第30話
……
え。
なんだ、あれ。
片方は、皐月愛香。
もう片方は。
……
間違い、ない。
教頭、
稲田徹司。
痩せぎすの体。
白い無地のシャツに紺のネクタイ。
薄い黒縁の眼鏡、曲がった鼻に高慢で細い眼。
光る額と、作り物のように跳ねた堅そうな黒髪。
前校長が退職したのに持ち上がらなかったオトコ。
そういえば、他所から来た校長とコンタクト取ってないな。
前校長みたいな聖人は期待できないにしても
……
なんていうか、皐月が、
完全に政治家のようなモードになっている。
アルカイックに微笑みながら頷いているだけ。
どういう8歳児なんだお前は。皇室アルバムより完成度高いぞ。
内心、困ってる。
なら、割って入るべきか。
と思ったら、終わった。
皐月が小さく礼をしている間に、
教頭が校舎へ戻り、階段を上っていく。
……ふぅ。
「聞き耳立てるなんて、失礼ね?」
ぶっ!?
な、なんだよ。
気づいてたのかよっ。
「ううん、
気づいたのは、さっき。」
ウソだな。
まぁ、そのウソに乗ってやるか。
「満明君はどうしてここへ?」
う、わ。
そっちから聞いてきやがったか。
攻撃は最大の防御なりと言うが。
「ちょっとね。
ようむいんさんのことで。」
「……暴漢に刺されたんですってね。」
げ。
情報統制下でよく知ってやがるな。
情報源、嘘保険医か?
といって、さすがのコイツも、
謎の地下通路までは知らんだろうな。
「満明君、なにか心当たりがあるの?」
楽しそうだな。
悪戯っぽい跳ねた眼をしてやがる。
さっきの教頭相手のアルカイックスマイルとは偉い違いだ。
そう、だなぁ。
「きょうとうせんせいとのかんけいを
おしえてくれたら。」
言うまい。
これで、初手を封じ
「あら、そんなことでいいの?
稲田先生は、大叔母様の知り合いなの。
編入手続きでもお世話になった。これでいい?」
げ。
喋った。
しかも、大したことでもない。
うわ。
これ、取引としてはマイナスじゃねぇか。
「ふふ。
約束、よ?」
うーん、しまったな。
なにを話そう。
地下通路はさすがに守秘義務がある。
あの若い刑事、地味に鋭い眼をしてたしな。
となると、こっちか。
「まえのこうちょうせんせいに、
ほうこくできそうなものをさがしてた。」
「前の校長先生?
椎葉先生のこと?」
おい、お前が転校する前の人だぞ?
絶対に嘘保険医情報だろ。
「うん。
ちゃんとはたらいてたよって、
しめせるようなもの。
にっぽうとか、そういうもの。」
あいつを任命したことを、
あの校長には後悔してほしくないし、
あいつがちゃんと働いてたことを、
校長くらいには知っておいて欲しい。
「……まぁ、
ただのじこまんぞくなんだけどね。」
地下に潜らなければ、助けられたかもしれない。
あの日、街を通るはずだったんだから。
……潜らなければ、葦原佳純は息絶えていたかもしれないが。
なんて嫌な二択だ。ロードする意味もない。
いや、ロードできんっての。
「……そう。
意外ね。きみが犯罪者の肩を持つなんて。」
犯罪者、か。
まぁ、そうだよなぁ。
ヤクの売人だし、息子を虐待してた屑だし。
でも。
「かんきょうしだいだよ。
にんげんなんて。」
聖人が拾った後のあいつは、
人が見ていないところでもひたむきに仕事をしていた。
あぁ。
かも、しれないわ。
そういうやつもほんのちょっとだけいるかもしれない、
ってだけだけどな。
「……。」
ん?
黙ってるな。
ほんの少し、昏い眼になっている。
それでも絵になるんだが。
まどかちゃんとは別の種類の美少女だな。
「……
ううん。なんでもない。
じゃぁね、満明君。」
「うんっ。
またあしたねーっ。」
「……
うん。」
……
最近、あいつ、
名前を呼ぶ時、眼がキラっとするんだよな。
なぜか、ほんのちょっと、ゾクっとする。
*
春の遠足、ねぇ……。
1・2年生ではなかった行事だな。
「男女一人ずつでペアになってもらいます。」
……
な。
!?
