第63話


 !?

 じゃ、じゃぁっ。

 

 「そうなら絶望しかないが、

  鷹野家はなにも関知していない。

  あの家は別次元の話で忙殺されていたからね。」

 

 ?

 

 「それは皐月愛香嬢に聞く機会があるだろう。

  で、稲田徹司の生家は、

  あの地下施設の内装事業に関係していた。」

 

 そもそも、あの施設はなんなんだ?

 

 「巨大防空壕。

  というのは隠れ蓑で、大本営の移設地候補。」

 

 は?

 だって、大本営の移設地は、長野の

 

 「あの頃、極秘裏に検討されていた移設地候補は

  いくつかあったらしいんだが、

  移設計画そのものが破棄された後、

  用地の一つを、違う用途で極秘裏に整備していたようだ。」

 

 違う用途、ねぇ……。

 それなら、あの薬も?

 

 「あぁ。

  もともとはちゃんとした麻酔薬だったはずなんだがな。

  軍事目的で生産が始まるのと並行して、

  元の薬の原料自体を品種改良しはじめたんだよ。」

 

 ……なるほど。

 

 「それが、敗戦後もほそぼそと1960年代まで続き、

  クーデターで脚光を浴びるかと思ったら、破棄され、

  稲田家は軍系の事業から追い払われた。」

 

 うわ。

 そしたらふつう、恨むんじゃねぇの。

 

 「どうだろうな。

  彼らの感情はよく分からない。

  

  はっきりしているのは、

  滅んだはずのあの変異花が咲いている姿を彼らが関知したことと、

  彼らが大規模に培養したことだけだ。

  

  そして、それが破滅への序曲となる。」

 

 う。

 じゃぁ、伊狩直人は、旺盛な文学的想像力で、

 来るべき破滅を眼前に見続けていたのか〇ハン・リーベ〇ト

 そりゃ、絶望しかないわけだ。


 ……ある意味、文果は凄いな。

 掛値のない純粋な真心はやっぱり違う。

 

 「ならば、いったん、稲田側に入るしかない。

  私は偶然、親族の中から、その窓口になる人物を探し当てた。

  それが」

 

 「はやみふうた。」

 

 「……そうだ。

  やはり、どうにかしてきみに伝えるべきだったな。」

 

 「むりだよ。

  まどかちゃんは、かれらの、あきれすけんなんでしょ?」

 

 「……

  そこまで、たどりついていたのか。」

 

 ただの演繹法。

 

 「まどかちゃんは、どうして誘拐されたの?」

 

 「……

  端的に言ってしまえば、黛家への脅しだな。」

 

 は?

 

 「黛家は、戦前から地元の建設業大手で、

  あの軍事施設を施工した側だ。」

 

 げ。

 

 「だから、あの施設の存在を知っている。

  そして、1960年代のクーデター失敗時に、

  施設の無力化に手を貸している。」

 

 あ。

 そんな、流れが。

 

 「だから、例の変異花が育ってしまった時、

  黛本家は、それを食い止めようとした。

  それへの牽制だ。」

 

 え。

 じゃぁ、実行犯がみつからなかったのも、

 まどかちゃんが、出てきたのも。

 

 「4歳のまどかがどうやってあそこを出たのかは、

  ちょっと不明瞭なところがある。

  ただ、のは当たり前なんだ。」

 

 ……つまり。

 

 「あぁ。

  黛千景が、警察を信用していない理由が、

  よくわかるだろう?」

 

 でも、それって。

 

 「民間では、黛本家は、

  この県どころか、地方一帯を動かす大コングロマリットだ。

  海外にも幅広いネットワークを持っていて、

  潰そうにも潰せない。」

 

 う、わ。

 そんなでかかったのか黛本家。

 そりゃ、県の外郭へサクっと押し込めるわけだよ。

 

 え、

 ってことは。

 

 「この行動に出たのは、警察の中の一部だったんだよ。

  おそらく、幻惑されてな。」

 

 !

 

 「だから、県警としては、

  非常に困ったことになってるわけだ。

  地元屈指の名家とそんなことになっていると言えるわけがないが、

  直接捜査をすれば、旧軍の生き残り筋と当たってしまう。」

 

 「ほしゅぶんれつみたいなはなし?」

 

 「そう、なる。」

 

 ……なるほど、ね。

 

 !

 

 ま、まさか、俺も、

 あの名無氏に操られて

 

 「ただ、まどかを通じた脅しは、

  彼らの意図せざる方向で、

  彼らの望む効果を発揮した。」

 

 ん?

 

 「まどかの誘拐から、千景と琢磨は家庭内別居状態になり、

  それを利用した琢磨への美人局が効果を発揮して、

  まどかは誰とも話すことができなくなり、

  ひっそりと自殺する。」

 

 あっ!?!?

 

 「……

  そうだ。

  だから、私はまどかに接触を試みた。

  でも、まどかの心をまったくこじ開けられなかった。

  

  そして、黛本家は、

  市街戦の中で壊滅的な打撃を受ける。」

  

 ……それって。

 

 「偶然か必然かは分からないが、

  からすれば一石三鳥だったんだろう。」

 

 くっ。

 

 「だから、私はどうしても、

  まどかを助けたかった。

  

  でも、私ではどうすることもできない。

  既に、まどかの心は凍っていたからだ。

  

  そして、私は、

  まどかだけに時間を割くわけにはいかない。

  

  だから。」

 

 「それが、ぼくってわけ?」

 

 「……そう、だ。」

 

 そもそも論なんだけど、

 

 「そんなこと、どうやってできるの?」

 

 「それは

 

  !?

 


  「やくそくがちがうよ、かりんちゃん。」


 

 げっ!!??

 

 「ま、まどかちゃん?」

 

 ……

 あ。

 

 うわ、ぶわっと、

 涙が溢れてきて、

 

 「……

  みつあき、くん、

  みつあき、くん、

  みつあきくんっ!!!」

 

 ……

 あぁ。

 よかっ、た。


 まどかちゃんは、ちゃんと、いつも通りで。

 可憐で、儚くて、まっすぐで。


 あぁ、悔しい。

 うで、いたくて、

 なでられないなんて。

 

 「……

  ほらっ!

  しっかりリハビリ、

  したほうがいいよねっ!」

 

 くっ、花梨め。

 元気旺盛なキラキラ褐色小学生に化けやがった。

  

 ……え?

 


  「やっと、気づいたのね?」


 

 ま、愛香、

 お、お前っ。

 

 「バイタルメーターが反応したら、

  連絡が来るようになってた当時の最新技術のよ。


  でも、ちょっと遅かったわ?

  一番乗りかと思ったのに。」

 

 ぐ、ぐっ!?

 

 お、お前、

 い、いま腕痛いんだから、

 胃をさすれないんだぞっ!!

 

 「……

  大人気だね、満明君。

  わたしも入ろうかなっ!」

 

 「!」


 な、なんだよ、入るって。

 サークルじゃねぇんだぞっ。

 

 「あら……。

  本気なの?

  貴方には大層な逆ハーレムがあるじゃない。」

 

 「あれはもうよ。

  愛香ちゃんにもわかるでしょ?

  が流れてるんだから。」

 

 ぐはぅっ!

 こ、この空気で遊ぶ奴が

 二人に増えただとっ!?!?


 「……。」

 「………。」

 「…………。」


 お、お前ら、マジで止めてくれっ。

 ほんとに腕、痛いんだからっ!!

 入院期間長くなったらどうするんだよっ!



ピカピカの逆行転生は修羅場だらけ

第6章②

了 

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