第44話


 「……あの娘、

  東京に戻ったようね。」

 

 あぁ。

 愛香のこと、か。

 

 「みたいだねっ。」

 

 あいつは、あいつの地獄に帰った。

 物質的に満ち足りた、荒涼たる精神の砂漠に。

 

 「……。」

 

 「どうしたの、ちかげさん。」

 

 「……

  なんでもないわ。

  

  あぁ。

  貸衣裳の件ね。」

 

 げ。

 10万超えないといいけど。

 

 「ご心配には及ばないわ。」

 

 え?

 い、いや

 

 「保険に入ってたのよ。」

 

 あ。

 

 うわ。

 さすが、金持ちは違う。

 捨て金をなんの躊躇いもなく平然と使える。

 

 「どちらかといえば、

  塀の中の変態さんに損害賠償請求したほうが

  高くむしり取れるけど?」

 

 う、げ。

 千景さん、いい顔してやがる。

 酷薄なのに、見ていたくなる美しさだ。

 

 い、いや、

 でも。

 

 「い、いいよそんなのっ。」


 もう二度と関わり合いになりたくねえっ。

 

 「……そう。

  君、ほんとうに甘いわね。」

 

 ぐっ。

 ね、念押しするように言われちまった。

 

 「ま、いいわ。

  そうでなければ、まどかを任せられなかったし。

  

  でも。」

 

 ん?

 

 「……

  まどかだけをみてなさい。

  もう、あの娘はいないのよ。」

 

 ……

 

 「うんっ。」

 

 「ふふ。

  だったらいいわ。

  

  ……。」

 

 ん?


 「どうしたの、ちかげさん。」


 「……

  ぜんぶ君が悪いのよ、まったく。」


 は?


*


 ふぅ。

 

 今週の天気、ぜんぶ写し終わったな。

 

 ……例の日は、

 さすがに、「なんにもないすばらしいいちにちだった」

 では済ませられないな。

 まどかちゃんがすっごくきれいだったとだけ書いておくか。

 

 ……

 まぁ、凄まじかったわ。

 授賞式本体は抑えられても、

 ホールのロビーとかで通りすがりに写真撮られまくったろうな。

 なんか、ちょっとむかつく。

 

 ……

 

 ん?


 まどかちゃん、ぼーっとしてるな。

 最初に逢った時みたいな顔して。

 

 「どうしたの、まどかちゃん。」

 

 「!」

 

 あぁ、

 ふわっと泣き笑いみたいな顔をして、

 

 ぼすっ。

 

 小さな躰を、預けてくるから。

 

 「!」

 

 こんなの、抱かないわけにはいかない。

 

 「……。」

 

 あぁ。

 空調の効いた部屋だと、

 まどかちゃんの甘い肌と体温がちょうどいい。

 

 じゃ、なくて。

 

 「さみしいの?」

 

 「!

 

  ……

  

  うん。」


 愛香が、東京に帰ったことが、

 少し、寂しいのか。


 「……

 

  たすけてもらったの。

  

  えんそくのときも、

  りんかんがっこう外伝送りのときも。」

 

 あぁ。

 そんなこともあったなぁ。

 

 「……

 

  ほんのちょっとは、

  のかな、っておもったけど。

  


  ……


  クラスがかわって、

  はじめてできた、ともだちだったの。」

 

 ……

 ちゃんと友達業してたのか、あいつ。

 

 いや。

 それも、きっと、あいつの本当の姿なんだろう。

 

 (大丈夫よ。

  黛さんも、柏原さんも、

  私がしっかり見てるから。)

 

 同い年なのに、お姉さんぶって、

 

 (ほら、黛さん。)

 

 優しく、周りをいたわって。

 

 (貸し、だからね。)

 

 頭の廻りが早くて、

 手に追えないくらいの悪戯好きで。

 

 ……

 いや、ろくでもない思い出もいろいろ出てきたぞ?

