第50話
「みつあきくん。
きみ、
こっちでは、うまくやってるねっ。」
!!??
こっち。
こっち??
っ!?!?
ま、まさか、
あ、あいつ、
知ってるのか?!
い、いや。
そ、そんな、バカなことが。
バカな、こと。
……
いま、俺の身に起こっているのは、
ありえないこと、そのものだろうっ!
あまりにも異常過ぎたから麻痺していたが、
俺は本来、あのゴミ屋敷で脳をやられて、
一人で朽ち果てているはずなんだ。
そのことを知っている奴がいても、
それ自体は、驚くようなことじゃない。
実際、母さんや千景さんにはしっかりバレてしまってる。
でも、
だからこそ。
なぜ。
どうして。
倉科花梨が。
(花梨ちゃん、年少さんの頃と、
だいぶ性格が違う気がするのよね。)
!
ま、まさか、
アイツは、俺と、同じ
っ!?
「ま、まどかちゃん?」
……
あぁ。
まどかちゃん、
めちゃくちゃ戸惑った顔をしてる。
だめ、だ。
「っ!」
撫でて、しまう。
忘れ、よう。
目の前にいるまどかちゃんに集中すべきだ。
自分の不機嫌や不安を子どもに押し付けてしまうほど
人としてダメなことはないのだから。
「……。」
薄い長袖シャツ一枚しか着ていないまどかちゃんが、
ほっとした表情を浮かべながら、
肩に、ぽふりと、寄りかかってくる。
あぁ。
この温もりを感じた瞬間を切り取ったまま、
世界中の時が止まってくれれば。
*
……。
連絡を、取るべきか、
取らざるべきか。
いっそ、なにもなかったことにすれば。
触らぬ神に祟りなし。
……
い、や。
倉科花梨は、まどかちゃんの友達だ。
しかも、4歳からの繋がりがある。
なんなら、俺よりも長い。
千景さんや、琢磨さんは、倉科花梨を認知している。
だから、セミプライベート
一家ぐるみの付き合いだ。
避けようなど、ない。
……
いや。
おか、しい。
もし、倉科花梨のような快活そのものの友達がいたならば、
まどかちゃんが自殺することはなかったんじゃないのか。
違、う。
そもそも、前世のまどかちゃんに、友達ができたろうか。
今のように感情を表に出すことのない、
昼ドラを心に秘めたまま朽ちていったであろうまどかちゃんに。
だと、すると。
倉科花梨がまどかちゃんと繋がるには、
まどかちゃんが感情を表に出せるようになった後だろう。
ちゃんと友達になったのは、
一番早くても幼稚園の年長さんかもしれない。
それなら、俺とおなじ
……なにを争ってるんだ俺はっ!
愚劣にもほどがある。
嫉妬感情なんて持つわけあるか。
そっちじゃ、ない。
……
だと、すれば。
……
資質としては、理想的だ。
活発だし、快活だし、
同性からも異性からも支持されているだろう。
千景さんによれば、家柄も悪くない。
どちらかといえばコミュに難があるまどかちゃんを、
ごく当たり前に支えてくれるはずだ。
……
美奈では、無理だ。
誠実な人柄で、美少女ではあるが、
これからまどかちゃんに訪れる悲劇と苦難を、
分かち合える力量はない。
文果は、そもそも物理的に難がある。
アイツは意地を張るが、自分が立って生きてるだけで精一杯だろう。
これ以上、人への手を差し伸ばさせてはいけない。
愛香は、度胸も才幹もパトロンも申し分はない。
だが、アイツこそ、抱えているものが両手に余りすぎる。
油断したら最後、折角拾った命を無駄に散らすだけだ。
……。
話す、べきだ。
まどかちゃんのことを。
これから起こりえる可能性を。
たとえ、それが、
俺にとって、不可逆の運命を齎すとしても。
*
「おはよう、ちかげさんっ!」
切り出すとすれば、ここからだ。
千景さんは、
琢磨さんに一通り調べさせている上で、
倉科家を憎からず思っている。
当然、倉科花梨に関する属性情報を持っているだろう。
住所、家族構成、本人の生い立ちや性格。
基礎情報を集めないことには、接触しようがない。
って。
「どうしたの?
ちかげさん。」
なんか、いつもと違うけど。
「……
あぁ、おはよう。
ちょうどいいわね。
きみにも話しておこうかしら。」
ん?
「ほら。
こないだの湖水浴で、きみも会ったでしょ?
倉科花梨ちゃん。」
「うんっ。」
まさにちょうどよさのマリアージュ。
って、
「行方不明、らしいの。」
……は?
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