第1章

第16話



  「み、み、みちあきくんと、

   き、キスもんっ!!」



 ……


 は、

 はぁぁぁぁぁぁっ!?

 

 「な……

  なん、です、……ってっ!?」

 

 文果、めちゃくちゃ動揺してるな。

 っていうか、まどかちゃん、涙目になってる。

 めっちゃウソ気づいてないじゃん。なんでそんな意地はって

 

 「……

  ちょっ、と。」

 

 ん?

 

 え。

 な、なに、この子。

 

 なんていうか、それこそ現役モデルみたいな。

 金髪だし、目の色も榛色だし、なにより服が派手だ。

 綺麗めブラウスにチェックのスカート。着こなし方が板につきすぎなくらい。

 どうみても田舎の公立小学校には場違いな雰囲気だが。

 

 「その、

  ほんと、なの?」

 

 あ、あぁ。

 100%偽りないウソそうでもないだけど。

 

 「……

  うん。

  そう、だよ。」

 

 まどかちゃんに、

 恥をかかせるわけには、いかない。

 

 「……

 

  ふふ。

  思ったより、正直なのね。」

 

 え。

 

 ……くっ!

 ば、バレてる、だと!?

 

 「はーい。

  みなさん、座ってください。

  朝のホームルームをはじめます。」

 

 うわ。

 この雰囲気、ガン無視してきたなこの担任。

 40代くらいかな。めっちゃしっかり女教師って顔してる。


*


 え。

 

 「あら。」

 

 出席番号順で、

 隣に、座ることになったのは。


 「ふふ。

  まさか、きみの隣になるとは、

  思わなかったわ。」

 

 あぁ。

 向こうの席で、まどかちゃん、

 この世の終わりみたいな顔してるわ。

 さっきまで世界の幸せを一身に浴びて輝いてたのに。

 

 「私、

  皐月愛香こうづきまなか

  よろしくね、女たらしさん。」

 

 ぐわっ。

 ひどいこと言いやがる。

 

 ……違うんだけどな。

 いや、断じて。

 

 「ふふ。

  そんなこと、ちょっとしか思ってないから。」

 

 ちょっとは思ってるんじゃないか。

 

 っていうか、

 楽しそうにしてるな、この娘。

 

 「だって、

  遊びがいありそうじゃない。」


 なんてこと言いやがる。

 まずいな、この娘のペースに呑まれてる。


 っていうか、こんな娘、いたっけ??

 いかに地味にしてたといっても、

 他クラにこんな目立つ娘いたら、記憶に残るはずだけどな。


 え゛


 「……。」


 ま、ま、

 まどかちゃん?

 いつの間に、皐月愛香の前に立って、


 「その、

  席、替わってほしい、の。」


 「ふふ。

  いや、って言ったら?」

 

 ぶっ!

 

 ま、また、

 にらみ合いがはじまり

 

 え?

 

 「……

  替わって、ほしいの。」


 う、わ。

 一列下の大人しそうな男の子が、完全に気おされてる。

 

 「おね、がい。」


 まどかちゃんが、もうひとつ、

 切なそうな顔をしながら、なにかよくわからない闘気を発すると、

 押されるように立ち上がり、すごすごと立ち去っていく。

 

 すっと座ったまどかちゃんが、

 ふんすと鼻を鳴らしている。

 

 ……

 強くなったなぁ。

 ……などと言っていいのか?

 

 40代のザ・教師って感じの担任が軽く頭に手を当てている。

 長い教師生活でもこんなのに遭遇したことはそうそうないんだろうが、

 まどかちゃんの目力が強くて止められないのか。

 

 「せんせいっ。

  席がえをていあんしますっ。」


 ぅわっ。

 

 柏原文果、だ。

 あげた手が、ぴぃんと手先まで伸びてる。

 めっちゃ強いまなざしで、睨みつけるように先生を見つめ続ける。

 

 「……そう、ね。

  そのほうが、よさそうね。」

 

 あ。

 まどかちゃんの心の中で、

 なにかがぴきって折れた音がしてる。

 

*


 ……

 

 なん、と。

 

 まず、

 俺こと春間満明。

 窓側後列の一番後ろ。

 左と下にスペースを持つ、いわゆる特等席。

 

 ただ、それは、

 ぼっちの特等席であって。

 

 窓側後列の一つ前の席に、

 

 「……。」

 

 柏原文果がでんと陣取る。

 

 で、

 窓側後列、右隣の席。

 

 「……。」

 

 さっき知り合ったばかりの

 皐月愛香。


 コイツを外すための席替え提案だったろうに、

 結局コイツは隣に来てしまった。

 

 そして。

 窓側後列、右斜め上の席。

 

 「……むぅ……ぅっ。」

 

 黛まどかちゃん。

 

 俺の知り合いの密度が高すぎる。

 いや、皐月愛香は知らん奴だが。

 

 これ、ほんとに

 厳正なるくじ引きの結果だろうか。

 完全に封じ込められてるんだが。


 っていうか、

 まどかちゃんの席は、

 絶対に男子の筈なんだけど。

 

 あぁ。

 聞けないなぁ。

 

 「偶然も二回重なると、

  運命って言うって、知ってる?」


 ぶっ。

 

 こ、皐月愛香、

 この状況を、楽しんでやがるなっ。

 

 「ぐ、ぐうぜんはぐうぜんでしょっ。

  かくりつ的におこることよっ。」

 

 「そうかしら?

  ふふ、まぁいいわ。

  よろしくね、柏原さん。」

 

 「ぐっ……。」

 

 なんていうか、

 同世代にない妙な余裕を感じるよな、コイツ。

 中身おばちゃんでも入ってるのか?

 

 客観的に言って、隙のない整い方だ。

 それこそ子役でもしてそうな。

 まどかちゃんで図抜けた美少女を見慣れてなかったら、

 きっと気おされてしまっただろう。

 

 おっと。

 

 「まどかちゃん。」

 

 「!」

 

 「くじびきで近くになってよかったね。

  きっと、うんめいだね。」

 

 「!

  う、うんっ!!」


 あ、上がった。

 

 「その理屈だと、

  私のほうに、運命を感じるはずだけど?」

 

 おわ。

 お前な、せっかくまどかちゃんのモチベ上げてるんだから、

 変な絡み方して下げるんじゃねぇよ。

 

 「そうかもね。

  でも、ぼくらはおとなりに住んでるから、

  より深いとおもうよ。」

 

 「!」

 「!?」

 

 「……ふぅん。

  そう、なんだ。」

 

 っていうか、文果もはじめて知ったって顔だな。

 そりゃまぁ、そうか。

 

 「ま、いいわ。

  貴方といると、退屈しなそうだし。

  改めてよろしくね、?」

 

 う、わっ。

 下の名前呼んで笑いかけてくるんじゃねぇよ。

 上の席からブリザードが来てるじゃねぇか。

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