第12話 過去から未来へ
「それは自分で選べ。
生きて我らに着いて来るなら戦えたほうがいい。お前を守ってやることは、私には約束できない」
ジルの言葉に、サレハは眉根一つ動かさなかった。
「戦時と同じか」
「そうだ」
ジルの目つきが鋭く変わった。
立ち上がると剣を振る。剣筋は早く、乱れがない。
剣の扱いには慣れているようだ。
「軽いね、見た目通り。思ったより短い」
と笑った。
「せっかくなら盾もあるといいんだけど」
とナギルが言った。
「軽装だし、これを振るう前に逃げるよ。今は衞るものもないし。
自分が戦う前に、エラムの帝国兵たちが守ってくれることに期待してるよ」
茶目っ気のある笑顔を見せるジルに、ナギルは黙って頷いた。
サレハもナギルと同じ思いのはずだ。
「何それ?もらったの?」
戻ってきたクレメンテがジルを見て言った。
「使えるわけ?」
「チャラいヤツを倒せるぐらいには、多分」
「へー。オレ、チャラくなくてよかったわ」
剣を握ったままのジルに言いながらクレメンテが座る。
「『チャラい!!!』って言われたくせに……」とブツブツ言いながら隣に座るジルには構わず話を続けた。
「で、決まった?どっち行くか。名前、忘れたけど、ポポポーン的な」
「いや、まだだ。ナギルはどう思う?」
サレハが尋ねた。
――サレハの意見があれば言ってくれたらいいのに……
ともナギルは思った。
しかし、ナギルは素直に答えた。
「エラムを出なきゃダメかな?僕は
これまでの話の方向性から覆す意見だが、本心を言うことにした。
言わなければ、取り返しがつかない。後悔したくないと思った。
「サレハにはここまで逃がしてくれて礼を言いたい。ありがとう。ここまで来たのも間違いではない。将軍の命だ。間違いない。
……でも、僕は
僕はあの時、サレハとともにヨジエにいた。それが真実だ。ヨジエにいた兵士も……タサにいた人間なら誰もが知っているんだから、僕は父の命を奪った人物を確かめたい。
それに、母の安否も確かめなければならないと思っている。母を放っては行けない」
サレハは黙っていた。
モヘレブまでの道中、ナギルは初めての口にした意見だ。尊重したい。
「……ごめん。サレハも将軍が心配だよね」
「ご心配には及びません。私の父は悪運も強い。殺されても生き延びてるはずです。これしきのことで簡単にくたばるような父は、もはや私の父ではありません」
「そりゃそうだろうな、お前の親父なら」
クレメンテは苦笑した。
街なかで鴨を捕まえて食料にするサバイバル能力は見習いたい。
「サレハの親父さんがあのイスマーン将軍ならは、ナギルの親父さんってのは太守?モフセンからエラムが撤退するってのに、暗殺されたからって聞いたけど」
ジルの疑問に、ナギルは頷いた。
「あのイスマーン将軍なんだ?」
「そ、モフセンでも有名だった。戦場の鬼だったから」
「……鬼だったな」
「鬼だったね」
自分が何気なく発した一言で、他の三人が遠い目をしているのに、クレメンテは蚊帳の外だ。平和な島国でヌクヌク生まれ育った自分は幸せだったのだと思い知る。
「じゃあ、これからどうする!?結局」
戦場での思い出もあるだろうが、これからのことを考えたほうがいい。
クレメンテは話題を変えるように促した。
「……タサに戻っちゃダメかな?
ヨジエから逃げてきたから、タサの様子は気になってるんだ」
ナギルの言葉に
「帰還前に情報収集が必要と考えます」
とサレハが意見した。
「言葉は改めなくていいよ、これまでと同じがいい。あれは居心地がよかったから。昔はそうだったでしょ?」
「……承知した」
「まだ、堅いな」
ナギルが笑ったのに、サレハはバツが悪そうに腕を組み、首を捻った。
「じゃあ、情報収集しながら東を目指して、入れるようならタサへ。ダメならセロヒへ行くってのでどうかな?」
セロヒはタサの南にある都市だ。
広大な湿地帯を挟んでウェセロフ帝国と隣接している。
「ネブーゾさまのところですか」
ナギルは頷いた。
「母の安否について、お祖父さまなら分かるかもしれないし、久しぶりに顔も見たいよ。僕は生きてるよって元気な姿も見せなきゃね」
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