第54話
……
やっぱり、か。
あそこ、土が盛られてて、
ちょっと、高くなってるんだよな。
百人は乗れないけど、あそこからなら
「みつあきくんっ!」
ん、携帯?
げ。
もうそんな時間かよ。
……
山岳救助隊、だもんなぁ。
ガラケーの電話帳って使いづらいんだよね。
えーと……
あれ?
「ちかげさん、
けいたいでんわ、もってるんだっけ?」
「うん。
このばんごうだよっ。」
あ。
あー。
ってことは、なんだ?
これぜんぶに旧公社の基本料金+αを払えてるのか?
金持ちは容赦なくカネを投げ捨てていくのなぁ……。
ま、いいか。
……
エリーゼのために、か。
企業の待ち受けかな?
『はい。』
「はるまみつあきですっ!」
『……あぁ。
どう? なにかわかった?』
いろいろわかりすぎるくらいわかったが、
通話料が勿体ない。
それに、琢磨さんからの資料は、
おそらく千景さんにも行っている。
なら。
「みきさん、
そうとうせめられてる。」
『……でしょうね。
拓蔵さん、暴力を振るうから。』
やっぱDV夫気質なのかよ。
この頃の田舎だと、糾弾とかされないんだよなぁ。
わりとよくあることだったから。
……。
おっと。
これはまだ、憶測だけど。
「くらしなかりんちゃんは、
はやみふうたと、いっしょにいるかもしれない。」
『!』
「!」
拉致されたのかもしれないが、
憶測を重ねてしまうのは流石に控えないと。
『……どうしてそう思うの?』
これは、たぶんだけど。
「みきさん、かりんちゃんは
こすいよくのひに、にかいにある
かりんちゃんのおへやにかえってきたとおもってた。
かりんちゃんはあさおそいから、
しばらくまってしまったんだって。」
……夕方まで、っていうのは、ちょっと長すぎるんだけどな。
それは千景さんには言わない。美紀さんに不利になる。
「で、ぼくたちはいま、
かりんちゃんのおへやにいるんだけど。
このへやのよこのまどに、
おっきなすいどうかんが、とおってるの。」
『……
まさか。』
「うん。
あそこをつたって、
ぴょんってとぶと、
ものおきのうえにでられそうだよ。
へいがきはちっちゃいし、
となりのもりつちになってるところへ
ぴょんってとべば、けがもしなそうだし」
帰ってはこられないが、
このルートで、出ることだけはできるって寸法だろう。
「みきさんは、かりんちゃんのあしおとをきいただけだから、
かりんちゃんじゃないかもしれない。
で、ぴょんってとばれて、そとにでちゃえば、
もう、わからない。」
『……。
可能性の話、よね?』
「うんっ。」
蓋然性が高そうな、ひとつのありそうなことなだけで。
示し合わせて出て行って、悪戯をしているだけ、
っていうことも、十分、考えられる。
……
なるほど、現実の捜査は地獄だわ。
30分で殺人事件の犯人などわかるわけがない。
『……わかったわ。
まどかは無事ね?』
念のため、替わろう。
「!
も、もしもし、
おかあさまっ。」
……まどかちゃんって、千景さんを怖がるよな。
直接話す時はトーンが変わる。
『……
元気そうね、まどか。』
「う、うんっ。」
『逃さないように。』
「!
うんっ!」
……?
『定時連絡を忘れずにね。
満明君にもそう言いなさい。』
「うんっ。」
いや、スピーカーになってるから、
しっかり聴こえちゃってるんだけど。
*
……
これ、は。
懐か、しい。
ディスプレイ一体型パソコン。
狭い世界では流行したよなぁ、これ。
めっちゃ使いづらいし、画面狭くなるんだけど。
……8歳児に、自分の部屋でPC持たせてる?
想像以上にカネがあるのか、それとも。
……
立ち上げてみる、か。
……
うーん、
やっぱりパスワードを要求されるな。
こんなもの、わかりっこない。
8歳児だと、頭の中に記憶を安定的に維持できるし、
デバイスの数が少ない以上、
自分が作ったパスワードを忘れることはありえない。
これはちょっと、望み薄かな。
「みつあきくんっ。」
ん?
「このほんのなかに、
こんなのはいってたっ。」
楽しそうだなぁ、まどかちゃ
!?
こ、こ、
この本って、
どう、して。
「ま、まどかちゃん、
ちょっと、かしてくれる?」
「うんっ!」
……
い、いや。
重さが全然違う。
例の本じゃない。
でも、大きさはそっくりだな。
なんか、強い意図を感じる。
……
紙切れが、一枚。
まだ真新しい。
例の本モドキを机の上に置いて、と。
いったい、何が書いてあるんだ?
……
ぶがぁっ!?!?
『きみのいまのねんれいと、
本当の年齢を掛け算してね?』
あ、
あ、
あ、あの女ぁっ!?
ど、どういうつもりなんだ??
げっ!?
「ま、まどかちゃんっ!?」
あ、あいつ、
絶対に俺が一人でココ調べると思ってたなっ!?
……
その勇気は、ない。
あっては、いけない。
「……
まどかちゃん、
その、少しだけ、背中向いててね。
僕が良いって言うまで、
振り向いたら駄目だよ?」
「う、うん……。」
あぁ、
めっちゃ気を使わせちまってる。
……
急がないと。
……
っていうか、
本当の年齢って、どっちよ?
……
ひらがなと、漢字を分けてるってことは、
これは、意味があるわけだよな。
……
いまは、8歳で、
本当の年齢は、31歳だから
248。
……ダメだ。
PINコードと見做してるなら、
四桁とか?
0248。
……ダメ?
あ。
『0312』
……
違う??
うわ、お手上げだ。
スハダクラブみたいなのにしてほし
……
ひょっと、して。
『0272』
……っ!?
入れた、ぞ。
こっちに来てからの期間だけを純計したわけか。
だと、すれば。
……
でもって、
フォルダがひとつ、あるだけ。
初期GUI環境でも、一応動くか。
あぁ、画面ちっちゃくても字のドットがでかいなぁ。
これ、1024×768ってやつじゃね?
……
ノープロテクトのテクストファイル、だ。
確信が深まる一方じゃねぇか。
ええい、
ダブルクリックっ。
出た、わ。
タブが使えないメモ帳様が。
どれどれ……
ん?
ん???
な、なんだ?
っ!?
「ま、まどかちゃんっ!?」
た、耐えられなかったんだ。
やばい、ディスプレイめっちゃ見てる。
でも。
内容が。
『きみのうちなるちいさな敵に
きをつけて』
たった、これだけ?
……
どういう、意味、だろう。
こんな、手の込んだ真似までして、
俺が一人で入ってくると、見越して。
……
ほんと、わっからない奴だな。
「……。」
ん?
「どうしたの、まどかちゃん。」
「……
おなか、すいた。」
あ。
うわ、
そ、そっか。
朝食も食べてないんじゃないかな。
ん?
それ、なら。
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