第22話
……ん?
なんだろう。
なにか、空気に違和感がある。
……
あぁ。
いつもなら、まどかちゃんや文果を揶揄ったり、
意味ありげな目線を送ったりしてるのに。
なんていうか、顔が、昏い。
それでも整った顔だが、
切なげというより、なにか、言い知れぬ切迫感がある。
なんだろう、な。
あ、
席を、黙って立った。
「ちょっと、出る。」
「うん。」
教室の外へ出てったか。
ただのトイレか?
うげ。
なんか、出そう。
俺もさっさとトイレいっとこ。
小学生、排せつ物にめっちゃ煩いから。
公立だからウォシュレットじゃないんだよなぁ…。
*
は?
「……っ!?」
な、なんだっ。
こ、皐月愛香、
顔、めっちゃゆがめて、
腹おさえ
……
こ、
これって、まさか。
いや。
これ、たぶん。
「ほら。」
「……な。」
「痛いんでしょ、
「……っ。」
やっぱり。
そういうこと、か。
珍しい例ではあるけど、
まったくありえないわけではない。
でも、この頃の性教育は、
女子ですら小4から。
言えない。
言えなかった。
言えるわけがなかった。
皐月愛香は、ストロングスタイルを取っている。
近くにいるまどかちゃんや文果を
揶揄うようなことを言う時以外、ほとんど無口だ。
自分から「仲良くして」なんて言ってる癖に。
あぁ、
コイツ、地毛が金髪なのに、
めっちゃ派手めな顔してんのに、
中身、めちゃくちゃ不器用なんじゃないか。
そして、
コイツのスタイルを考えるなら、
廊下で無様な真似を晒すよりは、痛みを我慢するほうを選ぶだろう。
なら。
「歩ける?」
「……っ。」
歩く、か。
まぁ、こうだよな。
「……っ!?」
触られるのを嫌がるならと思ったけど、
それはなかったか。
「手を当ててれば、
すこしはあったかいよ?」
「……。」
「おかあさん、なったことあるから。」
「……そう、なの。」
もしかして、これが生理ってわかってないのか?
なんでも知ってそうな態度してる奴なのに。
……ありえなくはない、か。
ぱっとみでいかにもそういうことを知ってそうなのに、
実はよく知らないってことは、結構ある。
どっちみち、こっちからはなにも言えない。
あぁ、まどかちゃんのことも考えると、
ロキ〇ニンくらい持ってたいが、この頃って市販してないんだよなぁ。
っていうか、そんなもん買うカネもないっての。
カネ、なぁ。
お年玉と
「……なに、よ。」
あぁ。
「ううん。
いたいの、つらいね。」
「……。」
あの偽保険医、ちゃんといるんだろうな。
*
「早いほうだが、
いないわけじゃないぞ。」
そっか。
合っててよかったのか、悪かったのか。
「お前、なんでそんな女慣れしてんだ?」
してないっての。
やけくそになって地下アイドルの追っかけしてた黒歴史時代に、
偶然、身に着いちまったいらん知識だよ。
幻想を壊すにゃ十分すぎたが。
「性教育が遅すぎるんだけどな。
まぁ、性教育すること自体に文句が来るくらいだから、
こういうことは普通におきちまうわな。」
……わからんでもないわな。
AVは性教育にはまったくならんし。
「こっちで事情は聞いとくから、
お前は戻ってろ。」
ま、それはそうだわな。
こっちが聞いていい話じゃない。
「はーいっ。」
「……むかつくな、その顔っ。」
なんでよ。
*
「おじーちゃん家のおそうじ、どう?」
「……
さ、さいしょはたいへんだったわよ。
かたづけるところしかなかったから。」
保険証の更新とわずかな現金収入、
そして、医療費の建て替え。
爺からすれば、ほんとは恵んじまいたいんだろうけど、
そうすると、意地っ張りの癖に
物分かりが良すぎる文果が身を引いてしまう。
バランスとしては、家政婦モドキはちょうどいい。
「でも、
こないだ、台所をせいふくしたわっ!」
おお。
「すごいね。
めっちゃがんばったね。」
あの台所、足の踏み場がなかったぞ。
自炊は絶対にしてなかったってことだろうな。
マジでどうやって生きてたんだあの爺。
「そ、そんなこともなくってよっ。」
めっちゃそうだって顔してんじゃん。
なんていうか、変わんねぇなコイツも。
「てつだってほしいところ、ある?」
「そ、そ、そうね。
ほ、ほんだなのせいりなんてどうかしら。」
あぁ。
それは悪くないかもしれない。
背がまだ伸びないのがしんどいが。
*
ん?
え゛
「こんにちは、満明君。」
な、なんで、家の近くに。
どうして知ってるんだよ。
「……へぇ。
こっちが、黛さんの家なんだ。」
お前、家、こっちじゃねぇだろ。
確か、小学校の反対、北側のほうだったはず。
「本当に隣に住んでるのね。」
「そうだよ。
うたがってたの?」
「ううん。
今日、黛さんは、習い事よね?」
……しっかり把握してんじゃねぇか。
この確信犯め。
今日は確か、英語の個別レッスン塾だったか。
「あがって、いい?」
は?
……まぁ。
「母さんが帰るまでなら、いいよ。」
「そう。
……ふふ。
断らないんだ。」
断る理由はないからな。
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