第66話
っ!?
「……
ふふ、
頭の廻りがはやい子は好きだよ。」
冬月家を、実質的に解体に追い込む気か。
確かに、それは、
俺の復讐の完遂を意味する。
でも。
「……
千景の言う通り、
心の甘い子だね。」
ぐっ!?
だ、だって
「かあさんをくるしませたくないです。」
ずっと、喋らなかったのは、
きっと、そういうことだろうから。
「ふぅん、そうかい。
親孝行なのは結構だけどね。
まどかのことは、大切じゃないのかい?」
「もちろん、たいせつです。」
「なら、考えるまでもないだろうに。」
い、や。
「まゆずみまどかちゃんは、
まだ、9さいです。
たまたま、5さいのときに、
となりにすんでいたぼくとあっただけで、
これからすてきなであいがあって、
こころがわりするかもしれません。
でも、まどかちゃんは、
ぎりがたいこですから、
ぼくのことを、すてないきがします。
いっときのぐうぜんにつみのいしきをいだき、
しょうがいをさゆうされてしまうのは、
かわいそうです。」
「とんでもなく思いあがった考えだね。」
ぶっ!?
な、なんでっ!
し、しょうがないっ!!
「ぼくのうちは、
おかあさんはとってもきれいですけれど、
おとうさんはふつうの、
どっちかっていったら、
がてんけいのかおをしてます。
たぶんですけれど、
ぼくがそんなにまずくないかおなのは、
しょうがっこうていがくねんのうちだけで、
らいねんいこうになったら、
おとうさんよりのかおになるとおもいます。」
実際、俺の前世はそっち寄りになっていった。
ショタの年限はシングルエイジまでだから、
遺伝子が強いなら、それは。
「……ははは。
そうすると、ぼうやは、
自分の顔が可愛いって思ってるわけだ。」
ぶっ!
そ、そういう風に響くから、
この表現は嫌だったんだっ。
「ちかげさんはびじょですし、
たくまさんは、ごらんのとおり、
ぜっせいのびだんしです。
そして、かいちょうさんも、
とっても、うつくしいおかおだちです。
まゆずみのいえは、
びなんとびじょでつづくべきです。
ぼくのような、
ふつうのおとこのいでんしがはいっているものが、
まどかちゃんの、まゆずみけのいでんしに、
まざってはいけないとおもいます。」
「……
なるほど、これは相当な変わりモンだ。
物凄く面白いな、琢磨。」
「でしょう。」
え。
いま、渾身の説得カードで、
これ以上なく丁寧に断ったつもりなんだけど。
って。
は?
「うちの旦那だよ。」
げ。
し、白黒であることをさっぴいても、
どうみても普通のオトコだ。
「黛の遺伝子、舐めんな。」
ぶっ!?
な、なんて言いぐさ。
「ははは。
まぁ、確かに、
9歳のうちに運命を決めるっていうのも、
前時代的だね。」
そ、そうでしょ?
それはそう思うでしょ。
「12歳。」
は?
「だいっぶん長いがね。
私ができる妥協はここまでさ。
その時までに決めておくれ。」
はぁ??
「あぁ。
冬月のことは、
琢磨、お前に任せる。」
「はい。」
「それも、
この子次第だがね。」
え?
「ははは。
なかなか愉快だったよ。
じゃぁね、勇気ある可愛いぼうや。
私が地獄に堕ちていなければ、3年後にまた会おう。」
*
……
はは。
貸衣裳、再び、だわ。
ほんとに買ったほうが安いかもしれない。
……
洗練された懐石料理屋だなぁ。
愛香の大叔母様ん家の資本が入ってるらしいけど。
東京のパトロンからも縁を切られたし、
軍門に下るしか、なかったわけだけど。
「……。」
向こう側に、二人、座っていて。
右側の、少し腹の出た、
眠たそうな、陰険な眼をした中年男性が。
冬月、正勝。
このオトコが、
父さんを自殺に追いやり、
母さんを病死させた。
……
母さんとは、
血、繋がってなかったのに。
冷酷に無視するだけでも許しがたいのに、
わざわざ追い打ちしてたっていうのは。
「こちらの条件は、お伝えした通りです。
貴方たちが例の地下で行っていたことを告発しない代わりに、
貴方の一族が個人所有している株式と、
関連会社が保有している株式について、
それぞれ、市場価格の三倍でお譲り頂く。」
三倍、か。
かなりいい条件に聞こえるが、
黛の包囲網によって、株価を三分の一まで引き下げた後だからな。
ホワイトナイトが出なかったっていうのが、
こいつらの日頃の行いの悪さを証明してるけど。
「……。
娘たちは。」
あぁ、
俺にとっては、従姉に、
ならんのか。
血、繋がってないんだったな。
「ご心配なく。
高校側には、適切な配慮をお願いします。」
「それでは、虐められる。」
は?
