第15話


 「さすがにすぐやめたらふしぜんすぎるもんね?」


 6月人事も終わっちゃったしなぁ。

 

 「お前、な……。」

 

 「もう、べつのしごとしてるの?」

 

 「言えるかっ!!

  校長にだって言ってないんだ

  

  ……っ!?!?」

 

 って、繋がりをゲロしちゃうわけか。

 どうりで、校長に関する情報がなにもでなかったわけだ。

 コイツ、この仕事、徹底的に向いてないんじゃないかなぁ。

 

 「……お前がおかしいだけだっ。

  私は誰の前でもしっっかりと虎を被っていられてるんだぞっ。」


 ホントかなぁ。

 前世で捜査失敗してるくらいだから、

 有能とは言えないんだろうな。

 

 「……んとに。

  マジで調子狂うな、コイツは……。

  役立っちまってるのが腹たつなぁ。」

 

 それで言ったら、

 

 「まだ、おわってないの?」

 

 「だから、言えるかっ!」

 

 それはもう言ってるんだってば。

 

 はぁ。

 やっぱり、か。

 

 老害あたりか、違う震源地か。

 警戒を解くわけにはいかないな。


*


 あぁ。

 たの、しいっ。

 

 「満明。

  キャベツの千切り、できた?」

 

 「うんっ!」

 

 母さんと料理ができるなんて。

 母さん、まだ30代前半だもの。


 前世の職場の同僚の誰よりも綺麗な人と、

 一緒に料理ができるなんて、ありえない。


 ……なんだよ、な。

 綺麗、だったんだよ。

 だから、恥ずかしくて、素直になれなかったんだよ。


 そんな遠慮、まったく必要ない。

 いっぺんしななきゃ、わからなかった。


 ……絶対に、死なせない。

 死なせてたまるか。皺々の婆にしてやる。

 今わの際にいい人生だったと言わせてやるんだ。


 「ふふ。

  料理なんて、いつ覚えたの?」

 

 うっ。

 おじーちゃんはさすがにきついな。

 

 「ちかげさんがりょうりしてるのをみて、

  みようみまねで。」

 

 「そう。

  そういうことにしておこうかしら。

  ふふふ。」

 

 おたまを持っていないほうの手で

 器用に頭を撫でられてしまった。


 ……

 バレてるよな、絶対。

 ええい。もう後に引けるか。

 

 「おかあさんは、

  なんでお父さんとけっこんしたの?」


 俺の中で、最大の謎。

 聞きたくても聞けずに墓場に持って行かれた疑問を、

 真正面から、ぶつける。

 

 「えぇ?

  ……ふふ、そんなに聞きたいの?」

 

 「うんっ!」

 

 めっちゃ聞きたい。

 容姿からしてありえない組み合わせだもの。

 父さんフツメンが自殺してまで無理をしたのも、たぶん。

 

 「……

  そう、ね。

  まぁ、漢気、かな?」

 

 おとこぎ。

 

 「お母さんはね、

  言われたことをやることは得意だったけど、

  自分でなにかをみつけてやるのは苦手だったのよ。」

 

 えぇ?

 こんなに活動的で、なんでも自分からやりそうなのに。

 

 「バレーボールだって、誘われてやったようなものよ。

  私はほんとは、手芸部に入りたかったんだから。」

 

 うわ、意外めちゃくちゃバカ

 

 「ふふ。

  でも、手芸部に入ったら、

  きっと、体、いまより弱かったろうなって。

  だから、誘われるほうがいいのよ。」

 

 となると。

 

 「お父さんに、こくはくされたの?」

 

 「えぇ?

  ……ちょっと、違うかな。」

 

 ん?

 

 「お父さんはね、

  私を、護ってくれたの。」


 おっ。

 

 「いつ? どこで? どんなとき?」

 

 「あらあら、

  そういうところ、子どもね?」

  

 くっ。

 

 「ほら。

  味噌汁が煮たっちゃったわ。


  ふふっ。

  また、こんどね?」

 

 うわぁっ。

 こ、ここでお預けを食らうとはっ。


*


 ……

 

 え?

 

 「お、

  お、

  おん、なじ、クラス、だよっ!!」

  

 ……

 

 ほんと、だ。

 あきらめてたのに。


 まどかちゃんのいじめを隠した岩瀬朋子は存在せず、

 1年生の時から友達だった女子も一人、一緒にいる。

 なにより、俺が、一緒のクラスになった。

 

 世界は、変わった。


 躰の奥底から、ふつふつと、

 熱いものがこみ上げてくる。


 しかし。

 運命の小学3年生。

 

 まどかちゃんの命を奪おうとする者が、

 いつ、なんどき現れるか分からない。


 最大の警戒心を以て対応に当たらなけれ

 

 ……いや、

 そんな、世界の幸せを独り占めしたみたいな顔をして。

 口角もすっかり上がって、全国の親が垂涎する美少女に

 

 「あっ!」

 

 ん?

 

 え

 あ

 あぁ。

 

 「あ、あなたもおなじクラスなのねっ!」

 

 「そ、そうみたいだね。」


 な、なんでそんなテンション高いんだコイツ。

 めっちゃ綻んだ顔してるんだけど。

 

 っていうか、

 コイツ、ぱっつん髪をやめて、

 オデコ出すとこんな印象変わるのな。

 なんていうか、明るい感じになるわ。

 

 あぁ、眼が目立つから

 

 な、

 え、

 

 は??

 

 「………。」

 

 な、なんか、

 まどかちゃんが、文果をめちゃくちゃ睨んでるんだけど。

 

 「っ

  ………。」


 う、わ。

 

 一瞬だけひるんだ文果が、

 隠していた眼をギンっと開いてまどかちゃんを睨み返してる。

 

 「っぅ……

  んむぅ……っ!」

 「な、

  ぐ、ぐむむむぅぅぅっ!!」

 

 な、な……?

 こ、このふたり、朝っぱらからなにしてるの?

 

 !?


 って、

 っていうか、

 め、めちゃくちゃ女子から見られてるんですけどっ!


 「わ、わたし、

  か、かれに、

  だ、だきしめてもらったのよっ!」


 「!?」


 ぐ、はっ。

 あ、あれは、振られた無様さを慰めるための


 「わ、わ、

  わ、わたしはっ。」


 え?


 ま、まどかちゃん、

 綺麗な眼が、



  「み、み、みちあきくんと、

   き、キスもんっ!!」



 ……


 は、

 はぁぁぁぁぁぁっ!?



ピカピカの逆行転生は修羅場だらけ

序章②

(本編第1章につづく)

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