おかしな二人

2ru

「カレー、どうぞ。」

隣人、城山ハナ。

「こんにちは、初めまして!...どちら様でしたっけ?」

「隣人の大瀬です。俺ったら、ずっとお隣さんの事気になっちゃって。」

「えっ!?き、気になる要素あります?いっ、いたって平凡ですよ!?」

ピュアそうな女性だ。はじめて男に会ったような照れ具合をしている。

「そうじゃなくて、どんな方かって気になっちゃって」

「そっ、そうなんですね...!よかったらお茶でもしますか?段ボールばっかですが...」

「いいえ、気にしませんよ。大丈夫。じゃ、御言葉に甘えて失礼します。」


「お茶、用意しておきますね。どうしますか?緑茶と麦茶がありますが...」

「本当にありがとうございます。では麦茶で...」

「わっかりました!」

この隙を待っていた。キッチンからは俺の姿が見えないし、キッチンとリビングの境目のドアには、ぼかしガラスのドア。俺が何をしているのか見えるわけがない。戻ってくる前に、小型のカメラを付けて置いた。夜が楽しみになる。


「部屋、油臭かったらごめんなさい。私、美大に行ってるもので...」

「美大ですか!凄いお方ですね...!」

「そっ、それほどでも~?絵の具、クレヨン、チョーク、油性ペンとキャンパスだけ集めて画家気分に浸ってるだけの人だから...」これ以上問い詰める気も無かった。

「それに私、変人呼ばわりされてますから...やっぱり、大瀬さんも私の事、変人だと思っちゃってます...よね?」

「いいえ?優しい人だと思っていますよ。俺も、あまり趣味嗜好が理解されなくて。」

「仲間ですね!!!嬉しいなぁ!」呑気に鼻唄を歌い始めた。


「上京したのが高校生で、私は絵が好きで...美大に行きたかったんです。でも親が勉強だの後継ぎだの煩く言ってきて、逃げてきちゃったんです。ここから実家は遠い訳ですし...」

「そんな過去が。大変でしたね...」ゆっくりと麦茶を飲む。

「今考えれば、『こんなことあったなー』程度なんですがね、へへへ。」照れるようにニコニコと笑う。


30分か話をしていたらあっという間に暗くなった。もう秋だから?早いなぁ...

「そろっと戻りますね。城山さんも段ボールの処理が忙しいのに来てしまって申し訳ないです」

「あっ、あの!」なんだろ?

「カレー、余ったので...良ければ夕御飯に...」こんな展開、リアルであるんだ。と感心してしまった。

「ありがとうございます...そ、それでは...」

「ありがとうございました...」

お互い顔を真っ赤にして自分の位置に戻った。




暗い部屋に戻ったカズヤはパソコンを前に怪しい笑みを浮かべる。

「(今の時間は風呂に入ってるか...ちゃんと服は着るような子だと思うが...)」ガラガラと音が鳴る。風呂から上がった。そこで驚きの光景を見せられた。

「アイスっ♡アイスっ♡わたしの愛しのアイスちゃーん♡」

___今の城山ハナは、であった。今、第一モニターには城山の下アングルが写し出されていた。

鼓動が早まる。全身の血が沸騰する。指先手先足先全てが熱くなる。

鼻血が溢れ出る。小刻みに息をする。


アイスを一口食べた城山は、喜ぶ子供かのように足をバタバタとする。

「んーおいしー!引っ越し作業の後と風呂上がりのアイスはおいしー!」

血をだらだら垂らしながら画面を見つめる。俺の第一声、「かわいい...」。

アイスをパクパクと食べていく城山は尊かった。これが「推しに食べられたい」と同じ衝動(?)だと言うことに気づいた。


全部食べ終わると城山はカメラに気づいた。

「んぅ?こんなのあったっけ?もしかして大瀬さんが付けてったのかな?盗撮かぁ!人生で初めて遭遇した!」

いつのまにか、俺は巨体モニターに張り付いていた。キーボードは血でべっとりと汚れている。

「やっほー、大瀬さん!見てる?あれ、私太った?」手を振られ、ビックリした。思わず振り返す。

「これが付けられてるって事は...[自主規制]してる時も大瀬さんに見られちゃう!?いやーっ♡はずかしー♡!当分は出来ないかぁ...」期待した俺が恥ずかしくなる。「こんなこと喋ってるより、服着替えなきゃ、寒い寒い...」


俺は叫ぶ。『早く着替えろバカーッッッッ!!』


思春期に戻ったような(?)そんな気がした。


これは恋が始まるのか、それとも変が始まるのか、一つの「へん」や「つくり」が変わることで意味が変わってくるのと一緒で、一つの路線で恋の展開がひろがっていくのか、はたまた狭くなるのか?今の俺には予測しようがない。

とにかく、ちょっと見せられない液が着いたティッシュを片付ける事と、血で汚したキーボードを拭くのが今の使命であろう。




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