コイツ、この後に及んでなに言ってるの?
「では、粛々と告発致します。
警察内の地図も、だいぶん変わりましたからね。」
「くっ……。」
ブラフだっての、わかんないのかな。
っていうか、
「てんこう、しないの?」
「っ!?」
あぁ。
名門校なのか。
地元では名のあるような。
でも、
「ばかじゃないの。」
「な、なんだとっ!!」
あぁ……
そういうことなのか。
それは、いったん置くとして。
「だって、おじさんはもう、
このまちにいられないんじゃないの?」
「っ!」
「こんかいのけんで、
いろんなとりひきさきにすっごくめいわくをかけまくってるし、
こんなおっきいいえにましょうめんからにらまれちゃったら、
このまちでばんかいするの、ひゃくねんくらいはむりだよ?」
「……きさまが
「そうだね?
ぼくのせいだよね。
あんたが、
ぼくのかあさんを、
ごうかんなんかしようとするから。」
「!?
な、なぜ、そ……
っ!!!」
……
やっぱり、な。
(まぁ、漢気、かな?)
(お父さんはね、
私を、護ってくれたの。)
無鉄砲で、力任せで、
後先を考えていない父さんだからこそ、
できてしまったこと。
地元で名の知れた家の嫡男の兄と、
連れ子で、養子の母さん。
逆らいようがない関係だと分かっていて、
周りから遠巻きに見放されていた母さんを、
その無鉄砲な漢気で護り、そして奪った。
だから、
父さんは、自分の背伸びできる限界の家を買った。
母さんに、少しでも前の環境に近い状況にしてやろうと。
それを、
このオトコは、容赦なく、潰した。
「しらべたよ。
とうさんのぜんにんしゃのぶちょう、
あんたのかいしゃにつながってたんだよね。」
意図的に破産させようとしていた。
そう考えると、話が全部、繋がってしまう。
旧軍の繋がりや過去の経緯。
もちろん、それも後景にないわけじゃないけれど、
それはただの人脈に過ぎなくて、本命は。
「きれいなきれいなかあさんを、
ぽっとでのみぶんのないふつめんにとられちゃった、
ごうまんであわれなくそおとこの、
みにくいみにくいしっと。」
「き、きさまぁぁぁっ!!!」
なんで、だろうな。
いま、まさに、復讐が遂げられようとしてるのに、
ただ、空しいだけで。
こんなオトコのために、
父さんは殺され、母さんは手も差し伸べられずに死んだ。
自分を裏切ったと身勝手に感じた逆恨みと、見せしめのために。
一片も報われなかった31年の人生を思うと、
沸騰するような怒りが湧き出てくるはずなのに。
いまは、ただ。
「どうなさいますか。
私は、会長に、
今日中に報告するように申しつかっています。
貴方が、私の提案を拒否されるなら、
私は、私の職権で、
貴方の会社を、今年度中に清算しますが。」
さすがに他法人にそこまでできっこないはずなのに、
目の前のクソ中年男性は、血色の悪い口をぶるぶると震わせたかと思うと、
スローモーションのようにゆっくりと机に突っ伏した。
あ。
泡、吹いてる。
って。
琢磨さん、めっちゃいい笑みを浮かべたけど。
「たったいま、
貴社の社長は心神耗弱になったようです。
貴方は代表権をお持ちですから、
社長の個人所有分以外の株式について、
緊急対応権の範囲で、契約、いただけますね?」
うわ。
向こうの副社長、首を縦にぶんぶん振ってる。
冬月一族の人間のはずなのに、ここまで買収済だったとは。
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