人生イチの大ピンチ
講義のない土曜日の九時。城山の足取りは軽かった。
スタスタと軽快に足音を鳴らす。
時々、「あちっ!」と声を上げる。少し心配だ。推定するに十時のおやつを作っているように見える。料理が得意なのは知ってることなのだが、スイーツも得意というのは全く知らなかった。尊敬する。僕はカレーすら作れない。
「カップケーキ♪カップケーキ♪ランランラン♪」変な歌を作るのが彼女の特技だと思う。
「これは私で...これは綾ノ町ちゃんに、これは大瀬さん!」水を吹き出した。
「(また来てくれるんだ...嬉しい...)」
「大瀬さんチョコ好きだっけ?」
「(はい大好きです!城山さんの持ってくるやつ全部好きです!)」
「いい感じの袋入れなくちゃね!なんか有ったかな?」
「(そのまんまでもいいんだよぉ!?)」そんな丁寧な一面もあったのか。
「お、あったあった!うさちゃんでもいいよね...?紙袋は...いっか!いらない!」
「(そこはいらないで良いんだ!?)」
「んじゃ、早速行こ!温かいままじゃないとよくないよね!」
インターホンが鳴り、ビクッとする。
「はっ、はい」
「城山だよっ」
「城山さんでしたか!相変わらずお料理が上手で」
「あれ、カップケーキあげようって話聴かれてた?あ、あのカメラ、録音機能あるのか!お得じゃん」ひとり、話を進められている。
「ねぇ大瀬さん、部屋見せてよ!」人生イチの大ピンチ!!
「いや...俺、部屋汚いから...」
「いいじゃーん!」まるで帰りを待っていた犬のようにワクワクしている。
「じゃっ...ど、どうぞ?」入れさせてしまったーッッ!
「男の子の匂いがするね」恥ずかしーーーっ!
「ベッドとキッチンと棚は清潔にしてるんだ、凄い。」
ベッドで寝転ぶ彼女の姿を見て、勝手に興奮している。カメラに収めてしまいたい。今日から彼女の匂いがついたベッドで寝るのか...!カシャッと一枚。
「この部屋なんだろ」
「そこはやめっ」
「...」絶句だ。ドン引きされて、警察に通報されるかと思ったら...
「へー、大瀬君らしいね。いい趣味してるじゃん?あっ、良いこと思い付いた。」壁に貼った城山の写真を丁寧に取り、マスキングテープをゆっくり剥がし、一枚ずつ重ねていく。
最後にホチキスで「カチッ」と。
「はい、写真集!こんなので壁に傷が付いたら元もないでしょ?枕元にでも飾りなよ。」ホチキスで留められた写真の束は、グラビアの写真集を見たかのような新鮮さを覚えた。
「で、私をナニかの材料にするのは良いけど、ティッシュはちゃんと捨てなさい!虫が集ったら困るでしょ。げー、変な臭いする...。何日放置したの!?」
多分それ一昨日のやつだー!塵取りでかき集められ、一気にゴミ箱にポイ。
今月分の燃えるごみプラスチックの分別をする必要はもうなくなった。
「はぁ、片付けは不器用なんだね、大瀬君って。私が週一で来てあげた方が良いのかもね...」
「あわわ...」
「あっ、昼時じゃん。ご飯作ったげるよ!最近カップ麺しか食べてなさそうだし!」
「鮭のみそバター蒸し、エビと小松菜の中華スープ!どう?栄養価高いよ!」
「おいしっ」
「ちゃんといただきますを言えー!」
「長居しちゃった!めんごめんご!」
「こちらこそ楽しかったです!」
「それでは、また明日!」
明日も来るのーーー!?嬉しいけど!?来るんだ!来ちゃうんだ!
夜。
「九時間ぶり!」
「どっからスペア奪ってきたー!?」
「いやー、どうしても眠れなくてさー!大瀬君と寝たいなー!って。」
俺らはベッドに就いた。城山の柔軟剤の匂いがあまりにも優しくて、眠りなんてあっという間だった。
「なんだか、お家デートみたい...ですね」ふかふかなクマ耳着きパジャマに抱きつくしかなかった。さもないと理性がプッツンして城山に手を出しそうになるから...
「手、出しちゃってもいいんですよぉ?」
「うるせー寝かせろ!!」
普通に一晩寝かせてしまった。
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