第4話
黛家では、
夫婦間で話し合いが行われたらしく、
美人局の件は一夜の過ちで落着したらしい。
なんで知ってるのかって?
「ほんとに、これぎりよっ。」
昼ドラおままごとの再現性が高すぎるから。
絶対見てたんだろうなまどかちゃん。
「わ、わかった。
わかったって。」
「どうかしら。
あなたはすきだらけだものね。
ふふっ。
ま、いいわ。
しっかりはんせいしなさいっ。」
「は、はいっ。」
な、なんていうか、
最後、目つきがちょっと怖かったな。
いかに可愛かろうとあの眼をされたら怖いわ。
……
とりあえず、関係修復の糸口はできた。
あとは小3まで適宜経過観察すればいい。
と、なれば。
こっちに、
手を、つける時だ。
*
「……
それは、かまわないけど、
ほんと、そんなこと、誰から聞いたの?」
「おじーちゃん。」
「……
どちらのかしら。
まぁ、いいわ。きみの言う通りね。
そういうこと、もっと早く教えて欲しかったわね。
そう。
母さんの就職先の斡旋だ。
もちろんホワイトな先。
千景さんは名門、黛家の娘。
実益のまったくない音大を出て、
こんな豪奢な家の専業主婦になるくらいだから、
実家にはカネがうなるほど有り余っている。
乞食ではないから、カネを求めるような真似はしない。
でも、コネは求める。
父さんが自殺をしたのは
家のローンが払いきれなかったから。
ふつうの専業主婦のアルバイトでは支えられないくらいの額。
でも、フルタイムワークの兼業主婦なら、条件が違ってくる。
「でもね、満明君。」
「うんっ。」
「……ふふ。
まぁ、きみにならいいわ。
お父さん、反対すると思うわよ?」
は?
……あぁ。
「ぷらいど?」
「ふふ、そうよ。
そう。
ほんときみは賢いわね。
中に大人でも入ってそうね。」
「?」
「その顔、ほんとかしらね?
ふふふ。」
やべぇな。〇ナ〇君が剥げてる。
そのうち覆い隠せなくなるかもしんない。
だと、すると。
*
「ねぇ、お父さん。」
「ん、なんだ?」
……
もう、前兆は出てるのか。
眼がちょっとやばい感じになってるもんな。
やべぇやつアンテナは前職でさんざっぱら培っちゃったもんだから。
でも、まだ、正気だ。
ステージ1の癌なら、患部を摘出すればいいだけ。
だから。
「うつわのおおきい人のじょうけんってなに?」
「ん?
……どこで聞いたんだ、また。」
「おじーちゃん。」
「……はは。
言いそうだな。」
ほとんど記憶ないんだけど。
「うん。
で、じょうけんって、なに?」
「……
怒らない人、かな。
人に何か言われても嫌な顔をしない人。」
こういうときにカネの話とかしないのは、父さんらしい。
「お父さん、うつわのおおきい人?」
「……
そう、ならなければいけないな。」
よし。
まだ、修羅の道に堕ちてはいない。
正気を残してるうちに、一気に畳み込む。
「じゃぁ、
おかーさんがはたらきにでても、おこらないよね。」
「……え。」
「おじーちゃん、いってたよ。
いえのろーん、たかあきくんひとりでだいじょうぶかって。」
「っ!?」
これ、クリティカルだったか。
ほんとに言われてたりしてたのか?
「お父さん。
お父さんは、すごいんだよ。」
俺にはないわ、こんな決断力。
家族もそうだけど、家のローン背負う勇気なんてまったくなかったわ。
「でも、お父さんがしんじゃえば、
だれも、おかあさんのそばにいないんだよ。」
「……そんなこと、ないぞ。
おかあさん、綺麗な人だから、きっと。」
バカがっ。
「
「っ。」
「おかあさん、ずっと、お父さんのことしかかんがえてなかった。
お父さんいがいの人なんかに、なびかなかった。」
……ん?
!
!?
や、やべっ!
「で、でしょ?
い、いままでも、これからも、だよ。」
心の中に溢れる滝汗を必死に隠す。
万が一のことがあっても、言い間違いで押し切る。
「……。」
考えてる、か。
わが父ながら素直な人だわ。
だから立ち行かなくなって自殺したんだろうけど。
なら、
先廻るまで。
「それとも、
おかあさんのほうがいっぱいかせげると、
おっとのちいがふあんになるの?」
「っ。
ど、どこでそんな言葉覚えてくるんだ。」
「おじーちゃんっ。」
「……。
いつのまになに教えてるんだよぉ……。」
……はは。
リアルのほうはもうボケてるんだけど。
そろそろ肺がんで死ぬんだっけな。
*
「県の外郭枠。
公務員よりちょっと少ないくらい、かな。」
マジすげぇな黛家。
男女同権、パートの四倍。福利厚生つきだ。
「ぼーなすもでる?」
「あぁ、出るわよ。公務員準拠だもの。
……きみ、なんでそんなこと知ってるの?」
「おじーちゃん。
あと、おとーさんもいってた。」
「……
はぁ。
まぁ、いまさらよね。」
「いまさらいまさら。」
「……
眼が可愛いのが憎たらしいわね。」
はは。
なら。
「ちかげさんっ。」
「……なに?」
31年分。
衷心より感謝を込めて。
「ほんとに、ありがとうっ!」
「っ。
……
た、
大した、こと、ないわ。
私の力じゃ、ないんだし。
……
演技だとしたら、とんでもない子ね。」
「?」
「その顔よ、その顔っ。」
……いつかゲロしちゃいそうだな。
「はぁ。
いいわね、仕事、できるって。
私なんて、音大なんか出ちゃったもんだから、
潰しが効かないのよ。」
あぁ、音大はそうだろうなぁ。
「もうからないもんね、ピアノの先生。」
「そうよ。
って、なんで知ってるのよ、そんなこと。」
やべ。
さすがに爺さまは喋らないな。
「ともだちのピアノの先生の家、
ふつうの家だったもん。」
「……
きみ、ふだんからそんなこと考えてるの?」
……はは。
さすがにちょっと苦しいよな、これは。
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