第55話


 燦然と輝くチェーン系ファミリーレストラン。

 俺の時代ではファミリーが減っていくので、

 一部地域以外では業態自体が淘汰されてしまい、

 めっちゃ安いところしか残らなくなる。

 

 唯一の個室が取れたっていうのは奇跡だわ。

 まぁ、大人が3人もいるまどかと愛香の警備含む大所帯だからなぁ。


 「……。」

 

 はは。

 美紀さん、めっちゃ戸惑ってる。

 

 「かりんちゃんとかと、

  きたこと、ないの?」

 

 「……。」

 

 あぁ、

 顔に書いてあるな。

 

 倉科花梨は、精神的に、

 母親と距離を置いていたってわけか。

 なんとなく、わかるけどな。

 

 でも。

 

 「いま、うちに、

  いたくないでしょ?」

 

 「……

  そう、だけど。」

 

 「ちかげさんに、

  たのまれたっていえばいいよ。」

 

 言い切ってしまう。

 本気で怒らせると母さんのコネ入社取り消しになるから、

 見極めながらなんだけど。

 

 「……。」

 

 ん?

 

 「……なんでも、ないわ。」

 

 ある意味、よかったかもしれないな。

 心神耗弱状態でなければ、

 美紀さんは教育ママの鎧を着けたままだったかもしれない。

 そうしたら、今よりずっと険のある相手だったろう。

 

 さて、と。

 

 うーん、やっぱり8歳のオトコの子。

 ハンバーグステーキセット一択だねっ!

 胃もたれしない若さが素晴らしい。


 つっても、

 千景さんに食わして貰ってるもののほうが、

 素材の質はいいわなぁ。

 

 いや、そんなのに慣れたら絶対ダメだ。

 つつましい幸せを噛み締めなければ。

 

 あれ?

 

 「まなかちゃん、

  こういうの、たべられるんだ。」

 

 「ふふっ。

  慣れよ、慣れ。」

 

 ……こっちに来てから順応したクチか。

 

 「こういうのも、悪くないわ。

  家では、和食しか食べられないから。」


 ……和食のほうが遙かに手間がかかるんだがな。

 まぁ、気持ちはわかる。

 おそらく高齢者用に薄味だろうし。


 まどかちゃんは、と。

 

 「……。」

 

 あ、タマネギ、食えないんだ。

 千景さんの家で出てくるあっまい無農薬モノと違うから。

 

 「まどかちゃん、食べてあげよっか?」

 

 「……

  がんばる。」


 がんばらんでいいんだけどなぁ。

 

 「……

  きみ、さ自覚ゼロ。」

 

 ん?

 

 「ううん。

  それで、収穫はあったの?」

 

 あぁ。

 なら、情報交換と行きますか。


*


 ……

 なるほど、な。

 

 従兄弟の速水風太は製薬会社社長の令息。

 クラスメートの鷹野未来は市幹部の息子。


 まどかちゃんは言うまでもなく黛家の嫡孫だし、

 美奈は破産しそうになったとはいえ会社社長の令嬢。

 愛香に声をかけてきたのも、おそらく。

 

 「……中学生だったら、

  徹底的に女に嫌われる行動よね。」


 あぁ。

 地元有力者の逆ハーレムを形成してるもんな。

 

 「きみもひとのこと言えないよ?」

 

 違う。

 そういう意図はまったくないし、

 そもそも、こんなのが続くわけがない。


 第一、これは、

 母さんを護る必要があったから

 

 あ。

 

 (みつあきくん。


  きみ、

  こっちでは、うまくやってるねっ。)


 これの、意味は、

 そういう、ことなのか。

 

 それなら、倉科花梨は、

 があって、

 いまのド派手な交友関係を作ったということになる。

 

 それは、俺と、同じなのか。

 

 でも。

 

 「……。」

 

 美紀さんには悪いが、

 そうは、見えない。

 

 俺は母さんと二十年はおなじ部屋で寝泊まりできる自信があるが、

 倉科花梨は、なるべくなら美紀さんと同じ空間にいたくないようだ。

 まるで、前世の俺が、父さんにそう思っていたように。

 

 それは、なぜ?

 

 (倉科美紀さんは双子なんだ。

  5年前に、お姉さんの真紀さんを亡くしている。)

  

 ……ぇ。

 

 そんな、バカな。

 

 (どんな花梨でもいいの。

  生きてさえいてくれれば。) 

 

 これは、母親の愛情を意味しているとばかり思っていた。

 それが、違ったとしたら。

 

 「……。」

 

 聞け、ない。

 聞けっこ、ない。

 いまは、寝た子を起こすべきではない。

 

 「……

  で、極めつけが、この子よ。」

 

 ん?

 あぁ、こんな写真あったんだ。

 

 「かきゅうせいのこ、だよね。」

 

 湖水浴にいた三人組の最年少だが、

 残りの二人と違って、顔がかなり整ってる。

 もうちょと育ったらジェ〇ーさん自主規制とかが好きそうな。

 

 「インターネットで知り合ったらしいわ。」

 

 う、わ。

 「インター」ってつけなくなったよなぁ。

 

 「すじょうはわからないの?」

 

 「……少なくとも、

  きみが貸して貰った資料には書いてないわね。

  こっちで調べてみてもいいけど。」

 

 は?

 い、いや。

 

 「きけんをおかしてもらうわけにはいかないよ。」

 

 「あら、大丈夫よ。

  こんなの、に比べたら、

  大した事じゃないわ。

  

  ……それに。」

 

 それに?

 

 「……

  気になるのよ、あの娘のこと。」

 

 倉科花梨、か。

 インパクト、でかいもんなぁ。

 

 「きみを獲りあうってことは、

  なさそうだしね。」

 

 は?

 

 う、うわっ!?

 

 「……。」

 「………。」

 「………。」

 

 「ふふっ。

  嘘、じゃ、ないから。」


 「!」

 「!?」


 ま、愛香、

 お、お前ぇっ、

 この雰囲気、絶対楽しんでるだろっ!?

 

 い、いや。

 

 ……

 確かに、気には、なるんだよな。

 俺の同類である確率は99%以上だし。


 つっても、まどかちゃんは絶対護らないとだから。

 

 「ね、まなかちゃん。」

 

 「なぁに?」


 わ。変な上目遣い。

 絶対わざとだろ。

 

 「けいたいでんわ、もってないの?」

 

 「……

  ない。」

 

 うわ、めっちゃ意外。

 

 「だ、だって、

  持ってたら、殺されるかもしれないものオーバーに言ってるだけ。」

 

 げ。

 そんなの、技術的に。

 

 ……

 できる、わ。

 どっかの国の諜報機関が、

 PHSに爆弾仕込んでたことあったもんな。

 

 ……

 しかも、現在形かよっ。


 「わ、わたし、

  持ってますっ!」

 

 え。

 美奈?

 

 う、わ。

 意外な伏兵が。

 

 「こ、こないだ、

  お父さまに買ってもらいましたっ。」

 

 ……

 いきなり濫費な話が出たな。

 佐橋家の債務整理、大丈夫なのか?


 それ、なら。

 

 「まなかちゃん。

  たのまれてほしいんだけど、いい?」

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