第19話


 ま、

 ま、ま、

 


  「まどかちゃんっ!?!?」


 

 え、

 ど、どうして。

 っていうか、いま、23時20分でしょ!?!?

 

 夜中にこんな街中のこんな事業所にきて、セキュリティ

 っていうか、どうやって

 

 「おとうさんのハイヤー。

  でんわして、のせてもらった。」

 

 ぶがっ!?

 

 な、なんていうか、

 自家用車、別に持っててそっち乗ってるのに、

 そんなもんも抑えてるなんて

 めっちゃ金持ちな話だけど、

 

 っていうか、

 そんなこと、できるようになってるのか、まどかちゃんは。

 

 ……

 あぁ、

 こどもは育つんだなぁ。

 

 じゃ、なくてっ。

 

 「まどかちゃん。」

 

 「うんっ。」

 

 「その、どうしてここに来たの?」

 

 「つけてもらったの。」

 

 は?

 

 「うんてんしゅさんに、

  みつあきくんのあとをつけてって。」

 

 ……

 なん、だとっ。

 

 いや。

 いやいや。

 

 「けっこうほそいみちとかもあったよね?」

 

 っていうか、まよなかだよねっ!?

 

 うわ、

 めっちゃ笑ってる。

 

 「だって、

  これ、二回目だもん。」

 

 ……

 な、なん、だと……っ。

 

 「みつあきくん、

  夜におそと、でてるから、

  どこいってるんだろうって。

  

  それで、もらったの。」

 

 ……

 

 あ。

 う、

 

 うわぁっ!?

 

 こ、これ、

 まさか、

 

 「あの、ちかげさん、

  これ、しってるの?」

 

 「うんっ!」

 

 うぁっ。

 なんていい笑顔なの……。

 

 ……終わっ、た。

 千景さんに、ハメられてたんだ。

 

 そういえば、父さんの様子がおかしいって言ったの、

 千景さんじゃん。

 

 ……めっちゃハイリスクだと思うんですけど。

 よっぽどハイヤーの人、信頼されてるんだなぁ。

 

 じゃ、なくて、ね?

 

 え。

 

 「おじさん。」

 

 う、わ。

 

 まどかちゃんが、父さんを、見上げてる。

 

 あ、

 おっきな瞳に、涙、うかべてる。

 

 あぁ、仰け反ってる。

 あんな美少女から見上げられたことなんてないわな。

 こりゃ、完全に堕ちたな。

 

 「おばさん、

  おじさんを待ってるんだよ。

  ねないで、待ってるんだよ。」

 

 「!」

 

 ……っ。

 情報源、千景さんかっ。

 

 「いまのおばさんをみて。

  いまのおばさんだけをみて。

  おじさんを待っているおばさんだけを、

  よく、みて。」

 

 「……。」


 

  「よけいなことかんがえないのっ!」

 


 ぶっ!?

 な、涙目のまんまで言ってる。

 

 ……あぁ。

 まどかちゃん、ドロドロの中にいたんだもんな。

 こういう話の感受性、異様に高いんだわ。

 そもそも賢いし。

 

 そっか。

 賢いから、なんでもわかっちゃって。

 だから、先回り、しすぎて。

 

 ……

 

 そう、だよな。

 

 「!」

 

 「……ありがとう、まどかちゃん。

  そう、だよ。」

 

 まどかちゃんの手は、

 いつも、すべすべで、温かい。

 

 すこし濡れた掌をそっと握ると、

 熱がゆっくりと体に伝わり、

 やわらかな勇気が湧いてくる。

 

 「お父さん。

  だいじょうぶ、だよ。」

 

 なんか、わかる。

 たぶん、恐れ多くて、手が出せないんだ。

 

 琢磨さんみたいな人と結婚するはずだったお母さんを、

 自分ごときフツメンがなりゆきで奪ってしまったことを。

 

 でも。

 


  「舞い込んだ幸運を、恐れないで。」



 「……。」

 

 それに。

 

 「いまのお父さん、

  すっっごくカッコわるいよ?」

 

 「ぶっ!?!?」

 

 「だってそうでしょ?

  春間孝明からむこうみずさをぬいたら、

  なにがのこるの?」

 

 「お、お、

  お前ぇっ……。」

 

 「ね?」

 

 「!

  う、うんっ。

  すっごくかっこわるいっ!」

 

 「ぐわぁぁぁっ!?」

 

 あ、クリティカル、入った。

 これはもうライフゼロだな。


*


 春間家は共働きだが、

 まどかちゃんを迎えに行く分、

 俺が一番早くなる。


 「いってきますっ!」

 

 「いってらっしゃい。」

 

 「あぁ。」

 

 もう。

 

 「おとうさん、

  夜の8時に家にいなかったら、

  ふとんのそこのへそくり、もやすからねー。」


 「ぶっ!?」


 ほんとうは北欧諸国レベル夕方5時半帰宅にしてやりたいが、

 現実的な限界はこのへんだろう。


 「じゃ、いってきまーすっ!」


 はは。

 

 ……すぐ変わるとは思わないけど、

 まどかちゃんに上目遣いで泣かれたのはインパクトでかいわな。

 俺だったらあれはもう、無理だわ。

 

 あぁ。

 外、よく晴れてるなぁ。

 

 しっかし、

 ほんっと広い家だよな。

 平垣に囲まれた白亜の城っていうか。

 

 建築趣味がヨーロッパ風だし。

 これ、いつ頃、誰が建てたんだろうな?

 千景さんが一から建てたらこうはならないだろうし。

 

 あ。

 

 「おはよう、

  みちあきくんっ!」

 

 う、わ。

 なんか、上機嫌だな。

 めっちゃ手を振ってる。

 

 うん。

 今日も一日、護り切りますか。


*


 「くしゅんっ。」

 

 ん?

 

 「カゼ?」

 

 文果は賢いから、風邪くらい引くか。

 そんな因果関係ないけどな。

 

 「う、ううん。

  ……う、うん。」

 

 ?

 なんのこっちゃ。

 

 「はーい。

  次、体育ですよー。

  さっさと着替えてねー。」

 

 うわぁ。

 ざわざわしてきたわ。

 一応三年生になると男女別で着替えるからな。

 

 うーん、この頃って、

 まだショートパンツなんだよな。

 さすがにブルマは全滅してるわけだが、

 変質者への防御力は不十分っていうか。

 そもそもなんでショートにしなきゃならんのだ。


 っていう発想、完全に女子だよな。

 まどかちゃんをディフェンスする意識が強すぎて

 

 ……

 

 ま、そう、なるわな。

 ほんともう、GPSを体内に埋め込みたい。

 

 というか、まどかちゃんが大胆になりすぎると、

 こっち側でいつロストしてもおかし

 

 「春間くん?

  着替えてないの?」

 

 ……

 やべっ!?

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