第65話
「本家が、動いたよ。」
……らしい、なぁ。
「関連会社や協力会社を通じて、
冬月の入札案件を片っ端から潰してる。」
うげ。
「だいじょうぶなの?」
役所相手にそんなことしたら、
それこそ談合を疑われそう。
「あぁ。
向こうの社内に、情報網を作ったからね。」
ん?
ぶっ!!
こ、この資料の束は。
「法人にとっての調査会社の活用っていうのは、
本来、こういうことをするためのものなんだよ。」
う、うわ。
琢磨さん、めっちゃいい顔してる。
弱みを握りながら内側から切り崩してってるってことか。
「うやむやになったとはいえ、
こないだの一件で、
向こう側はだいぶん打撃を受けたからね。
いままで、ちょろちょろと跳梁していたのは、
こっちが等閑視していたからで、
こっちが旗色を鮮明にすれば、難しいことはなにもない。」
……はは。
冷酷無比なコングロマリット中枢の顔をしてる。
ふだん、可愛い姿しか見てないから、意外。
ってことは、
黛家の中を思想統一できたわけか。
それは、おそらく、最高意思決定権者の
「ただ、向こうの動機が、
よくわからないんだよね。」
ん?
「きゅうぐんのじんみゃくがらみじゃないの?」
「あの資料を見た時には、
僕もそう思ったんだけどね。
特にそれ系の政治献金があるわけでもないし、
そもそも、少し距離を置いてたはずなんだよね。」
ん??
「まぁ、そろそろ、
向こうも音をあげると思うから、
その時に聞くといいよ。
その前に。
きみに、行ってもらうところがある。」
え?
*
う、うわぁ。
す、すごいな。
前の道、狭いけど、
邸宅の端が見えない。
「はは。
もともと、山だからね。
切り崩しただけだよ。」
つったって、
このへん、もう再開発住宅地に連担してるじゃん。
住宅地側から見たら、旧城主の御殿みたくなってる。
「僕もね、
最初に来た時は驚愕したよ。」
まさにいま、驚いてる。
ざっくり見ても、1000坪以上ありそうだな。
持ち主が死んだら相続税払えずに重要文化財指定されそう。
ここが市街戦で焼かれてしまう光景はとても想像できない。
こっちは例の貸衣装。
千景さんが作るって言ったけど、断固拒否。
身分不相応なことはすべきではない。
……まぁ、髪型だけは整えたけど。
「さて、と。」
ぶーっ
『どなたですか?』
「琢磨です。
お願いします。」
『あぁ、はい。』
がこんっ
……重そうな扉が、すぅーっと開いた。
マジ、すげぇ家だなぁ。
んあー。
中も広いわ。兼六園かな?
うちの庭なんて、ナチュラルな草しか生えてないのに。
……はは。
とんでもねぇなぁ、いろいろ。
ま、一生来ることもないだろうし、
面白いからいろいろ見よう。
うわ、
錦鯉、飼ってる。
あれだけで一匹100万円くらいするんだよな。
成りあがり政治家が餌撒いてる姿、資料映像で
「満明君?」
あぁ、
「はーいっ。」
やばいな、
なんかちょっと、楽しくなってる。
*
「会長がお会いになります。
どうぞこちらへ。」
「ありがとうございます。」
会長、か。
まだ、完全に退職してはいないわけか。
同族企業の総帥ってことね。
うっわぁ。
広い廊下がめっちゃ磨き抜かれてる。
千景さんの豪邸すら可愛くみえるわ。
あれ、
ここだけちゃんと、施錠されてる。
ふすまじゃないんだ。
「会長。
琢磨様とお連れ様をお連れしました。」
つながっちゃったな。
ややこしいなぁ。
『入りなさい。』
「はい。」
お手伝いさんが、頭を下げて、
琢磨さんが、ドアを開ける。
お高そうな無垢材机の先に、
初老に見える夫人が鎮座している。
……
この人、が。
米寿って聞いてたけど、
確かに、髪は真っ白だけど。
ぜんぜん、若い。
60代後半って言われても、
あぁそうですかと思ってしまう。
なんていうか、オーラが凄い。
人を率い続けた者だけが持つ堂々たる佇まいだ。
「あぁ、
ぼうやが、そうなのかい。」
おっと。
「はじめまして、
はるまみつあきですっ!」
初手のショタスマイルⅡ号っ!
「おや、可愛いらしい。
まどかの心を射止めただけはあるねぇ。」
なんてこというの。
でも。
「あぁ、ぼうやの心配には及ばないよ。」
え?
「ぼうやは、
冬月の血を、引いてはいない。」
えっ!?
だ、だって。
「あれ、知らなかったのかい?
冬月勝俊氏の、後妻の連れ子だよ。
養子縁組したから結婚前の苗字は冬月だったけど、
冬月の血は受け継いでいないよ。」
ぶ、
ぶっ!?!?
た、たくまさん、
そ、そのしりょう、
さ、さては
「ぬきとったんだねっ!」
「そうだよ。
はははは、あはははは。
いやぁ、きみのその顔を見るのが、
昨日からずぅっと楽しみでねぇ。」
お、お、おのれぇぇえっ!!
ど、どんどん性格が悪くなってる。
あぁ、ピュアで抜けてた頃の彼を返してぇ……。
は、
はぁぁぁぁ……
な、なんだよっ。
ほんとにもうっ。
!
だ、
だから、
叔父じゃなくて、小父なのかっ!!
ち、ちくしょぉぉっっ!!
「さて、と。
ぼうやは、冬月の家を継ぐ気はあるかい?」
え?
俺は血を継いでないって、
たったいま、言った
っ!?
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