第47話
……
いつもながら、でっかい施設だよなぁ。
外の世界へ繋がっている受付を過ぎると、
凄まじい静謐さが襲ってくる。
年寄のペースに職員も合わせているから、
時の流れが壮絶にゆっくりしてる。
……はは。
相変わらず、0.25倍速の世界だ。
さっきまでいた娑婆となんと隔絶していることか。
「……。」
戸惑ってるな、愛香。
こういうところ、来た事はないんだろう。
つっても、
これから行くところは、全然違うんだけどな。
まわりに比べると、年齢は15歳くらい若い。
そして。
……ああ。
一応、予告しとくか。
「まなかちゃん。
えんぎ、じょうずだよね?」
「え?」
「はなし、しっかりあわせて。」
よし、説明終わりっ。
がらっ。
「
「!」
「おうっ。
龍之介かっ。」
りゅうのすけ。
誰の事か全然分からない。
また人物関係図がリセットされたな。
こないだ高校生だったから、
こんどは中学生になったわけか。
「そっちの娘はきさまの女か?」
うわ。
時代とはいえ、ロコツな表現。
「ええ、そうよ。」
ぶぅっ!!
(あら。
話を合わせて、って言ったのよね?)
ま、愛香、
お、お前、
めっちゃ楽しそうだなっ。
「とてつもないじゃじゃ馬娘だな。
嫁の貰い手なくなるぞっ。」
う、わ。
時代がすべて違いすぎる。
たった数十年で、同じ国とは思えないくらいに。
「龍之介っ。
きさま、また…うげつと
あの地下に潜ったそうだなっ。」
は?
「地下、だと?」
「そうだ。
…うげつにそそのかされてるようだが、
もう二度と行くなっ。
きさまはあそこになにがあるか、わかってるのかっ!」
「なら、貴方は知っているの?」
ぶっ。
ま、愛香の奴、
初対面の爺まで煽ってやがるっ。
「っ!」
うわ、
めっちゃ苦しい顔をしてる。
でも。
「答えろよ、勝俊。
地下に、なにがあるんだ。」
追い打ちを、かけてしまう。
「……
あそこは、防空壕の跡地なんかじゃない。
あそこは、俺の、親父が
爺の、親?
ひいじ
「ぐはっ!?」
「!」
きゅ、急に
苦しみだしたぞっ!
な、ナースコールっ!
「どうされましたか?」
「2、207ごうしつっ!
お、おじいちゃん、ほっさが出てるっ!
おねがい、急いでっ!」
『!
わ、わかりましたっ!』
*
はぁ……
しばらく出禁かもな。
処置が早くて命が助かったのは不幸中の幸いだったが。
……
うげつ。
雨月物語かな?
(きさまはあそこになにがあるか、わかってるのかっ!)
地下。
どうして、爺にまで、関係があるんだ。
あそこに、一体、何があるっていうんだ。
いや、
地下、って言ってるだけだから、
俺が潜った奴とは、全然関係ないかもしれない。
……に、しても。
「あら、どうしたの?」
……。
なんでいるの、とか言うつもりもなくなってる。
平然とリビングに上がってるんだよなぁ。
まぁ、もう、いいかぁ。
高級車で家まで送ってもらっちゃったわけだし。
「安心して。
お母さまがお帰りになられたらお暇するわ。」
そこが一応、コイツなりの一線なのか。
「ふふっ。」
ん?
「私、満明君の部屋で
一夜を過ごしてもいいのよ?」
ぶっ!!
お、お前なっ、
弾けた笑顔見せてるんじゃねぇよ。
思った傍から踏み越えてきやがったぞっ。
「だって、
そんな慌てた顔するなんて。」
……っ。
39歳なのに、8歳児にいいように振り回されてるな。
そもそも、ほんとに意味、分かってるのか?
生理のことだって分かってなかったんだぞ。
……
いや、逆に、分かってるのかもしれないな。
十重二十重に特殊な環境だから。
「……。」
ん?
「ううん。
凄く、不思議だなって。」
?
「……。」
な、なんで黙ってるんだ?
「私、これでも、
結構、戸惑ってるのよ。」
は?
「……
今頃、もう、
灰になっていたはずだったのに。」
あぁ。
やっぱり、か。
つい一週間くらい前の話なのに、
なんか、随分昔のように感じちまってるな。
そういえば。
「どうやって、さそいこんだの?」
「……
そんなところだけ、気づいちゃうんだね。
潜伏先を散らしておいたの。」
ん?
「ふふっ。
ほら、私って、
街が好きでしょ?」
知らねぇよ、って言いたいところだが、めっちゃよくわかるわ。
都会的センスの塊みたいな奴だからな。
ビルから排熱した空気を吸ってないと死ぬんじゃないか。
「違う県の街中で、
何回か、目撃させてたの。」
あ。
そこへ駈け込んでも、誰もいないわけか。
当たり前だな。
「できるだけイライラさせたところで、
この街で目撃したぞ、って流したの。」
「どうやって?」
「……
きみなら、分かるんじゃないの?」
お前、
随分と買いかぶってくれてるじゃねぇか。
そんなもん、わかるわけ
あ。
「みぶんのひとくされたひと?」
あのカバー刑事なら、
それくらい、やってのけてしまうだろう。
例えば、捜索願にかこつけてしまえば。
「……
ふふ。
きみって、ほんっと、わからない。
ふだんは子どもみたいな顔してるのに。」
げ。
お前も子どもだろうがっ。
って、これじゃ文果みたいだな。
「……
どうやっても、逃れようのない運命なら、
せめて、道連れにしてやろうと思ってた。
覚悟なんか、とっくにできてるつもりだった。
なのに、きみが。」
ん?
「……
その、せ
もう、
ほんと、
きみ、どうしてくれるの。」
は?
あ。
母さんの車の音がする。
「……
いいわ。
今日は、お暇するから。」
そ、そうか。
またなにかやらかしてくるのかと
「夏休みは、長いもの。」
っ。
!!??
「もう、逃がせない。」
っ?!
「……
ふふっ。
またね、満明君っ!」
……
あ、あいつ、
さ、さりげなく、
口角に触れていきやがったっ!
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