国々

魔法の練習をある程度こなした僕は、次の目的地である書斎へと向かった。もちろん聖騎士2人も一緒だ。

書斎と言っても実際は図書館と同じくらいかそれ以上の広さで、壁一面を埋め尽くす書物は国の歴史から魔法の研究書まで多種多様。


書斎に入ると、いつもの静けさが心地よく感じられる。

するとここを管理している人間がこちらに気付き、慌ててやってきて跪く。


「これはラスト様!いかがなさいましたか?」


「うん、確か大陸の地図ってあったよね。持ってきてもらえる?」


「承知しました」


管理人は小走りで取りに行きすぐに持ってきた。テーブルに地図を広げてこの大陸にある国を確認する。

まず目に入ったのは大陸の西側をほぼ支配している巨大な国、ゾラン帝国だ。


ゾラン帝国は、ただひたすらに実力主義の国だ。

種族や生まれに関係なく、実力さえあればどんな立場でも出世できる。エルフ、ドワーフ、獣人、そして亜人、すべてが対等な競争の中にいる国だ。

若者たちの育成にも力を入れており、基本的な読み書きや計算はもちろん、戦闘技術や魔法も無料で教えてくれる学園もある。というか物語の始まりの学園だな。

物語通りなら僕も文化交流でここの高等クラスに通うことになる。


そして、ゾラン帝国の帝王は竜だ。普段は人間の姿をしているが、神の並ぶほど莫大な力を持つ存在。

設定では自らを倒せるほどの強者を弱小な種族から作るという趣味の悪い楽しみ方をしており、それが理由でこの帝国を創った。

実際ゲーム内では裏ボスとして戦えたが、ラスボスを倒した後でもしっかり対策をしてようやくまともに戦えるほどの強さだった。


次に視線を移したのは、大陸の中央を広く支配しているアスウール神国。僕が生まれた国だ。

ちなみに主人公もアスウール神国の領内にいる、まぁ帝国との国境付近にある村なので僕らが住まう神都からは遠いんだが。


アスウールとは、かつて存在した偉大な神の名で、僕たち王族はその子孫にあたる。

国民からは神そのものとして信仰されており、まぁ言ってしまえば宗教国家だ。

今でも神の力が僕ら一族に強く残っており、その影響で神都周辺は魔物がほとんどいなく、国全体で見ても他と比べれたら少ない方だ。

そして領内には巨大な世界樹の周囲に築かれたエルフの里があり、その世界樹からは治癒と光の魔力が溢れ出ていて、病魔や呪いにかかった者や深い傷を負った者が治療のために訪れている。


次は大陸の東側を支配しているべテス王国。

この国には、神が残したとされる3つのダンジョンのうちの1つが存在している。

そこで得られる様々な財宝は非常に貴重で、他国との交易や魔導具などの研究においても重要な役割を果たしている。

べテス王国は冒険者たちの楽園とも言える場所だ。ダンジョンの存在が国を支え、そこから得られる財宝や道具が多くの人々を呼び寄せる。

そのためダンジョンがある王都は常に賑わっている。


次は大陸の南側を支配するセレシス魔導国。

この国は魔法や魔導具の研究で知られている。常に最新の魔導具が開発され、それが各国に輸出されている。

セレシス魔導国のトップである魔導王は、人間でありながら莫大な魔力量を持ち、その力で不老となっている。

彼は『勇者の書』の中でも相当な実力者として描かれていた、莫大な魔力量で火,水,木,風の4つの属性の魔法を扱い戦う彼は魔導王の名に相応しい存在だろう。


そして最後は大陸の北側だが、北部には広大な森と山脈が広がっており、一応アスウール神国の領土とされているが、そこには強力な魔物が数多く出現するためほとんど手付かずの状態だ。

しかし、その地で得られる素材は非常に価値が高く、魔導具や装備の材料など様々な用途で使える。

命知らずの冒険者たちが命をかけて足を踏み入れる場所だ。


僕は広げられた地図を見つめながら、『勇者の書』の物語の流れを大雑把に整理する。


『勇者の書』の物語では、主人公たちは主に邪神教団という組織と戦うことになる。

邪神教団の目的は封印されている邪神を解放することであり、そのために彼らは生贄を集める必要があった。

邪神の復活に必要な生贄を得るため、教団は様々な事件を起こしていく。それを主人公たちが次々と解決し、成長していくというのが大体の流れだ。


最終的には邪神が自力で復活し、世界を破滅に導こうとする。だが勇者として覚醒した主人公とその仲間たちは力を合わせ、邪神に戦いを挑む。

激戦の末、邪神は討ち倒され、世界に平和が戻るというのが物語の結末だった。


そしてラスト・アスウールはというと、その物語の中で邪神教団と敵対する存在だった。

ラストは邪神教団からの勧誘があったものの、それを持ち前の傲慢さで断り、勧誘に来た者たちを全員始末してしまう。その中には邪神教団の幹部もいたので、当然敵対関係になった。

敵の敵は味方とも言うが、ラストは主人公を配下にしようと主人公の妹を人質にとったことで対立も深まり、最終的に彼らと戦う運命をたどることになる。


「邪神教団か…」


邪神教団には洗脳された者も多くいる。その中には有能な人物もいるのでどうにか助けてやりたいが、まだ力も弱く幼い僕には何もできない。

とりあえずは魔法の修行だな。

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