第7話

 

 「ちかづきたいんだね、おしえてくれたひとに。」

 

 「お、おそわってなんかいないもんっ。

  わ、わたしがかってに……

  !?」

 

 あはは、しまったって顔してるなぁ。

 まぁ、小学校一年生だもんな。

 

 「かいせつしょをよむといいよ。」

 

 「え?」

 

 「それ、60年くらいまえのほんやくだから、

  そのままよんで、わからないのはふつうだよ。」


 俺も解説本を読んではじめてなんとなくわかったんだから。

 あぁ、行きたかったなぁ、大学。

 

 でも。

 

 「えらいね、ちょうせんするなんて。」

 

 それが、どんなきっかけであれ。

 

 「!

  あ、あっちいってくれるっ!?」

 

 あら、嫌われた。

 しょうがないなぁ。

 

 「!

 

  ま、まってっ。」

 

 え?

 

 「わ、わたし、

  かしわばらふみか。

  

  あ、あなたがどうしてもそうしたいなら、

  す、すこしくらいなら、

  はなしてあげてもいいわよっ。」

 

 おい。なんでお前のほうが偉そうなんだよ。

 っていうか、そういうこと言いそうなのって、

 立場的にはまどかちゃんのほうなんだろうけど。


*


 うわ。

 こういうイベントは想定してなかった。

 なにも言ってくれてなかったから。

 

 どうしよう。

 いいことなのかもし

 

 っ!?

 

 「ま、まどかちゃん?」

 

 い、いきなり抱き着いて来たけど。

 

 「か、か、かえろっ。」

 

 い、いや。

 

 「い、いいの?

  おともだちじゃないの?」

  

 まどかちゃんのクラスなのか、

 女子二人が、興味津々といった体で、

 こっちを見つめている。

 

 「い、い、いいのっ。」

 

 ……

 まぁ、そう、言うなら。


 「いじめられたりしてないね?」

 

 「な、ない。

  そんなこと、ない。」

 

 それなら良かったけど。

 

 あぁ。

 なんか、感情表現の豊かさ、全然違うな。

 やっぱり、無表情だったのは閉じ込められてたからなのか。

 

 うーん。

 っていうか、ほんと、可愛いな。

 眼、ぱっちりしてるし、形もいい。

 ロリ趣味があったらやばかったかもしれない。

 

 まぁ、まどかちゃんは私立中学とか行きそうだから、

 小学校のうちだけなんだろうけどな。

 今回の一生の運をぜんぶ使っちゃってる気がするけど、

 後半生、大丈夫かな。


 あぁ。

 

 顔を覗き込むように見上げてくる笑顔が、

 ほんとに、眩しい。


 うん。


 この娘の命、

 絶対、護る。


*


 ……

 やっぱり、か。

 

 100点取れるのが当たり前のテストで

 20点も取れてない。

 偏差値帯で言えば、35を切るレベルだろう。


 で、そういうものを、

 机の中にぐちゃぐちゃに入れてるってことは、

 これを家に持ってったらまずい、

 っていうことくらいは分かるわけか。


 っていうか、

 自分の名前の字もまともに書けてないな、これ。


 さて、どうすべきか。

 

 朋子ちゃん担任はきっと、

 分かってて放置してるんだろうしな。

 養護教諭もさすがに忙しいだろうし。


 それなら。

 

 ……

 いちか、ばちか。

 賭けるなら、ここだ。


*


 「え。」

 

 「だから、いるんでしょ。

  かしわばらさんのしりあいに。

  

  だいがくせいか、だいがくいんせいのしりあい。

  むずかしいてつがくしょ、おしえてくれたひと。」

 

 「い、い、

  いるけど、どうして。」

 

 「あのね?

 

  たきがわくんにも、

  べんきょうをおしえてくれないかなぁって。」

 

 「は?」

 

 「ひみつ、まもれる?」

 

 「……

  わたしをだれだとおもってるの?」

 

 「それなら、これ、

  かしわばらさんだけだよ。」

 

 「い、いいわよ。

  ……

  

  え゛」

 

 穴が開くほど見てるな。

 こんなもの、見たことないんだろう。

 

 そりゃま、信じられないわな。

 この娘も100点以外取ったことなさそうだから。

 

 「じっしつ、ぜろとおなじ。

  あてずっぽうでかいてるだけだから。」

 

 「……。」

 

 「たぶんだけど、

  ごじゅうおんをりかいしてない。

  

  ぼくたちは、

  ちょっとできないひとにおしえられるけど、

  なんにもわかってないひとにおしえるのはむりだよ。」


 「……。」

 

 「だから、

  そうだんしてみてくれないかなぁ。」

 

 「な、なんでわたしが。」

 

 ここ、だ。

 

 「はなせるよ。」


 「え。」

 

 「くらすのできのわるいこをしんぱいするじょしって、

  としうえのひとからは、こうかんどたかいとおもうな。」

 

 「そ、そ、そうかしら。」

 

 「うんっ。」

 

 「そ、それなら、

  ちょっとだけ、かんがえてもよくってよ。」

 

 ちょろっ。

 めっちゃ将来が不安になるな。

 勉強だけしてきたホスト通いとかにならんかしら。

 

*


 「で、くだんの本人は、

  御菓子で釣ったわけか。」

 

 「うん。

  うち、かえりたくないだろうし。」

 

 虐待されてるんだったら、なおさら。

 

 「……ったく。

  ほんと、お前、

  こまっしゃくれたガキだなぁ。」

 

 「だって、ともこちゃんにはむりだよ。」

 

 「お前なっ。

  

  ……

  その、春間。

  お前、さ。」

 

 「うん。」

 

 「これ、なにが狙いなんだ?」

 

 ん?

 

 「いや、言っちゃなんだが、

  成績が悪いガキなんて、もっといっぱいいるし、

  態度の悪い奴なんてもっとやばいのもいる。

  どうして、滝川友行をするんだ?」

 

 あぁ。

 確かに、説明がつかないな。

 

 「ともこまどかちゃんのためだよ。

  だって、ぼくのくらす、しっぱいしたら、

  しどうりょくがないっていわれて、

  ねちねちいじめられるんでしょ?」

 

 「……まぁな。」

 

 「そしたら、

  おしえるの、とらうまになって、

  でも、たぶん、やめられないから、

  せいとにきつくあたるせんせいになるじゃない。」

 

 「……。」

 

 「そういうひとと、

  あとごねんかんで、いちどもあたらずにすむ、

  っていうかのうせいはひくいかなって。」

 

 「……

  迂遠すぎるな。

  絶対、なにか、隠してんだろ。」

 

 はは、さすが、騙されないなぁ。

 まぁ、当たりなんだけど。

 なら。

 

 「それ、せんせもでしょ。」

 

 「っ。

  うっさいな、もう。」

 

 隠しごとがあること自体は、

 隠す気、なくなってるな。


 さて、と。

 次に向かいますか。

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