第56話


 「……。」

 「………。」

 

 うーん、めっちゃ決まづい。

 この空気、胃の端がキュって痛くなるわ。

 クソ上司に囲まれた時とは全然違うトコが。

 

 でも、仕方ないんだわ。

 

 まどかちゃんの手を外すわけにはいかない。

 といって、調査は進めないと。

 

 だから、二班体制。


 愛香と、美奈、美紀さんには、

 自宅近くでの倉科花梨の目撃情報を追いつつ、

 例の男子三人の動向を確認してもらう。


 そして。

 

 「……。」

 「………。」

 

 俺と、まどかちゃんと、文果。

 

 ……

 移動してるのは愛香の車なんだよな。

 愛香には美奈ん家の軽ワゴンに乗ってもらってる。

 よく言うこと聞いてくれたよなぁ。

 

 (私、これでも、

  軽トラの荷台に乗って移動したことあるのよ?)


 なぜか自慢げだったな、あの金髪。

 ……まぁ、したいんだろうな、そういうの。

 東京にいたら、絶対あり得なかったはずだから。

 

 ……さて、と。

 

 「……。」

 「………。」

 

 ぎっちり、

 真ん中に、挟まってる。

 

 いっそ、仲を取り持ってしまいたいんだけど、

 愛香の奴がダメとぬかしやがるから。

 

 それ、なら。

 

 「ふみかちゃんも、

  しりょう、よんだんだよね?」


 「!

  

  ……

  そう、よ。」

 

 ざーっと読んだだけなんだけど、

 あの中に、文果に関わることが

 少なくとも、三つ、書いてあった。


 倉科花梨と伊狩直人が従兄弟であること。

 倉科花梨と滝川友行も従兄弟であること。

 

 そして。

 

 「……。

  ほんとうに、知らなかったの。

  ともゆきくんが、とおいしんせきだなんて。」

 

 ……

 まぁ、知らないわな。

 

 「……

  あなたはわかってると思うけど、

  うちの父親、一度、はさんしたの。」

 

 ……あぁ。

 自分から言っちゃった琢磨の身辺調査で理解済か。

 

 「はさんちょうていで、

  おかね、とられちゃうから、

  うちには、なにもないの。」

 

 え。

 ……それっ、て。

 

 「……

  思ってはいけないことだと、わかってるのに、

  お父さんが、はさん、しなければ、

  って、ずっと、思ってた。」

 

 ……。

 

 「……

  そしたら、ね。」

 

 「うん。」

 

 「ともゆきくんがね。」

 

 「うん。」

 


  「お金なら、だいじょうぶに

   って、わたしにいったのよ。」


 

 え。

 

 「それは、いつ?」

 

 「……

  夏休みの、前。」

 

 なん、だって?!

 そ、それはっ。

 

 「言ったのよ、わたしは。

  おじいさまからいろいろ頂いているから、

  だいじょうぶだからって、ちゃんと。」


 肩代わり、させてしまうべきだった。

 文果のプライドを、大切にしてしまった。

 昔の俺の面影を、勝手に投影していただけで。


 い、や。

 それなら、なおさら。

 

 「ふみかちゃん、

  よくはなしてくれたね。」

 

 「……

  話し、たかった。

  もっと、ずっと、前から。


  でも、

  でも、あなたには、

  まゆずみさんがいるし、

  こうづきさんもいるし、

  さはしさんだって」

 

 ……

 なんか、客観的に並べられると、

 とんでもねぇことになってないか?

 

 「……。」

 

 だと、したら。

 

 「うんてんしゅさん。」

 

 愛香の大叔母様付の専属運転手。

 御年42歳。


 なんだけど。


 「なんでしょうか。」

 

 身分のない俺にも丁寧に接してくれる。

 有難いわぁ。

 

 「ちょっと、

  さきに、いってほしいところがあるんだけど。」


*


 ……

 やっ、ぱり。

 

 爺の家に、俺が隠しておいたはずの、

 例の本が、そっくり無くなっている。

 

 滝川友行は、間違いなく、

 あの地下通路に出入りをしている。

 

 しかし、どうして。

 あの地下で、何があるっていうんだ。

 しかも、お金になるようなものが。

 

 (めんどくさそうなやべぇもんが出そうなんだよ。)

 

 ……。

 まさか。

 

 というか、

 そもそもなんで、この爺の家に、

 例の本があるんだ?

 

 まぁ、いい。

 

 ん?

 

 「!?」

 

 ……

 

 ほんと、やっべぇなぁ。

 コッソリと冷蔵庫の影で100%ジュースを飲んでるまどかちゃん。

 戸惑ってる眼がめっちゃくちゃ可愛いわ。

 

 「ちかげさんにいわないよ。」

 

 「う、うんっ!」

 

 ……はは。

 なんか、めっちゃ和んだわ。


 さて、と。

 

 「ふみかちゃん、

  きょうからしばらく、

  まどかちゃんのうちにとまるじゅんびをしてね。」

 

 「!」

 「!?」


 あ。

 千景さん、泊めてくれるかなぁ。

 「破産した家の子女なんて縁起でもないわ」

 とか言ったらどうしよう。


 ん?

 

 おお。

 バイブ機能ってこの頃からあったんだ。

 そりゃまぁ、あるか。

 

 「もしもし?」

 

 『あぁ、満明君?

  私。』


 あぁ。

 

 「まなかちゃん?

  きこえるよっ。」


 「!」

 「!?」


 ……って、

 急にまたピリっとしたな。


*


 さて、と。

 例の青年の家、か。

 もうちょっと行くと、ってトコにあるんだけど。


 相変わらず周り、静かだなぁ。

 昔からある住宅街って


 「……

  そろそろ、

  君が来るんじゃないかと思ってたよ。」


 あ、いたわ。

 ちょうどよかった。


 むしろ、早く来たかったんだよ。

 マウンテンバイク、ちゃんと買ってくれ

 

 !?

 

 お、おおおっ!!!

 

 「……

  昨日、届いたばかりでね。」


 あ、コイツ、業者に直接発注して届けさせたんだ。

 金持ちは店になんて行かないもんなぁ。


 っていうか、これ、ボディを溶接してない一体型のやつじゃん。

 うわ、変則が8段だ。俺、生前で3段以上持ったことないよ。

 やばい。デザインがめっちゃカッコいい。

 〇ャス〇で売ってるプ〇ミア〇とはえらい違い。

 

 「こんなの、もらっちゃっていいの?」

 

 「貰ってくれないと困る。

  僕は乗れないからね。」

 

 あ、あぁ。

 明らかにちっちゃいもんな。


 うわ、これ、

 いますぐ乗り回したい。

 うずうずする。

 

 「……

  文果と、

  隣の女の子は。」

 

 あぁ。

 言うまでもなく初対面だっけ。

 

 「まゆずみ、まどかっ。」

 

 「!

 

  ……

  そう、か。

  きみ、が。」

 

 ん?

 

 「……

  まずは入ってからだね。

  暑いだろう。」

 

 「うんっ。」

 

 ……まどかちゃん、

 わりと本能に従うタイプだよな。

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