第46話
ふぅ。
だいっぶん片付いてきたけど。
……
あぁ。
やっと、わかった。
この書棚、どこかで見たことがあると思ったら、
あの文学青年の部屋にあったの同じやつだ。
裏板の材質も、棚板の間隔もまんまだし。
そして、これは作り付けのやつだ。
既製品を買ったのなら、繋ぎ目があるはずだが、
そういうものがまったくない。
そもそも、家の壁一面に
うまいこと埋め込んであるやつが、既製品のわけはない。
……あぁ。
それもあるんだろうな、爺がこの家を処分したくないの。
拘り抜いて作った家なんだろうから。
マイ〇ラでさえ、作った家のデータがPCごと消えたら
「……
あなた、
また、ぼーっとしてるわね。」
う、わ。
なんか、小1の頃を思い出すわ。
……
そっか。
コイツとも、長いわけだよな。
「!
な、なによっ。」
「ううん。
ふみかちゃん、すっごくかわいくなったねっ。」
「っ!?」
ただの事実だからな。
「ともゆきくんは?」
手伝うんじゃなかったっけ。
「……
おじいさまとびょういんに行ってる。」
あぁ。
「ようむいんさんの?」
「……そう、よ。」
そっ、か。
自分を虐待していた
ヤク中毒の父親の見舞いに行くとは殊勝なことだ。
親子関係ってほんと、複雑だよなぁ……。
全治二か月だけど、
爺を引き合わせておいたおかげで、
治療費はなんとかなるはずだけど。
入院費は相部屋なら共済でどうにかなるんだっけ。
あれ、用務員って共済入ってんのか?
って、文果に聞けるわけな
っ!?!?
「……?
な、
なに、よ。」
い、いや、
な、なんで。
え、ええいっ。
「ふみかちゃん、
そのほん、
ちょっと、かしてくれる?」
「い、いいわよ。」
……
この大きさ。
この、重さ。
この手応え。
A4よりちょっと大きいくらい。
縮刷版の電話帳。
(げんかんのくつばこにあったの)
なんで、これが、
ここに
「あら、
左奥の書棚の整理、もう終わったの?」
!
「も、もうちょっとだよっ。」
「?
どうして、焦ってるの?」
言え、ない。
(守れなかったら、
そのときは、わかるね?)
これは、秘密事項の最たるもの。
巻き込むわけには、いかない。
絶対に。
……
しかし、どうして、
文果の爺の書棚に、これが。
っ。
と、とりあえず、ナチュラルに整理しておこう。
見つかりにくいように、
ちょっと大きめの技術書の横に隠れるように。
「……。」
な、なんか、
文果にめっちゃ訝しまれてる。
コイツ、変なところ鋭いから。
*
はぁ。
あの地下通路は、
正直、関わり合いになりたくはない。
(めんどくさそうなやべぇもんが出そうなんだよ。)
触らぬ神に祟りなし。
好奇心は猫をも殺す。
……なのに、
強烈な違和感がある。
なにか、とても大切なものに繋がっていそうな。
……で。
「あら、どうしたの?」
コイツ、ほんと、どうしたんだ。
こっちにまで付いてくるとは。
ヒマなのか?
……
なのかも、しらんな。
なにしろ、死ぬつもりだったんだから。
コイツのことだから、
これからの予定を全部キャンセルしてたかもしれない。
なら。
「ううんっ。」
意味なくショタスマイルっ。
「……っ。」
っていうか、
コイツも地味に体力あるんだよな。
俊敏性も兼ね備えてる。高貴な血筋の癖して。
「まなかちゃん、
なにかうんどうしてたの?」
「えぇ?
……まぁ、習い事はいろいろしてたわ。」
ふぅん。
「だんすとか?」
ただのイメージ。
「それもよ。」
おわ。
マジもんの金持ちは揶揄いづらい。
「……帰りたくなかったから。」
あ、あぁ。
確かになぁ。
クソ変態殺人鬼と同じ部屋なんて、
死んでも嫌だろう。
……
死んでも、か。
ぐっ。
う、あ。
直射日光が、ギンってきたわ。
日陰がないんだよな、この道。
いや、これ、
こっから先はいくらなんでも。
「まなかちゃん、
ぼく、これから、
けっこうとおくまでいくんだよ?」
さすがにこの暑さに付き合わせるのは忍びない。
まだ熱中症は軽く見られてるけど。
「あら、そうなの。
ご心配には及ばないわ。」
ん?
……。
げ。
な、なに、この白い車。
すーっと入ってきたぞ。
いつのまに。
「どこへなりとお連れ致しますわ。
ご乗車願えるかしら?」
……
マジでやべぇなぁ金持ちは。
ま、いいか。
あっついもんな。
*
うっは。
空調、めっちゃ効いてる。
っていうか、
こんなの廻せたのに、
なんでパーカー着て街中走ってたんだよ。
「あら、
それを聞くの?」
ん?
「この車、
大叔母様の御車よ?」
げっ。
「大叔母様、今日から東京におられるの。
だから、使わせてもらったの。」
……それで監視の眼も緩いってわけか。
ほんと、顔に似合わず大胆な奴だ。
「満明君、今日あたり、
御爺様のところに行かれると思ったから。」
んでもって、行動パターンがしっかりバレとる。
……そういや、コイツ、
俺があの山道走ってるところ、把握してたよな。
なんでだ?
うーん。
ほんとは文学青年のところに、
マウンテンバイクが入ってるか確認するつもりだったんだけどな。
まぁ、いいか。
こんなの、一生に何度乗れるか分からないし。
うわ、
ふっかふかだ。
シートがぴたっと吸い付く感じが高級車だわ……。
「……嬉しそうね?」
「うんっ!」
堪能しないと、思いっきり。
前世ではタクシーすら呼ぶの躊躇ってたんだから。
「……。」
ん?
「ううん。
なんでもない。」
なんか、菩薩みたいな顔されたぞ。
金持ちが貧乏人を慈しむような眼をしてんな。
まぁ、それで腹を立てる気性は、死んだ時にぜんぶ捨て去った。
つまらないプライドよりも生きることのほうが大事だ。
自堕落空調生活万歳だわ。
あー、
っていうか、はやい。
車、めちゃくちゃ早い。
あんな苦労して走ってたのに。
……
文明って、すげぇなぁ。
なんていうか、いろいろ脱力するわ。
「……。」
っていうか、
コイツ、横顔まで様になってる。
まどかちゃんは溶けるような儚さを持つけれど、
コイツは端正の極致みたいな顔で、
見ているだけで惹き込まれる。
……だから変質者が寄ってきたんだろうけど。
まして、義理の父親に殺されかけたっていう。
まどかちゃんもそうだけど、綺麗すぎるのも考えもの
「どうしたの?
私の顔なんてじっと見て。」
「まなかちゃんは
きょうもきれいだなって。」
「っ。」
子どもだから、
思うことを素直に言えるのは有難いわ。
高校生とかなら、絶対に曲解されたろうから。
「……
揶揄ってるわけじゃないのよね。」
ん?
「うんっ。」
客観的に言って、申し分なく整ってる。
なるほど、殺したくなるっていうのも分かるわ。
まぁ、コイツは絶対に嫌な
えっ。
く、唇に、
手を、
「そんな、
わっるぅいことばっかり言ってるのは、
この口、かな?」
ぐっ!?
って、いうか、
なんで、そんなに眼を潤ませて
「お嬢様。」
「っ!?」
「そろそろ着きます。」
「そ、そう。
わかったわ。」
……はは。
柄にもなく、取り乱してやがる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます