第62話
……
ん……
なん、だ?
っ!
「ま、まどかちゃんはっ!」
「無事だよ。」
あ。
「かりん、ちゃん。」
「……ああ。」
って、ここは。
「隣町の病院、完全個室だよ。
黛家の資本が入ってるらしい。」
へぇ……。
って。
んぐっ!?
「痛むか。」
ま、まぁ。
かなり、ズキズキくる。
「肩の肉が抉れたようだが、骨にはいってない。
治ったら、二か月くらいリハビリする必要があるようだ。」
う、わ。
嫌だなぁ、リハビリ。
痛いだけじゃん。
「……
恨まれるだろうな。」
ん?
「きみが起きるのを確認するのは交代制でね。」
え?
「いま、どれだけたったの?」
「今日が、八月三十一日だ。」
は?
え、二週間以上経ってるってこと?
上腕を貫かれた程度で??
……
うわ、
自由研究とか、ぜんぜんやってないじゃん。
どうしよ。
「……はは。
きみ、小学生にすっかり順応してるね。」
喋り方がまったく違う。
隠す気、ゼロになってるじゃねぇか。
まぁ、いいんだけど。
「……
そう、だな。
この部屋、個室だし、
防音になってるから、ちょうどいいかもしれない。」
「はなしてくれるんだね。」
そのほうが、気もまぎれるし。
「……
最初から、そうすべきだったんだ。」
「たぶん、むりだよ。
うちより、ずっとはーどだったんでしょ?」
「……はは。
まぁ、そうだ。
そうだな、どこから話したものかな。
もう、何回目かも分からないから。」
いまなら、はっきりわかる。
ループを起こしてたのは、
俺じゃなくて、コイツだったんだ。
「私が33歳の時、
大災難が起こったんだ。」
ん?
え、南〇〇ラフ地震とか。
「天災ではなく、人災だ。
この街で、軍事クーデターが起こる。」
は?
そんなこと、あるわけないだろ。
「いまのきみのリアクションが、
まさに、あの時の私たち全員だ。
まさしく、あるわけがないことが起こったんだよ。」
あるわけがないもの、か。
……あ。
あったな、そんなこと。
先進国になったはずの国で、成り行きだけで大統領になった男が、
私的な不始末を重ねて壊滅的な支持率低下に追い込まれた後、
自分の権力を維持するためだけに、
突如軍事独裁に持って行こうとした意味不明な出来事が。
あんな杜撰なのが、なんらかの理由で
成功しちゃったような世界線ってことか?
「国軍は迅速に鎮圧に動き、完遂する。
だが、天災級の被害が出る。
死者数でいえば、三千人以上だな。」
……なんだ、そりゃ。
数字が大きすぎて、イメージが沸かない。
「……
私は、その被害者だ。
銃口を突き付けられた瞬間、撃たれた。」
うわ。
そんな、馬鹿な。
「その疑問と怨念が、人一倍強かったんだろうな。
気が付いたら、私は4歳の時に戻っていた。」
あぁ、
やっぱりコイツがループの起点だ。
「ただ。
理解してくれるかどうか分からないが、
私はもともと、奥ゆかしい人間でね。」
らしい、な。
(花梨ちゃん、年少さんの頃と、
だいぶ性格が違う気がするのよね。)
「家の中では、
父親の暴力や、継母のヒステリーに触れないように、
極力、大人しく過ごす必要があった。
そう、思ってた。
しかし、それでは遅かった。
19歳からの人生をどう送っても、
結局、この街は壊滅する。
そして、国の側に、
軍の影響力の強い政権が誕生する。」
え?
!?
そ、それじゃぁ。
「そう、だ。
つまり、この街のクーデター自体が、
高度に仕組まれていたものだったんだ。」
な、なんてこと。
ありえるわけがなさすぎて、想像がつかなすぎる。
で、でも、コイツは、めちゃくちゃ真剣に話してる。
どう眼を凝らしても、嘘を言ってるようには見えない。
コイツの中では、間違いなく、実体験した出来事なんだろう。
「五度目くらいだろうな。
そのことに気づいた私は、
まず、あの二人を無害化しようと試みた。
色々試行錯誤したが、
あの二人が一番嫌いそうな、がさつな人間像を貫き通して、
わざと距離を置くことに成功した。
こうすれば、早ければ、5歳から行動できる。」
なるほど、ね。
「私は、この市の基地クーデターから調べた。
すると、クーデターを起こした方面軍司令官が、
ある薬物に幻惑されていることに気づいた。」
あ。
つまり。
「そう、だ。
その薬物が、例の地下で群生していた花だ。
これは、旧軍筋が極秘裏開発していたものだが、
1960年代末のクーデター計画が無惨に失敗した際に、
計画ごと廃棄されている。」
え。
1960年代末のクーデター?
そんなもん
「あったんだよ。
当時は合法的な選挙で左翼政権になるかもしれない、
と言われた時期だからね。
当然、右派側にもかなり過激な勢力は存在した。」
げ。
じゃぁ、海外からの密かな支援があったとか。
「クーデターの失敗とともに廃棄されたはずの種子は、
私が4歳になった時には、既に地下でぬくぬくと生い茂っていた。
小学生のうちに、これをどうにか焼き払おうとしたが、
学校内の力ですべて遮断されてしまった。」
学校内の力。
「稲田徹司。
きみも分かっていると思うが、
旧家出身の彼は、地元の政財界にも鼻が利く。
その正体は
「旧軍の関係者ってこと?」
「ちょっと違うが、
まぁ、シンパってとこだろう。
彼の後ろについているのが鷹野家。
きみもよく知っている皐月愛香嬢の大叔母だよ。」
!?
じゃ、じゃぁっ。
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