第13話
……
あっ、た。
でも、
なんでこんなトコにこんな店があるかな。
田舎あるあるっちゃそうだけど、
隣の区画、純然たる色町じゃないか。
それこそ中学生なら補導とかされそうだわ。
前世の末期ならネットで簡単に
あ、
れ??
「……。」
あの人、
こないだ、街の百貨店で見た人だよな。
知らん女の人と睨み合ってるけど。
「……。」
これ、別れ話?
っていう感じでもないっぽいんだけど。
「言っただろ。
こっちにはもう来るなって。」
「だけどっ。」
「見ての通り、僕はもう、あの家の人間じゃない。
きみにはなんの得もない。
一時の感情に身を委ねて、いいことはなにもない。」
「……っ。」
「……
さよなら、璃子。
元気で。」
「ばかっ!」
……
はあ?!
あ、アイツ、
小2の癖になんでこんなトコに
「ふ、文果ちゃん?」
「しゃしんっ。」
「?」
「て、てちょうに、
そのひとのしゃしん、
はさんでるでしょっ!」
「!」
な、なんだこれは。
なにを見せられてるんだ。
「す、す、
すき、なんでしょっ!
そのひとのこと、
わすれられないんでしょっ!!」
「……
文果ちゃん、
おとなにはね、
どうしても
「ないっ!
そんなの、ないのっ!!
こうかいしちゃ、だめなのっ!!」
な、
なんで。
そんな、涙を溜めた顔して、
どうして。
「おねがい。
おねがいだから、
すなおになってよっ。」
「……。
文果、ちゃん……。」
わら、
ってる。
わらおうと、してる。
失恋が、運命づけられているって、
最初から、わかって。
「……
ほらっ。」
え?
「こんなところまで、きたんでしょ?
ためらっちゃ、だめ。」
相手の女性にまで。
どうして、
どうして、そこまでして。
わらおうと、するんだ。
「……。」
「……
うん。」
退廃的な香りがする青年が、
一度だけ、文果の頭を撫でると、
相手の女性を、ふわっと抱きしめた。
「ぁ……っ。」
「行こう。
小さなレディに恥をかかせてはいけない。」
「……はいっ。」
……笑った。
嬉しそう、だった。
……
なんて、いうか。
「わかってたんだね。」
そんな、糸の切れた凧のように、
地べたに膝をつけてヘタってされてたら。
「……
そう、よ。
それは、
さい、しょ、から、
そう、よっ……。」
なん、だろ。
めっちゃぶざまでみじめな顔してるのに、
なんなら鼻水が垂れてるのに、
たまらなく、カッコいい。
「い、
いい、オンナっでいうのは、
好きな人のじあわぜをいのれるひとを
い゛う゛のよっ゛!!」
……損な性分だこと。
って、めっちゃ号泣してる。
こっちが泣かしたみたいになってんじゃねぇかっ。
でも、
その小さい胸のすべてを賭けて、
好きな人の幸せを、掛値なく、本気で、
全身全霊で祈りきるなんて。
……
ったく、もう。
小2でこんな派手な失恋すんなよ。
ここ、隣、色町だぞ?
……ん?
あの男、どこかで見たことあるんだけど。
確か、岩瀬朋子と一緒だった
……
涙と鼻水で顔中ぐしゃぐしゃじゃねぇか。
あぁ、もうっ!
「っ!」
*
「せんせ、
こないだ、まちのひろばでだれをのぞき見してたの?」
あ、お茶吹いてる。
うわ、派手に広がったなぁ。
「な、なんの話だっ!」
なんの話もなにも、
読んで字のごとくだけど。
「……
小2があんな街にいるんじゃねぇよ。
どうして補導されねぇんだよっ。」
まぁなぁ。
逆にされないんだわな。
あのへんに住んでる人の家族だと思われてるとか。
「……
お前には関係ないだろ。」
確かに。
関係はない。
ただ。
「せんせがつぶれると、
ともこちゃん、やってげないもん。」
「んなこと言ったって、
来年にゃ、私はいねぇぞ。」
え。
……っていうか、めっちゃ吹いた顔してるな。
喋るつもり、なかったのか。
「い、いいから、
お前、もうさっさと帰れっ。」
……
そこまで隠されると、とは思うが、
いまは帰ったほうがいいだろうな。
眼がちょっと、ヤバい感じになってるし。
*
……
あぁ。
あれが、滝川父、か。
どうしても警戒してしまう。
なんせ、児童虐待をしていた奴だ。
そんなのを学校内に入れるなんて、
気が狂ってると思われても仕方がない。
モンペの時代なら即死だな。
……
くそっ。
めちゃくちゃ丁寧に仕事してやがるな。
目立たない隅っこまで、わざわざ水拭きしてるし、
雑草をぜんぶ根っこから抜いてやがる。
誰も見てないところなのに。
……
馬脚を出すことを、どこかで望んでいる。
ほらみろ、やっぱりこういう奴だと。
隔離防犯思想は正しかったんだと。
でも。
そうじゃないほうを、
塵一つ分くらい、希望してしまっている自分がいる。
……
いやだ。
こんなふうに、感情を動かしてしまう自分が。
理屈のカケラも通じない糞野郎共に嬲り殺されたことを
ジクジクと思い出してしまう俺が。
あんな人生、
絶対に送らない。
母さんも、父さんも、
まどかちゃんも、絶対に護りきって
……ん?
誰か、が、
滝川父に、接触してる?
思わず、茂みに隠れる。
ほんとうに隠れられてしまうのが
……
チクチクして痛いし、へんな植物が
「……だ……ら、
わしはもう、やらんっ。
…とわった…ずだぞっ!」
……なんの話をしてるんだ?
い、いかん、
息を潜めないと。
「わしはあの校長の…んら…を、
死んで…まもる……
…だじゃおか…ぞっ!」
凄い剣幕だな。
暴力性、変わってないじゃん。
「…しは…う縁を切っ……じゃっ!」
「…う、うまく、いきますかねぇ?
カラダが……、震えちゃって……じゃないん……か?」
「……う……いっ!」
「……でも…まんするのは、
カ…ダにも、精神にも……ないですねぇ。
また息子さんに暴力を振るっちゃ…かも……ませんよ?」
「っ!?
か、かえってくれっ!!
警察呼ぶぞっ!!」
「ほう。
あなたが呼べる身ですかね。
呼べるものなら、どうぞご自由に。」
「っ!」
「……、よく考え…下さい。
……連絡先は、……ゆ…こ…ですよ。
……にあなたのためのものです。
では。」
……
去っていった、か。
あぁ、
なんか、膝から崩れ堕ちてる。
……
しょうがねぇなっ!
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