第49話


 ……

 すっごいわ。

 

 照りつける太陽。

 抜けるような青空。

 

 太陽光をきらきらと反射する湖水と、

 

 「えいっ!!」

 

 俺に水をかけてはしゃぐまどかちゃん。

 

 ……

 いや。

 ありえないくらいキラッキラしてるのはいいんだけど、

 かなり水圧が強いんだよな。

 ほんと、なにして鍛えてるんだろ。


 柔らかな太陽光が瑞々しい皮膚に照らされ、

 跳ねる水しぶきが無上の笑顔に反射する。

 

 なんていうか、多幸感が凄まじい。

 クソ上司共に囲まれた前世のマイナスガチャ10連発は、

 この日の天国のために

 

 「わたしにもかけてっ!」

 

 よしっ!!

 って

 

 「ざっぶんっ!」

 

 うわ、

 同じタイミングでかけてきたから

 水同士が反射し


 え


 「うりゃっ!」

 

 うわっ!!!

 

 め、めっちゃ濡れ

 

 ……は?


 「あはははははっ!」

 

 な、なんだ、

 なんなんだこの娘っ!?

 全身めっちゃ日焼けしてて、目力がものすごい。


 あれ、

 俺、この娘、どっかで

 


  「まどかっ、ひさしぶりっ!!」

 


 っ!?


 「!

  か、かりんちゃんっ!!」

 

 な、なんだと!?

 

 そ、そういえば、

 微かに見覚えがある。

 

 「くらしな、かりんちゃん?」

 

 眼力に溢れた興味深々の顔。

 そうそう、忘れられない。

 こんな真っ黒じゃなかったけど。

 

 「はっはー、

  そうだよ、みつあきくんっ!!

  それっ!」

 

 ぬわっ!

 こ、コイツ、

 わりと本気でかけてきてやがるっ。

 

 ええい、

 お前に気兼ねする理由はないっ!

 

 「あはー。

  さっすがおとこのこっ。

  じゃぁ、おかえ

 

 「かりんっ!!」

 

 ……は?

 な、なんだ??


 男子が、三人?

 

 「あー、やっば。

  みつかっちゃったかー。」

 

 な、なんか、

 全員から敵対的な眼で見られてるな。

 

 オトコからのこういう視線は慣れてるけど、

 より直截的というか、鋭く睨んで

 

 「あはははは。

  まったね、まどかと満明くんっ!!

  

  じゃぁみんな、あっちの岸まで

  きょうそうだよーっ!!」

 

 う、わ。

 なんていうか、めっちゃ元気な奴だな。

 アクティブパワータイプっていうか。


*


 「あぁ、もう来てたの。」

 

 千景さん、あんまり驚いてないな。

 セミプライベートレイクサイドなのに。

 

 「倉科さんご一家はね、

  子どもの頃からのまどかの友達だから、

  お近づきになっているのよ。」

 

 ん?

 こども?

 

 「しょうがっこういぜんから?」

 

 「そうよ?

  幼稚園の年少から、ね。」

 

 あ。

 あぁ、そういうことか。

 

 (ともだちなんだけど、

  あの、くーちゃんのほうが、

  まどかちゃんとなかよくて。)

  

 なるほど、な。

 あのパワフルそのものの倉科花梨が相手では、

 大人しい美奈では割り込み用がなかったわけだ。

 

 「家柄も問題はないし、

  ちょうどよかったのよね。」

 

 ……ウチは家柄に問題しかありませんが。

 やばい、泣きそう。

 

 「……

  ただ。」

 

 ん?

 

 「……

  なんでもないわ。

  私の思い過ごしよ、きっと。」

 

 いや。

 

 「はなして?

  ちかげさんのかんって、

  だいたい、あたってるよ?」

 

 「……

  そういうところだけは目ざといわね。


  まぁ、いいわ。

  花梨ちゃん、年少さんの頃と、

  だいぶ性格が違う気がするのよね。」


 ん?

 

 「……

  ふふっ。」

 

 は?

 

 「それを言ったら、

  まどかもだいぶん変わったわ。」

 

 あ、あぁ。

 

 「誘拐された頃を考えると、

  感情が出すぎなくらいね。」

 

 ……

 

 (……

  ほん、とに、

  あそんで、くれる、の?)


 ほんとだ、なぁ……。

 

 ボタンを、

 幾重にも掛け違った結果とはいえ。

 

 「だから、

  私の思い過ごしよ。

  気にしないで。」

 

 「うんっ。」

 

 ……なんか、ひっかかる。

 記憶には止めておく必要があるな。


*


 湖畔なのに、砂浜っぽいものがある。

 天然ものなのかはよくわからんけど。

 

 男性陣はバーベキューの跡片付けに忙しいが、

 千景さんは洒落たコテージにさっさと戻っている。

 そういうところ、ホントに自由な人だ。

 芸術肌だったわけだしな。

 

 「……。」

 

 長袖のシャツ一枚を羽織っただけのまどかちゃんが、

 ゆっくりと、肩を、躰に寄せて来る。

 

 温かい。

 やわらかい。


 少し濡れたつぶらな瞳が、可愛すぎる。

 見上げられると、胸が騒いでしまう。


 もう、

 死んでも、いい。

 

 い、や。

 だめ、だ。


 まだ、なにも終わっていない。

 あと5か月弱、気を引き締めて臨まないと。

 どこで足を取られるか、わかったものじゃ

 

 !


 う、わ。

 

 「あはははは。

  そのままでいいのにー。」

 

 倉科花梨。

 

 相変わらず、オトコを三人引き連れている。

 上級生と同級生と下級生。

 

 ひとりは従兄弟。

 ひとりはクラスメート。

 ひとりはなんだっけな。

 千景さんから説明されたはずな

 

 「花梨っ。

  ちゃんと跡片付けしなさいっ!」

 

 あ。

 あれが倉科花梨の母親か。


 なんていうか、教育ママって感じだなぁ。

 眼鏡が逆三角形になってる。

 

 「はーいっ!」

 

 不機嫌そうな母親に満面の笑みを向け、

 快活そのもので返した倉科花梨は、

 三人の男子と明るく話しながら、俺の横をすり抜け

 

 

 

  「みつあきくん。


   きみ、

   こっちでは、うまくやってるねっ。」

 

 


  !!??


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る