第5章

第45話


 ……はぁ。

 

 あっづいなぁ。

 空調、ケチってるからだが。

 

 ……

 まどかちゃんは、隣町の実家に戻っている。

 さすがに黛家の御本尊に乗り込むほどの度胸はない。

 ショタビームも年寄にはあんまり効果ないみたいだしなぁ。


 ……ウチはといえば、

 お盆休みをまったく取らずに、平日運用で仕事をしている。

 バアさまの墓参りに日をずらして行っただけだ。


 ……なんだよ、な。

 親戚から、孤立してるんだよ春間家は。

 俺が16歳の時、扶養義務がありそうな親戚が

 

 って。

 

 もう、こんな時間か。

 そろそろ、行かないとだな。

 

 ……あ゛っづい、なぁ。

 まぁ、30の頃みたく、

 外をちょっと歩いただけで躰が溶けるようなことはないわ。

 

 ……

 今日は、肉体労働よなぁ。

 約束してたこととはいえ。

 

 いや。

 あの頃に比べたら、全然見返りがあるわ。

 

 よしっ。

 気合入れていくかっ!

 

 がちゃっ

 

 ……

 

 !?

 

 

  「こんにちは、満明君。」

 

 

 ……は?

 

 「どうしたの?

  まなかちゃん。」

 

 なんで、コイツ、

 うちの前にいるんだ??

 

 「ふふ、ご挨拶ね。

  夏休みに友達の家に遊びに来ちゃいけないの?」

 

 う、わ。

 さらさら金髪が夏の風に靡いて輝いてる。

 なんていうか、8歳児なのに、パーツが完成されてるよな。

 芸能界なんて軽々と飛び越えちまってる。

 

 ……じゃ、なくて。

 

 コイツ、まどかちゃんが実家帰ってるの、

 分かって来てるよな。

 

 っていうか、

 

 「ひとりでであるいて、

  だいじょうぶなの?」

 

 こないだ殺されかけたばっかりだろうに。

 だいたい、お前には、敵がワンサカと

 

 「……

  きみが、守ってくれるんでしょ?」

 

 っ。

 ひ、否定すべきなのに、

 めちゃくちゃ切ない顔してきやがる。

 潤んだ眼が

 

 「ふふ、じょうだんよ。」

 

 は?

 

 「大叔母様、はっきり仰ったから。」

 

 あ、あぁ。

 テリトリー内で粗相があったら

 必ず報復する、みたいなことか。


 っていうか、コイツの出自がもし本当なら、

 国際問題にも対処するつもりがあるってことじゃねぇか。

 どんだけのパワーなんだ大叔母様。

 

 まぁ、でも。

 

 「よかったねっ。」

 

 コイツからすれば、

 いままで味方なんて一人もいなかったんだから。

 

 「っ

 

  ……

  きみの、せいだよ。」

 

 ?

 

 「ふふ。

  そう、ね。

  そうかも、しれないわ。」

 

 あ。

 やべ、わりといい時間だ。

 

 「ごめんね、まなかちゃん。

  ぼく、きょうはでかけるさきがあるんだ。」

 

 「そう。

  じゃぁ、ついていってもいいかしら。」

 

 ……は?


 「ここまで来させて、

  手ぶらで帰す気なの?」

 

 うっ。

 お前が勝手に来たんだろ、とは言えない雰囲気だわ。


*


 「!」

 

 ……はは。

 そう、なるよなぁ。

 

 「あら。

  文果ちゃん、ここに住んでたのね。」

 

 「ど、どうしてっ。」

 

 こっちみんな、こっちっ。

 ああもう、しょうがないな。

 

 「ひとではおおいほうがいいかなって。」


 今日で書棚の整理を終わらせるからな。

 

 そこ。

 聞いてなかったって顔すんな。

 っていうか、嫌だって言うなら

 

 「……そう。

  いいわ。こういうのも面白そうね。」

 

 っ。

 つ、強いな。

 

 「きみと一緒なら、

  なんでも面白いもの。」

 

 っ!?

 

 「!」

 

 あ、煽るんじゃねぇよっ。

 ここ、文果のテリトリーだろうがっ。


*



 ……ふぅ。


 一応、形にはなってきたか。

 

 突っ込まれてたいらん書類の束みたいなのは

 文果から爺に念押しして整理させたし、

 訳の分からない土産類も処分させた。

 こんま〇理論は役立つなぁ。


 それでも蔵書数は2000冊くらいはあるわな。


 この爺、理系だったのか、

 英語の古い技術書がいろいろ出てくる。

 

 ああ、そこの金髪児童、

 中身読まない読まない。

 

 ってっ。

 

 え、ええい。

 

 「なにがかいてあるの?」

 

 「!

 

  ……

  ううん、なんでもない。」

 

 ……あぁ。

 いろいろ、裏付けられちまうじゃねぇか。

 

 いい、いい。

 そっちまで手を伸ばせる自信なんてあるか。

 

 って、文果の奴っ!?

 あの脚立めっちゃガタついてるってこないだ言ったばっかりだろがっ。

 

 あっ。

 あぶね

 

 「きゃぁっ!」

 

 っ!

 思った傍からっ!

 

 「!

  満明君っ!?」

 

 ま、

 間に合えっ!!

 

 ぐぁっ!!

 

 「っ!?!?」

 

 う、腕の力、やっぱり鍛えないとダメだわ。

 どすんってきた。

 30キロ弱プラスGが乗っかるとさすがにキツい。

 折れなかったのは奇跡かもしれない。

 

 い、いやっ。

 

 「だ、だいじょうぶ?」

 

 「……っ!」

 

 あぁ。

 コイツ、マジで垢ぬけたけど、

 誰がアレンジしてんだろな。

 

 コッペパンのばったもの食ってるんだったら

 そのカネを食い物のほうに廻したほうが。

 っていうか、なんか、甘い

 

 「……っ!?」

 

 「ふ、二人とも、怪我はない?」

 

 あ、

 愛香が駆け寄ってきた。

 

 「!

  お、おろしなさいよっ!」

 

 あ、あぁ。

 そ、そうだったそうだった。


 「……

  元気そうね、文果ちゃん。」

 

 「!」


 なんか、顔、赤くなってんな。

 旧家って空調が効きづらいんだよなぁ。

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