第41話


 ……はは。

 

 「っ……。」

 

 馬子にも衣裳とは言うけれど。

 

 「……おしむらくは、貸衣裳よね。

  ぴったりとはいかなかったわ。」

 

 千景さんはオーダーするとか言いそうだったんだよな。

 さすがに母さんたちが引く。

 子ども服なんて、あっという間に着られなくなるんだから、

 持ってたってしょうがないんだけどな。

  

 「そんなこともないわ。

  親戚にも配れるし、最後はあげちゃえばいいのよ。」

 

 ……金離れがよすぎるわ。

 専業主婦なのに、家政婦さん、週1で入れてるくらいだしなぁ。

 

 「……。

  失敗だったかしら。」

 

 ん?

 

 「にあわない?」

 

 紺の軽そうなブレザー。

 夏用だから極薄手。肌ざわりも涼感素材。

 髪もセットしてもらったから、

 そんなには悪くないと思ってるけど。

 

 「……

  逆、よ。」

 

 ??

 

 「はぁ……。

  ま、いいわ。

  

  あぁ。

  まどかの撮影は止めさせたから。」

 

 うわ。

 市長室の広報素材をストップしたのか。

 

 「警察さんのほうから事情を入れさせたわ。」

 

 ……さすが黛家、生きる治外法権。

 でも。

 

 「ぎいんさんは?」

 

 「ああいう連中はね、そんな些事は忘れるの。

  ぜんぶ忘れないとやってられないのよ、あんな稼業。」

 

 めっちゃ議員批判じゃん。

 どうリアクションしていいのやら。

 

 「でも、めんつはたてないとなんだね。」

 

 「そうよ?

  腹立たしいくらいにね。

  

  さ。

  まどかを迎えにいきなさい。」

 

 え?

 

 「ちかげさんは、いかないの?」

 

 「……行けるなら、

  きみに声をかけたりはしないのよ。」

 

 ……あぁ。

 なんか、あるのか。

 

 千景さんだと、奇襲攻撃は無意味だ。

 なら。

 

 「うんっ。

  わかったっ!」

 

 無垢ショタスマイルⅡ号改っ!

 

 「っ……

  

  え、演技とわかってるのに。」

 

 ……はは。

 年上には効くんだよなぁ。

 

 「えへへぇっ。」

 

 「っ。

  いいからさっさと行きなさいっ。」

 

 「はーいっ!

  じゃぁね、ちかげさんっ!」

 

 「……

  戒名付きで墓石、買っておこうかしら。」

 

 おい。

 勝手に殺すなっ。

 

 ……前世は無縁仏だもんな。

 戒名ついたら、こんなことになってなかったのか?

 って、なんだそりゃ。


*


 ふぅん。

 そこそこひっろいな、このホール。

 ちょっと古いけど。


 生前にこんなとこ、一回も入ったことなかったな。

 そりゃまぁ、そうか。中学からは街外れまっしぐらだったもんなぁ。


 で、と。

 受賞者控室がちゃんとあるわけな。

 まどかちゃんは、確か、三階の

 

 ……

 

 は?

 

 「!」

 

 な、

 

 

  『なんでいるのっ!?』



 うわ。

 ヘンなところでハモりやがった。

 

 「そ、それはこっちのせり

 

  ……ぅっ!?」

 

 ……ん?

 なんか、のけぞったぞ文果のやつ。

 

 っていうか。

 

 「ふみかちゃんも、

  なにか、もらうの?」

 

 ピンクの花のリボンみたいなのを

 胸に差してあるんだよな。

 

 「っ。

 

  そ、そうよっ。

  わ、わたしが

  ほしがったわけじゃないんだからねっ。」

 

 やっぱり、か。

 まぁ、ほしがっただけでもらえるもんじゃねぇよな。

 でもコイツ、絵なんで描けないぞ。

 なら。

 

 「ぶんしょう?」

 

 「……

  っ。

  

  そ、そうよっ。

  どくしょかんそうぶんっ。」

 

 あ、

 え、

 

 うわ。

 そ、そうか。

 小3がキュルケゴールなんで読んでりゃ、

 審査員、度肝を抜かれるわ。


 「な、なによっ。

  あ、あなたまでうたがうつもりっ!」

 

 あぁ……。

 疑われたんだろうな、きっと。

 

 っていうか。

 

 「すごいねっ!」

 

 「っ!?」

 

 「それって、うたがわれるようなものを、

  かいたってことでしょ?

  すごいさいのうだとおもうよっ。」

 

 才能っていうか、不遇って言うべきなんだろうけどな。

 まぁ、文才なんてそんなもんだが。

 

 「……っ

 

  あ、あなた、

  な、なんで、そんな、

  き、きれいなかっこうしてるのよっ。」

 

 あ、あぁ。

 これは

 

 っ。

 

 や、やっべっ。

 

 「ご、ごめんふみかちゃん。

  ぼく、いかないとなんだっ。」

 

 「っ。

  そ、そうなの……。」

 

 「ごめんねっ!

  かいじょうでねっ!」

 

 「わ、わかったわっ。」

 

 ……っ。

 まどかちゃん、待たしちまったじゃねぇか。

 

 警察さんとセキュリティついてるから、

 別に問題はないんだけど、なんか、気が焦るな。


 俺のことはどうでもいいんだけど、

 まどかちゃん案件となる

 

 「……。」

 

 う。

 

 ぁ。

 

 ……っ。

 

 「……っ!」

 

 すご、いな。

 

 柔らかなアイボリーレースを重ねたフリルロングドレス。

 どんなモデルが着ても浮いてしまう非日常感なのに、

 ぴたっとはまってしまっている。

 

 生まれつきの王女でも、

 ここまで行くことは、ない。

 

 なんて儚くて、なんて凄まじい光を背負ってるんだ。

 空間から浮き出るような存在感だ。

 琢磨さんの遺伝子、凄まじすぎる。

 

 ……いいのかな、これ。

 確かに公式写真は取られないだろうけど、

 ガラケーのカメラでばっしゃばしゃ抜かれそうな

 

 「……。」

 

 ん?

 

 「どうしたの、まどかちゃん。」

 

 控室から出てきちゃってるけど。

 

 「……っ!?」

 

 あれ。

 緊張してるのかな。

 

 あんまりしない顔してるなぁ。

 戸惑った感じっていうか。

 

 あぁ。

 

 「きれいだよ、まどかちゃん。

  すっごく。」

 

 「っ!?」

 

 もうちょっとボキャブラリーよく褒められないものかね。

 世の王子様キャラは努力で成り立っていると思い知らされる。

 まぁ、そんなもん習得する意味はな

 

 「……っ!!」

 

 あれ。

 

 「まどかちゃん、おねつあるの?」

 

 「!

  な、な、ないもんっ!!」

 

 そう、かな。

 

 「すぐおわるから、

  がんばってね。」


 「……

  う、うん。」

 

 ……ほんとは舞台袖で見たいんだけどなぁ。

 琢磨さん経由で私服の警察さんが一人入るみたいだから、

 そっちに任せるしかないわな。

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