第39話
「おや、
これはこれは。」
役所内に教育委員長の執務室があってよかった。
かなり狭い部屋で、はっきりいって校長室より待遇悪いけど。
立場が分かるわぁ。
「また机の下に入っておられたんですね。」
「はーいっ!」
この頃の市役所、セキュリティはガバガバだ。
カード型の認証システムができるのは、
バカみたいに維持費がかかる高層の新庁舎に移ってから。
「ははは。
なかなかたくましい子ですね。」
それで済ませるってのはほんと大物だなぁ。
教頭あたりならふつうにつまみ出しそうだわ。
「なつやすみちゅうだから、
いいかなぁっておもってっ。」
授業期間中だと、いろいろ気を遣うだろうから。
「ふふふ。
そうですか。」
「うんっ。」
「それで、今日のご用向きはなんですか?」
よし。
「これだよっ。」
あったんだよな、これ。
「……これは?」
「にっぽう。
ようむいんさんの。」
怪訝な顔をしてる。
まぁ、そうか。
「ちゃんとはたらいてたよって、
こうちょうせんせには、しっておいてほしかったんだ。
あなたは、まちがってなかったって。」
「!」
せめて、それくらいはしてやらねぇと。
「……
拝見します。」
「うんっ。」
そういや、中身をちゃんと見てなかったな。
一応プライベートなものかもしれないと思ったから。
「……
!
これ、は……。」
?
「……
君は、中身をご覧になっていないのですね。」
「うんっ。
ぷらいべーとなものでしょ?」
「そう、ですか。意外ですね。
君はいろいろ調べたがるほうだと思いましたよ。」
失礼だなぁ。
そんな詮索癖はないわ。
コ〇〇君じゃあるまいし。
「ふふ、そうですか。
……
ありがとう。
私に気を使ってくれたのですね。」
「うんっ。」
って。
少し、真剣な顔になって、
さらさらと字を書き始めた。
「『ここは、盗聴されています。』」
!?
な、なんだってっ。
ぐっ!
し、し、しまった。
滝川父の日報が校長に渡ったことを、
きっぱり、喋ってしまっている。
そもそも、俺がここに入ってしまったこと自体、
しっかり、記録を取られちまったってことだ。
予め、想定すべきだった。
前校長は、敵中の只中にいることを。
「『話を、合わせられますね?』」
無言で頷く。
真剣な表情で。
「ありがとう。
なるほど、ちゃんとした日報ですね。」
「うんっ。」
「君の言うように、
しっかり働いていたようで、
推薦者としては、安心しました。」
「よかったぁっ。」
「ふふ。」
そういうと、椎葉前校長は、
笑顔を崩さずに、
「『どうやら、滝川さんは、
地下を調べていたようです。』」
!!!
「どうもありがとう。
気をつけて帰るんですよ。
日射病にならないように。」
っ!
い、いやっ。
「はーいっ!
またね、こうちょうせんせっ!」
ここは、やりきらないと。
「……
とてつもない子ですね、まったく。」
*
……
う、あ。
さっすがにあっついなぁ。
アスファルトが照り返してぼんやりとかげろうがみえとる。
温暖化の程度からすると1度は低いはずなんだが。
爺さまのところまで走っていくには、
さすがに装備が足らなすぎる。
あぁ、さすがに自転車くらい誰かにねだらないと。
つっても、あの山の急斜面とかになると、
自転車と徒歩でそう変わらないんだよな。
なんせまだ道が整備されてないから。
老人ホームっていうよりは、障碍者用のコロニーみたいだけど、
まぁ、痴呆症だしなぁ。
……。
あそこへ押し込めたのは母方の叔父さんなので、
何をどうやってあそこへ押し込めたのかが
いまいちわかんないんだよな。
母さんは次女なんだけど、
親戚づきあいをまったくしてなかった。
お年玉すら貰った記憶がない。
……
まぁ、なんとなくわかる。
なにしろ、できちゃった婚だしね。
父さんに気を使って、なにも言わないんだろうなぁ。
そういえば、父方の祖父と祖母って、
まったく見たこともな
?
あ、あれって、たしか。
……
なんか、
めっちゃ昏い顔してるな。
……よしっ。
「おねーえさんっ!」
「っ!
……き、きみは?」
「おねえさん、
なおとさんの彼女さんだよね?」
「っ!?」
……はは。
2年前に、ここであの文学青年と抱き合ってた女性。
少し歳を取ったけれども、華奢なスタイルは変わってない。
「わかれちゃったの?」
「……。」
「おんなのひとって、
わかれたおとこのことなんて、
かんがえないんじゃなかったの?」
「……。」
無邪気な興味津々風の顔。
考えようによっては、これも武器になりえるな。
プリテンドイノセント。略してプリイノⅠ号と名付けよう。
「……っ。
別れてなんていないわ。」
うわ、そうなんだ。
それって、ストーカーって言わないかな。
立派な自然消滅だと思うけど。
でも。
(て、てちょうに、
そのひとのしゃしん、
はさんでるでしょっ!)
あの文学青年のほうも、
嫌ってるわけじゃないんだよな。
……。
本当なら、見ず知らずの人の恋愛模様なんて、
一切、関心がない筈なのに。
なにかが、強烈にひっかかってる。
(文果ちゃん、
おとなにはね、
どうしても)
……
あ。
あっ!!
い、いや。
いくらなんでも、飛躍しすぎている。
なら、
ひとつずつ、確かめるまでっ。
「ねぇ、おねーさんっ。」
ショタスマイルⅠ号っ。
下から見上げるあたっくっ!
「っ。」
「おねぇさん、
たきがわともゆきくん、ってしってる?
なおとさんがべんきょう、おしえてた子なんだけど。」
「……あぁ。
花梨ちゃんの従姉弟の子ね。」
やっ、ぱり。
なんの関係もないわけじゃ、なかったんだ。
っていうか、
え?
「かりんちゃんって、
くらしなかりんちゃん?」
確か、1・2年生の時、
まどかちゃんの友達だったはず。
「……そうよ。
きみ、よく知ってるわね。」
「えへへぇ。」
いまのいままで、全然気づかなかったわ。
そりゃまぁ、そうか。
クラスの違う倉科花梨と直接話したことなんて一度もないもの。
あぁ。
(さよなら、璃子。
元気で。)
「りこおねーさんは、
みょうじはなんていうの?」
「……
香月、璃子。」
「そうなんだぁ。
ぼくははるまみつあき、小3ですっ!」
ショタスマイルⅡ号改っ。
年上にはまだギリ効くっぽいので。
「っ!
……。
文果ちゃんも、可哀そうに。」
?
「……なんでもないわ。
それで、きみは、何が聞きたいの?」
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