第4話

「ねぇ、覚えてるかな。初めて話したときのこと」

「うん」

 女との出会いは、中学生のときのことだから、もう七年ほど前になる。その日の朝、おれは三年生になってはじめての朝礼会で、一つ年下の女を見つけたのだった。お互い、一組と七組だったから、学年が違うものの、隣同士になって何人かの先生の話を聞いていた。

 そのとき、おれはなぜこんな片田舎にこれほど可愛らしい女の子がいるのだろうと思った。その肌をみて、当時痘痕のあった自分の肌でほおずりしたいと思った。もしも、既に彼氏がいるなら、何度呪っても足りないだろうと思った。

 おれはその朝礼会が終わった後、ほどよく生徒が散ったのを見計らって、女に声をかけた。第一声が、おれのこと知ってるか、だった。

「だって、君は年下キラーだったんだもん」

 女は、おれのことを知っていた。一年間で三人と交際を果たした一学年下には、おれの悪名が知れ渡っていたのだ。

「だから、最初は警戒したよ」

 それでも、女は知ってますよ、と微笑んでいた。さすがにすぐには連絡先の交換はまずいだろうと思い、二、三、適当に話した後で退散したのだった。

「いきなり付き合ってよって、いわれるかとおもったよ」

 結局、二回目に会った時には連絡先を聞き出し、一週間ほどやりとりをしたあと、女に交際を申し込んだのだった。

「だってさ、あんなにストレートに好き好きっていう人、後にも先にもいないよ。だから、根負けして、いいよって、いっちゃったんだよね」

 当時、この女の姿は、やはり地味そのものだった。しかし、磨けば光り輝くのではないかと、高慢なことを考えていたのだ。

「私も中学生だったからね、好奇心はあったよ」

 女は特に、おれのことが気になっていたわけもなく、そしてその起伏のない感情は、その後もほとんど起伏を生まなかったそうだ。

「あ、でも、別に私は変わったわけでもないしね」

 数年経って、互いに高校生になったころには、おおよその行為は済ましていた。しかし、はじめて行為に及ぶときもそうだったのだが、おれは女の所作に違和感があった。

「私、君が思っているよりあざといからね」

 なんとなく、上手だな、とつくづく実感していた。おれにとっては女がはじめての相手だったのだが、女はおれの技術よりも数段上をいっているように思えた。まるで、この女にも男性器がついているかのように、どこをどうすれば、良いのかということをよく理解していた。しかも、その刺激の順序といったら、緻密に計算されたように思えた。

「好きな人の前だと、まだ何にも知らないふりだってできるよ」

 目の前の女のことを、何も知らないまま、おれは大人になってしまった気がしている。

 この女について、文字に起こせそうな事実を並べることはできる。例えば、どこの高校を出て、どこの大学へ入ったのか、それと、ときどきモデルとしても活動している、といったような、客観的な事実ならもちろん記述できそうだが、この女をどう表現すればよいのか、おれにはさっぱりわからない。

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