な、なんだっ!
めちゃくちゃ険悪な空気が流れたんだけど。
「大変残念ながら、
学年統一で決められてしまった仕組みなので、
異論は認められません。」
8歳児相手にえらいカタイ喋り方してんな、真理せんせ。
ちょっと早口になってるし。
「こちらで用意した厳正な籤引きで決定します。
入れ替えは認めませんし、
異論は一切認めません。」
なんで二回強調して言ったのよ。
*
……
あ、
あぁ……。
「ご、ごめんなさいっ。」
いや、
まぁ、
これは、クジだし、
そもそも、謝る必要なんてまったくないし。
「よろしくね、佐橋さんっ。」
佐橋美奈。
1・2年生のクラスで
まどかちゃんの友達だった娘。
少し地味目で、薄い縁の丸眼鏡をかけてる。
外見は〇びま〇このたまちゃんみたいな娘。
3年生で持ち上がっていて、塾が同じだったりもする。
まどかちゃん対応を考えると、
距離を近づけておきたいと思ったからちょうどいい。
あぁ、まどかちゃんがぷすぅっとしてる。
そういうところ、めっちゃ子どもに育ったなぁ。
なんせ、8歳児だし。感情が表に出るのは悪いことでもない。
ん?
皐月が近づいてって、
まどかちゃんになんか耳打ちしてる。
あ、
顔、真っ赤になった。
なに言ったんだあいつ。
「……。」
ちょっとまずいなと思ったのは、
出発時間が違うこと。
引率上の利便性なんだろうけど。
まぁ、まどかちゃんは地味に体力ついてるし、
皐月と文果がいるから大丈夫だろ。
……大丈夫か?
文果なんて絶賛低体力属性ついてるぞ。
う、わ。
こういうイベントまわりのこと、ちゃんと考えておくべきだわ。
まだガラケー没収時代なんだよなぁ。
防犯ベルだけじゃ不安しかない。
やっぱり真理せんせともうちょっと距離を詰めないと。
「ご、ごめんなさいっ。」
だから、なんで謝ってるの。
これはクジびきの結果だし。
「だ、だって、
ふきげんそうにしてるから。」
不機嫌?
「しんぱいなだけだよ。」
「そ、そう?」
「うんっ。
ごめんねっ。」
「っ!」
満面のショタパワーしか使えないんだよな。
攻撃パターンが少なすぎる。
そもそも同世代には無効だし。
いや。
いまは目の前の娘に集中すべきだよな。
「まどかちゃん、
「……
ない、と、おもう。
そもそも、ちかづけないから。」
声はちょっと可愛いな。
8歳児ってのもあるけど。
っていうか、
「ちかづけない、って?」
「……
きょねんまでは、
ここまでじゃなかったんだけど。」
?
「たぶん、こうづきさんとか、
ふみかちゃんといっしょにいるからだよ。
なんていうんだっけ……
あ、オーラ、っていうのかな?」
オーラ。
小学生相手に、もの凄い表現だな。
まぁ、わからんでもないけど。
「まどかちゃんひとりなら、
すごいなぁっておもうだけなんだけど、
それが三人もいるから。」
あー。
まぁ、なぁ。
「……
きいても、いいかな。」
ん?
「はるまくんは、
だれが、好きなの?」
……は?
あぁ。
そういう発想するのか。
8歳児なのに、ませてるなぁ。
いや、文果なんて、6歳
!?
な、
「!」
なんで、
「……。」
ま、まどかちゃんと、
皐月が、ここにいるんだっ!?
あ、あっちの列に並んでたんじゃ
!
ふ、文果まで、
こっちを見てる、だとっ?!
「……
ふふっ。」
っ!?
こ、皐月、
お、お前ぇっ、
跳ねるような眼して、楽しそうにこっち見んなってのっ!
ピカピカの逆行転生は修羅場だらけ
第2章
了
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