第53話
さて、と。
洋風一般住宅、だよな。
……この塀とかは普通によじ登れそうだけど、
大人しくインターフォンを鳴らすとしよう。
ぶーっつ
……地味な音だな。
『……
どなた?』
よし。
「はるまみつあきですっ!
まゆずみまどかちゃんといっしょにいますっ。
まゆずみちかげさんが
みてこいっていったので、きましたっ!」
『……!』
一発目から千景さんの名前を出す戦術。
自動発動の門前払い攻撃へのバリア、成功と。
『……千景さんとは、電話で話しました。
花梨のことなら、もう、これ以上』
ここ、だ。
「ちかげさん、
みきさんのようすをみてこいっていってたよ。」
『!』
「あけないとあけなかったっていうよーっ。
ね、まどかちゃん?」
「う、うんっ!」
『……っ』
お。
鉄門扉が空いた、か。
「いこう、まどかちゃんっ!」
「うんっ!」
あら、楽しそうな顔して。
……
ちゃんと手入れされてる。
庭師入れられるなんて、コガネ持ってんなぁ。
春間家、庭なんて、がっらんどうだもんな。
自然の芝生を刈り取るくらいで。
……
あっちは?
あぁ、物置、か。
頑丈そうだけど、百人は乗れなそうだなぁ。
ふむ。
そうすると、あっちの丘は
がちゃっ
あ。
倉科美紀、
もう、鍵、開けてくれてたのか。
それに、しても。
「あけられるんだ、まどかちゃん。」
「うんっ!」
割と重そうな玄関だったのに、軽々と。
身長、130センチ以下なのに。
背負い投げかな?
よし。
乗り込むか。
……
靴は、女物が一足だけ。
しっかり下駄箱にしまうスタイルか。
……
おかしいわ、どう考えても。
それは置いて、と。
玄関、少し高いな。
ちっちゃい階段っぽくなってる。
収納できるタイプかな。
「みつあきくんっ。」
あ、あぁ。
行かないと。
*
「……。」
う、わ。
リビングの机に凭れ掛かってる。
やっべぇ眼をしてるな。
レベルで言えば、2.6くらいか。
……当然、か。
子どもが誘拐されたかもしれないわけだからな。
ただ、焦燥感というよりも、疲れ切ってる感じだ。
心が壊れた時の、水晶体にモノを写さない虚ろな抜け殻。
とりあえず。
「はじめましてっ。
はるまみつあきですっ。」
ショタスマイルⅡ号改っ!
「……。」
うーん、効いてないな。
やべぇレベルが高いと効かないんだよなぁ。
なら、
ちょっとだけ刺激を与えるか。
「こくがいにいる
しられたくないんだね?」
「!?」
……
やっぱり、か。
男モノの靴が玄関に一つもなかった。
ぜんぶ収納するスタイルなら、
自分の靴も、花梨の靴もそうするはずだ。
こないだの湖水浴の時もいなかったしな。
出張単位ではなく、単身赴任の駐在レベルなんだろう。
……しまったな、気が焦ってたか。
こんなの、琢磨さんの資料にちゃんと書いてあったはずだ。
先にしっかり読んでからにすべきだったかなぁ。
……無意識にあの車の中から出たかったんだろうな、俺。
ヒリヒリしてたもの。
じゃ、なくて。
「……。」
警察にも出せないってことか。
父親はきっと、DV夫のタイプなんだろう。
ちょっと家柄のいい家の、
大手企業の正社員なんて、
……
見た感じ、やべぇレベル1.9くらいか。
半減期かな?
それなら。
「おみず、のむ?」
「……。
いい、わ。」
……1.5くらい、だな。
さて、ここからどう
あ。
「!」
まどかちゃんが、
美紀さんの突っ伏した髪を、
小さな手で、ゆっくりと撫でてる。
「だいじょうぶ、だよ?」
「……っ。」
う、わ。
まどかちゃんのあの上目遣いで見上げられると、
いろいろ溶けるわなぁ。
「……。」
……1以下になったか。
まだちょっと険があるけど、
いますぐどうこうなる感じはしない。
どう、こう。
あぁ。
そういう恐れもあったのか。
「みきさん、ちゃんとねてて?
おきゃくさんがきたりしたら、
ぼくとまどかちゃんでたいおうするから。」
もちろん、できはしないが。
「……
問題、ない、わ。」
あぁ。
疲れているからか、
あの教育ママ眼鏡をはずしてるからか、
湖水浴の時よりも印象が柔らかい。
「……
花梨の友達には、連絡した。
花梨が行きそうなところは、探した。
見つからない。
……見つからないのよ。」
うわ、また焦ってきた。
「こすいよくのとき、
べつべつにかえったの?」
「……花梨は、風太君達の車に乗ってたわ。
でも、その日は、ちゃんと家まで帰った。
二階にあがる音もした。」
ん?
「かりんちゃんをみたわけではなかったんだね。」
「……。」
「みきさんが、
かりんちゃんがいないって、
きづいたのはいつなの?」
「……
昨日の朝、よ。」
え?
「……
花梨は、朝、弱いから、
起きて来ないのも普通だと思って、
しばらく待ったわ。
上がってみたら、誰もいない。
いなかった。
またイタズラだと思って、
昼には帰るだろう、
夕方には帰るだろうと思っていたら。」
う、わ。
それで後手に廻ったのか。
あぁ。
初動に失敗したから、
自分で自分を責めてるのか。
「かりんちゃん、
いたずらずきだもんね。」
「……でも
だめ、だ。
「せめちゃ、だめっ。」
手を、できるだけ強く握る。
「!」
「せめても、なにもはじまらないんだよ?
じぶんをせめるのは、
かりんちゃんがかえってからにしようねっ。
だいじょうぶ。
ぼくたちが、けいさつよりもさきに、
かりんちゃんをみつけてみせるからねっ!」
ウソ。
なんの根拠もない。
でも、
一瞬でも、気が休まるなら。
「そうだよっ!」
!
ま、まどかちゃんっ!
「おばさん、
みつあきくん、すごいんだからねっ!
かすみせんせいもみつけてくれたんだよっ!」
……
あれは、偶然に偶然が重なっただけなんだよな。
っていうか。
「まどかちゃん。」
「うんっ。」
「かりんちゃんのへや、わかる?」
「うん。
にかいのみぎのへや。」
部屋に入れたことはあるのか。
「さき、かりんちゃんのへやにあがってて?
あとからいくから。」
「……うん。」
階段をとたとたと上がる音がする。
まどかちゃんは無事に部屋にあがったようだ。
……
止めは、しなかったな。
まどかちゃんを一人にする時間は
極限まで短いほうがいい。
ただ、この一点だけは、
確認しておく必要がある。
「ねぇ、みきさん。」
「……なに?」
「おとなしかったかりんちゃんに、
かえってきてほしい?」
「っ……。
……
そんなこと、ないわ。
どんな花梨でもいいの。
生きてさえいてくれれば。」
……
ふむ。
「わかったっ!
じゃ、さがしてくるねっ。
うるさいひとたちがくるまでに、
さがせるかはわかんないけどっ。」
「!」
……はは。
ほうぼうから責められてるんだな。
一番責めてるのは自分自身だろうが。
「じゃ、ぼく、
かりんちゃんのおへやにいくねーっ!
あ。
みきさん、
ちゃんとねてくれないと、
ぼく、ちかげさんにほうこくできないから、
よろしくねっ!」
意味なくショタスマイルビームⅡ号改っ!
「……っ。」
あ、
ちょっとだけ、効いたかな?
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