第11話


 2年のクラス内では、

 ちょっとした事件があった。


 「これで3台めよっ!」

 

 ……そういえば、携帯ゲーム機のブームがあったな。

 もうちょっとすると画面タッチして

 女性の髪をべったべた撫でられるゲームが流行るのか。


 「きんししてるのに、

  どうして持ちこんでくるのかしら。

  あたまおかしいんじゃない?」

 

 相変わらず強烈な口だなぁ。

 

 「それだけきょうれつにかんしんをひきよせるってことでしょ。

  あいてはきぎょうなんだから。

  こどもなんてあかごの手をひねるようなものだよ。」


 ボタンを押してからゼロコンマ一秒以下のタイミングまで

 どうすれば気持ちよくハマるかを精密に考え抜いているんだから。

 

 「あなたもこどもじゃないっ。」


 うわ。

 確かにそうだわ。

 発言、マジで気を付けないと。


 「……その、

  あなたはやらないの? ゲーム。」

 

 あぁ。

 前世ではさんざんやったけどなぁ。

 

 「やらないよ。」

 

 「どうして?」

 

 まどかちゃんを見たり、

 家の掃除したりで忙しいってのもあるけど、

 

 「ゲームであやつっているキャラクターのレベルが上がると、

  リアルのじぶんのレベルが下がるから。」

 

 「?」

 

 あぁ、コイツ、

 マジでゲームやったことないな。


 「えきしょうがめんをじーっとみてると、

  しりょくもおちるし、からだもがちがちになる。

  うんどうもしないから、にくたいぜんぶのレベルが下がる。」

 

 まさにレベルドレイン。

 

 「そ、そうなの。

  そんなの、なんでやるの?」

 

 「がめんのなかのキャラクターが

  ぐんぐんせいちょうするのがおもしろいんだよ。」


 「せい、ちょう?」  


 「うん。

  がめんのなかで、どんどんそだっていくし、

  できなかったことができるようになっていく。


  あたらしいせかいのとびらをあけられるし、

  ひとをたすけることも、ころすこともすきなようにできる。

  かみさまになったみたいにね。

  

  リアルでできなかったことができるようになるのはたいへんだし、

  どうやってそうなれるかもわかりづらい。


  たきがわくんだって、かしわばらさんのしりあいのひとが

  おしえてくれなければ、レベルはずっと1のままだよ。

  

  でも、げーむなら、

  リアルのレベルが1でも、

  げーむのなかは30にも50にもなる。

  たのしいわけだよ、すっごく。」

 

 「……

  そう、なの。」

 

 「で、げんじつにもどると、

  じぶんのレベルはまったくあがってない。

  それどころか、さがってる。

  

  だから、ますますゲームをやって、

  ゲームのなかでそだってるじっかんがほしくなる。」

 

 「だめじゃない、そんなの。」

 

 あぁ。

 マジで優等生ムーブだなぁ。

 

 「だろうね。

  でも、リアルは、ゲームみたく、

  そだちかたがわかるわけじゃないし、

  やったせいかがすうじになるわけでもない。


  たっせいかんがえられにくいし、

  まちがったけいけんをすればレベルがかえってさがっちゃう。

  だから、じっかんがつかめなかったり、

  つまんなくなるひともおおいわけ。

  

  リアルはクソゲーってことばもあるしね。」

 

 「……

  あなた、いつもおもうけど。

  へんなことにすっごくくわしいわね。」

 

 ……

 ぶぅっ!?

 

 「おとーさんがこどものころ

  そうだったらしいよ?」

 

 さ、さすがにおじーちゃんバリアは不自然すぎる。

 

 「……。」

 

 や、やばい。

 なんか絶妙に変な不信感を持たれてる。

 妙に眼が鋭いんだよなコイツ。

 

 「……

  ま、いいわ。

  そういうことにしておいてあげてもよくってよ。」

 

 ……絶対的に疑ってやがるな。

 とりあえず、笑ってごまかすしかないわ。

 

*


 「お前のクラスだけ、

  ゲーム機の持ち込みがぱたっと止まったらしいな。」


 柏原文果の脅迫の刃が

 いたいけな男子共をずばずば切っていったからなぁ。


 (あなたも、ちゅうがくせいになったら、

  たきがわくんよりおばかさんになるんだもんね

  かわいそう。ほんっとかわいそう)


 ……言い方がキツすぎるが。

 育ちのいい学区でよかったかもしれない。

 逆上する輩が出たら刺されてたぞ、きっと。

 

 ……逆に言えば、

 安からぬ携帯ゲーム機を子どもにホイホイと

 買い与えられるような連中が集まってるんだよな、ここ。

 俺は12歳で追い出されちゃったからなぁ。

 荒れまくった中学で大変だったわ……。

 

 「お前、こんどはなにをやったんだ?」

 

 「なにもしてないってば。」

 

 「用務員の件もお前だろうが。」

 

 そっちこそなんにも関係ないわ。

 

 「……

  ったく、もう。

  の株、不自然に上げるなよ。

  指導能力ついてないんだぞ。」

 

 あぁ。

 評判だけあがっちゃうわけか。

 それこそレベルが低いままになっちゃうかもしれない。

 声の良さで売りはじめた声優さんの末路とか。


 そういえば朋子ちゃん、

 最近ちょっと、ことば自体も揺らぐことが

 

 「まぁ、用務員の件は、

  こっちとしては助かるんだがな。」

 

 ん?

 

 あ。

 ちょっと焦ってる。

 これは言わないで済ませるつもりだったやつだな。

 

 よし。

 

 「ねぇ、せんせ。

  、なにをしらべてるの?」

 

 「っ!?」

 

 目に見えて焦ってるじゃねぇか。

 ボロが出てきたなぁ。

 

 「し、知らなくていいって言ってるだろっ。」

 

 「とうちょうき、ないんだよね?」

 

 「それとこれとは別っ。

  さ、もう帰れ帰れっ。」

 

 強引だなぁ。

 まぁ、こっちに関わってこない限りは、

 深く触れるつもりないんだけど。

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