第3話


 「なんだぁ。

  ちゃんとはたらいてるんだねー。」

 

 「!?」

 

 うわ。

 はは、めっちゃ驚いてる。

 

 「けいびの人、せめないでね。

  ぼくのかくれんぼが上手なだけだから。

  ほら、あそこの下にいたんだよ、ずっと。」

 

 社員席の机の下に隠れ続けてられるっていうのも、

 小学校一年生ならでは。

 監視カメラから完璧な死角になる。

 

 「ぼく、

  まどかちゃん家のとなりにひっこしてきました。」

 

 「ま、まどか、だとっ?!」

 

 「うん。

  おじさんの娘、でしょ?

  だいじなだいじな。」

 

 「……。」

 

 やっぱり、邪見にしてるわけではない。

 こっちも、不器用なだけ、か。

 

 「おばさん、おじさんのこと、

  だいすきだって、

  まどかちゃん、言ってたよ?」

 

 「は!?」

 

 「あはは、

  うそ、いってないってば。

  

  おたがい、すなおになれないんだよね?

  うちのおじーちゃんとおばーじゃんみたい。」

 

 架空のジジババを登場させナチュラルさをアピール。

 手遅れなくらい不気味だけどな。

 

 「……。」

 

 「それだけじゃないでしょ。

  ねぇ、なにがあったの?」

 

 不自然なうわめづかい。

 めっちゃ〇ナ〇君だわ。

 

 「……。」

 

 これ、ほんと直観なんだけど。

 家探しした時の感覚と、

 この職場の中での印象を合わせるなら。

 

 「ひょっとして、つつもたせ?」

 

 「ぶっ!?!?」

 

 あぁ、やっぱりそれか。

 だって、この人、浮気相手と継続して繋がっている感じが、

 全然しなかったもんな。

 

 「あはは。

  おじーちゃんそっくり。

  やっぱり、いいづらいよね?」

 

 そりゃだれにも言えないわなぁ。 

 かえって恥ずかしいもの。

 特に、社内には、絶対に。

 

 「き、きみは一体、

  何者だね?」

 

 ふふん。

 いい眼をして、キメてやる。


 「はるまみつあき。

  ただの小学一年生さ。」

 

 断じてそれ以上のものではない。

 絶対的に不気味だろうけど。

 

 「……。」

 

 「ねー、おじさん。」

 

 「っ。

  ぼ、僕はおじさんではないよ。

  まだ32だ。」

 

 小1から見れば立派なおじさんなんだけど、

 その抵抗感はめっちゃわかるわ。


 ということは26で第一子か。

 俺より長生きして人生順調じゃねぇかオイ。

 

 おっと、嫉妬はそこまでだ。

 

 「おじさん、車、のせてって?

  この時間だと、かえり、まっくらだし、

  よなかにそとでちゃだめって

  おかーさんに言われそうだし。」

 

 「……

  ここまで大胆なことをして、

  よくそんなこと言えるね……。」


 確かになぁ。

 なんせ、駅向こうまで6キロ歩ききったんだからな。

 小1のテリトリーじゃ絶対ないわ。

 

 「おしごとはまってくれるけど、

  かぞくはまってくれないよ?」


 「……

  ふつう、逆なんだけどね。」

 

 「ぎゃくじゃないよ。

  おじーちゃん、それでわかれちゃったんだから。」

 

 「……。」

 

 「しごとなんていっぱいあるけど、

  おんなはほしのかずほどいない、だって。」

 

 っていうか、改めて見ると、憎らしいくらい端正な顔よな。

 まどかちゃんの父親だもんな、当然か。

 遺伝子ちょっと分けてくんねぇかなぁ。

 

 「……

  はぁ。

  わかったよ。しょうがないな。」

 

 「やったぁっ!」

 

 「……

  いまさら無邪気なフリしても無理だよ。」

 

 うわ。

 ま、そりゃそうか。

 っていうか、思ったよりずっと砕けた人じゃん。


*


 え゛

 

 「あそびにきた。」

 

 ま、まどかちゃんが、

 こっちに、来る?

 

 「おかあさんが、そうしろって。」

 

 ん?

 

 「……

  その、

  おとうさんと、おはなし、するんだって。」

 

 あ、あぁ。

 聞かれてるの、バレてたわけか。

 

 「……。」

 

 い、いかん。

 背景の場違い感ブロック擁壁が凄まじい。

 父さんにとっては身分不相応でも、

 まどかちゃん家の資産とは桁が二つ違う。

 

 「と、とにかく、入って?」

 

 「うん。」

 

 中も、変わらないけど。

 

*


 「あら。」

 

 うわ。

 母さん、めっちゃ見てる。

 

 「あらあら、可愛い娘ね。

  おともだち?」

 

 え?

 

 「うんっ。」

 

 あ。

 まどかちゃんにお友達認定されてるんだ、はるまみつあき君。


 「そう。

  満明のお部屋にあがるのね。」

 

 「うんっ!」

 

 ……なんでそんな満面の笑みなんだ?

 まぁ、めちゃくちゃ可愛いからなんでも許しちゃう。


*


 「みつあきくんのいえなら、

  おそと、でてもいいって。

  おかあさんが。」

 

 完全な戒厳令だったんじゃねぇか。

 軟禁もいいところだな。

 

 なんていうか、千景さん、プライド高そうだからなぁ。

 公園とかで失態があったら許せないんだろう。

 ああいう人は生きていくの大変そうだな、いろいろ。

 

 って。

 

 なんでそんな上機嫌なの。

 

 「おそと。」

 

 あぁ、外に出られたから、か。

 

 「……。」

 

 ん?

 

 「このかいしょうなしっ。」

 

 は?

 って、顔、赤くなった。

 なんだこりゃ。

 

 「だ、だっこしてっ。」

 

 え?

 

 「こ、こないだみたいなの。」

 

 あ、あぁ。

 っていうか、そんなことしてないけど。

 

 えぇ?

 うーん、そう言われても、

 やったことな

 

 ぶっ!

 

 だ、だっこしてき

 

 がちゃっ

 

 「!?」

 

 「……

  あらあら、おじゃまだったかしら?

  最近の娘はおませさんねぇ。」

 

 「!!?!」

 

 「ふふふ、

  どうぞごゆっくり。」

 

 がちゃっ

 

 ……

 

 「の、のむ?

  オレンジジュース。」

 

 果汁30%のやっすいやつな。

 

 「……

  のむ。」

 

 飲むんかい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る