 まったくもう。

 

 そ、っか。


 ……

 俺も、まどかちゃんと、

 離れなきゃいけない時が来る。


 俺と、まどかちゃんでは、

 なにもかもが違いすぎる。

 こんな関係は、いまだけだろう。


 その時までに、

 まどかちゃんを支えてくれる人を、

 見つけておかないと。


 「?」

 

 う、わ。

 しっかり、見られてるな。

 

 あぁ。

 とろけるくらい可愛いなぁ、まどかちゃんは。

 なんでこんな眼がぱっちりしてるのに、

 顔のバランスが奇跡的に整ってるんだろうな。


 「!」

 

 こんなの、撫でるしかない。

 

 ……

 あぁ。

 温かい躰を寄せられながら

 めっちゃ幸せそうな顔してくれると、

 なぜか、涙がでそうになる。


*



 ……


 ……

 

 ……

 


 は?


 

 「あら。

  どうしたの?」

  

 い、

 い、いかん、

 か、固まっちまった。

 

 ど、どうしたのって。

 な。

 

 

  「なんで、いるの?」

 

 

 「失礼ね。

  クラスメートに向かって。」

 

 い、いや。

 だ、だって。

 

 「登校日よ。

  来るの、当たり前でしょ?」

 

 はぁ??

 

 「てんこうしたんじゃないの?」

 

 「そんなこと、

  誰も言ってないじゃない。」

 

 っ。

 

 「だって、とうきょうに、

  かえったんじゃなかったの?」

 

 「帰ったわ。

  住民票、変えないとだから。」

 

 ……は?



  はぁっ!?!


 

 「言ったじゃない。

  バカンスは終わり、って。」

 

 ぇ

 

 !!!

 

 「そうよ?

  私、こっちに住むから。

  大叔母様、離れを下さるそうよ。」

 

 ぶっ!!

 く、下さるって。

 こっちも発想が桁違いだな。

 

 「……

  よく、わかったけど、

  離れてるほうがいいのよ。

  いろいろとね。」

 

 ……あ。

 目白庭園、相当ヤバかったんだわ。

 

 「住めば都ね。

  この街も、そんなに悪くないわ。

  小学校くらいは、いられそうね。」

 

 ……そりゃどうも。

 

 「……

  それとも、

  あれは、リップサービスだったの?」

  

 ぐっ!?

 榛色の瞳を伏せて、

 不安そうなフリなんかしてやがるっ。

 

 (いつでも、もどってきてねっ。)

 

 「……

  ううん。」

 

 それ、ならっ。

 

 

  「まなかちゃん、

   おかえりっ!」

 

 

 「っ!

 

  ……。」

 

 効いてるのか効いてないのか分からないが。

 下限もあるらしいしな。

 

 あ。

 

 まどかちゃん、

 意識、飛んでる。


 「まどかちゃんっ。」

 

 「!?

 

  う、うんっ。」

 

 「よかったねっ。」

 

 「……。

 

  

  う

  

  うんっ!!」

 

 「……そう。

  ほんとかな?」

 

 ん?

 

 「っ?!」

 

 あ、文果だ。

 

 「あ、あなた、

  なんでいるのよっ!」

 

 ……コイツ、ほんと、

 直球しか投げらんない奴だなぁ。

 

 「あら。

  ご挨拶ね、文果ちゃん。」

 

 そう言うと、

 愛香のやつは、すっとこっちを向き、

 


  「もちろん

   満明くんのそばに、

   いたいからよ?」


 

 ……

 

 ぶぁっ!!


 「!」

 「!?」

 

 「だって、私を背中に隠して

  命を護ってくれたのよ?

  離れたいわけないじゃない。」

 

 あ、あいつ、

 文果を煽るため

 選択的に言葉を選んでやがるっ。


 「ふふ。

  満明くん?」

 

 は?

 な、なんか、近づいてき




  「は、終わり。

   本気で、きみを、獲る。」




 っ!!

 

 み、耳に、

 息、吹きかけてやがるうぅっ!


 「はーい。

  登校日のホームルームはじめますよー。」

 

 う、うぁっ……。

 なにごともなかったように座りやがってっ。

 

 ……っぅ!


 「……。」

 

 ま、ま、

 まどかちゃんが、

 あの時の眼第4話参照でこっちを見てるぅっ!

 

 「黛さん、

  こっち見なさいね。」

 

 「!

 

  は、はいっ。」

 

 ……

 ふぅ。

 

 ……

 って、

 なに嬉しそうに

 隣でほくそえんでやがるんだよ愛香ぁっ!

 


ピカピカの逆行転生は修羅場だらけ

第4章

了 

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