第48話
「……
愛香さん、来てたのね。」
う、わ。
そりゃ、普通に挨拶していくわなぁ。
「うんっ。」
ごまかしの笑い。
何をごまかしてるんだかもう分からんが。
「……
血は、争えないのね。」
は?
「父さんの、
そういうところが、怖かった。」
え、えぇぇ??
「どういうこと??」
っ。
やっべ、ほとんど素だった。
母さんには分かられているとはいえ。
「……
私だけを見てるわけじゃないところ、かな。」
は?
っ。
「うわきしてたってこと?!」
ば、ばかな。
あんな、ザ・フツメンのいかつい一途オトコが、
そんなわけは。
で、でも。
(そんなことないわ。
きっと、再婚)
って、考えてたのって、まさか。
「……
あのひとは、そう、思ってないでしょうね。
ちょうど、いまの満明みたいに。」
は?
いや、だって
「ぼく、まだ、8さいだよ?」
「……
あなたは8歳児じゃないでしょう?」
ぶっ!!
よ、四次元の壁を踏み破ってきたっ。
「……
きっと、私たちの情操教育が、
よくなかったのね。」
そ、そんなこと
「……。」
ある、わ。
客観的に言って、
むっつり怒ってるだけの父さんと、
表情が無くなっていく母さんが、
言葉も交わすことなくご飯を食べているのは、
たまらなく嫌だったから。
でも。
「かあさんのせいじゃないよ。
とうさんのせいでも、
だれのせいでも、ない。」
運が、絶望的に無かった。
それを、認めてしまう勇気がなかった。
たった、それだけのこと。
「……
そういう眼、
若い頃の父さんにそっくりね。」
え?
っていうか、
ほんとに、どうやって結婚まで
「……
ふふ、いいわ。」
そういうと、
母さんは、俺の目の前にまで来て、
……ぁ、っ
ふわっと、
産まれ落ちた時のように、
空調に晒された母さんの躰の表面が、冷たくて。
流れ続ける血流の音が、限りなく優しくて。
涙が、ぶわりと溢れてしまって。
「愛してるわ、満明。
私だけの、いとしい子。」
夢にまで見た温もりに包まれていて。
言葉にできないくらい嬉しくて。
あぁ。
明日、夢が醒めて、あの埃だらけのゴミ屋敷に戻っても、
この思い出を五万回振り返るだけで幸福に死ねる。
ほんの少し震えている母さんの躰を、
背中に腕を廻せない体で、
しがみつくようにぎゅっと抱きしめる。
あたた、かい。
離れられない。
離れたく、ない。
「……
私は、こうして、あげられなかったのね。」
違、う。
絶対に、違う。
「かあさんのせいじゃ、ないよ。
かあさんは、ずっと、ずっと、
ぼくを、せいいっぱい、あいしてくれてたよっ。」
悪いのは、俺のほうだ。
愛されていると、認めるべきだった。
恥ずかしがる必要なんて、微塵もなかった。
不運を、不幸を、笑って跳ねのけるべきだった。
素直に、貪欲に、幸福を捥ぎ取りに行くべきだった。
今日の愛香のように。
……
は?
いや、それって。
「……
満明。」
「うんっ!!」
満面のごまかし笑顔。
ピッカピカの3年生。
「……
着替えないと、
ご飯を作れないわ?」
っぅぁっ!?
だ、駄々っ子になりたいっ!!
……だ、だめだ。
それをやったら俺が終わる。
「……
ふふ。
いい子にしてたら、またやってあげるわ。」
!
「うんっ!!」
めっちゃいい子になるぜっ!!
って、
俺、なにか、よからぬことしてたっけ?
「そうそう。
ご飯を食べたら、準備をしてね。
明日から、家族で出かけることになったから。」
は?!
な、なにこの急展開。
だいたい、生まれてこの方、
家族旅行なんてしたことないんだが。
*
……うっ、はぁ……。
すげぇ、なぁ。
向こう側が、なんも見えない。
照りつける太陽。
抜けるような青空。
こうしてみると、
まるっきり海そのものだよな。
……
ちょっとだけ、違うんだけど。
「だって、私、
海、嫌いなのよ。
あんなベタベタするもの、なにが楽しいのかしらね。」
湖水浴。
まさか、海水浴を体験する前に、
こっちで水浴バージンを喪うとは。
んでもって、
驚異のセミプライベートビーチ。
湖水だからレイクサイドだけど。
太陽はキラキラと輝くが、
ギラついてはいない。
バックに茂る森がほどよく日陰を作ってくれている。
8月なのに、9月中下旬くらいの過ごしやすさ。
なんていうか、ぜんぶのいいところを、
都合よく集めた感じだわ。
金持ちってのはほんと、底が知れない。
そんなに強い陽射しでもないけど、
しっかりサングラスとパラソルで遮ってる千景さん。
ほんともう、アッパーブルジョアの化身だわな。
「君、なにか、
悪いこと考えてないわね?」
ぶるんぶるん。
「……そう。
ま、いいわ。
もうすぐまどかが来るから、
一緒に遊んでらっしゃい。」
「うんっ!」
こんなの、今後一生遭遇するわけはない。
「……
君、
私がどうして本家にいったか、
よく考えて行動しなさいな。」
は?
どういうこ
……!
「!?」
ま、まさかのセパレートタイプ。
真っ白フリルと白い肌。
なにこの趣味、千景さん?
っていうか、こっちはただのスクール水着なんで、
十重二十重に申し訳ない。
っていうか、
まどかちゃん、やっぱり鍛えてるのな。
シックスパックってほどではないけど、
腹回りがほどよく引き締まってる。
ほんと、なにやってるんだろな。
じゃ、なくて。
「すてきだよ、まどかちゃんっ。」
「!」
「……
いいから、さっさと遊んでらっしゃい。」
そうだよなっ!
「うんっ!!
いこっ、まどかちゃんっ!!」
「!
う、うんっ!!」
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