。イラッとした。
そんなくっ付けとかの話はどうでも良くて、課題をやるのは城山だから俺はモデルだけでいい...と言いたいのだが...
離れろ離れろ城山ァ!近い近い!むしろ暑い!
「(胸...ちっせぇ...城山、いい匂い...太陽の匂いがする...)」
「あー、さっき胸ちっちゃいって思ってたでしょ!今はまだ成長期!」
「もうそのぐらいの年齢だと成長期って止まると思うんだよね?」
「うるさい!これからもっとおっきくなるの!」
「(でも、抱き締められるくらいだからでっかくなくてもいいのかも...)」
「城山、でも書くのはお前だろ?」
「はっ!目的を忘れてました!ごめんなさーい!じゃあ、好きなポーズして立ってて下さい!」俺は部屋の端っこにあった使われていない新品なダイナーな赤色カウンターチェアを使って座ってみた。艶が尻に入り込む。膝に肘を置き、両手で顎を包んでみせた。被写体だなんて初めてだから、ちゃんと出来るのか、動かずにいられるか不安だ。
城山はイーゼルとキャンパスの裏側から親指を立てていた。
カッカッカッ、ガリガリガリ、サッサッサッ。鉛筆の音が心地よい。
白かったキャンパスには、一人の俺がいるのだろうか。
時々うとうとしそうになる。その度に城山に起こされる。
「すぐASMRで寝ちゃうタイプなんですね」と笑われた。
「───さん」
「一也さーん、終わりましたよ?」
「うあっ!俺寝てた?」なんか、不思議な夢だったな。
「何度起こしてもダメだったみたいです」微笑みかける城山。そんな自分が恥ずかしく思えた。
「...締め切りは間に合ったのか?」
「無事間に合いました♪」俺が寝ている間に行ってきたそうだ。
「鍵をキッチンに置いたのですが、寝てたので無意味ですね...私の家、泊まります?」
「いいのか?」
「ええ、最近泊まらせてもらってますから」お互い顔を見合わせた
『自分達、敬語がやめられないみたいですねぇ...』
今度は自分がきぐるみパジャマを着なければならなくなった。
「お揃いだね」と本人は喜ぶが、俺はそうでもない。タンクトップ一丁の方が楽だ。でもまぁ...悪くはないな。
砂時計の音、秒針の音。四方八方に時計が飾られている。種類は豊富でアナログ時計、デジタル、砂、鳩時計、目覚まし時計。種類が豊富だ。
目覚まし時計が鳴り響くと、次々と時計が時間を知らせてくる。時間は午前十時を指す。そんな大音量を流されたら、両耳を塞ぐ個としか出来ない。そんな奥に城山が。
「城山っ!ここはどこだ!?」
「────!」何かに苦しんでいる様子だ。よく見ると...引きずられている?首元に手が。
「待て!どこにいく気だ!城山をどこに連れていくんだ!」
それに対し返答はなかった。時間と共にベルの音が大きくなっていく。やがて、耳を引きちぎられそうな痛みまで襲ってきた。
おかしな二人 2ru @2ru
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